▽新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2019年12月(もっと以前?)に中国武漢市で確認され,その後またたく間に世界各国へと爆発的に拡大、蔓延しました。すでに2億2千万人を超える感染者が発生しました。数多くの人命が奪われ、莫大な経済損失をもたらしています。
▽2020年2月の中国の春節のころ、多数の中国人が日本に観光にやってきていました。中国人観光客に人気だった北海道の札幌雪祭りの閉幕直後から、日本での感染拡大が報じられていました。日本の防疫体制はどうなっていたのか、厚生行政は何をしていたのか。その責任を問いたい気持ちは、強まりこそすれ、弱まることはありません。
▽前置きはこれくらいにして、本論に入ります。
この厄介なウイルスですが、電子顕微鏡でウイルスを観察すると,全体がちょうど王冠(ギリシア語でコロナ)のような形状に見えます。そこから「コロナウイルス」と呼ばれています。ウイルス表面に数十本の突起状のとげ(スパイク)の様なものがあるのは、ご存じでしょう。
▽ウイルスのヒトへの感染を支配するのは、このスパイク構成タンパク(S タンパク質)です。これらのスパイクが,ヒト細胞の表面にあるアンジオテンシン変換酵素II(ACE2)に結合することで感染が始まります。COVID-19は、このスパイクタンパク質を用いて細胞のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合し感染するので、この酵素がレセプターと呼ばれているようです。
▽さて、そもそもアンジオテンシンとは一体何者なのでしょうか?アンジオは血管を意味します。テンシンは緊張の意味です。「テンションがあがる」という使い方は、よくされてますよね?
アンジオテンシンは、血管を緊張させる、収縮させるホルモンで、主に肝臓でつくられるタンパクのアンジオテンシノーゲンからつくられます。
▽その過程を簡単に説明します。アンジオテンシノーゲンは、腎臓に存在する酵素レニンの作用でアンジオテンシンⅠ:アンジオテンシン(1-10)になります。アンジオテンシンⅠは、主に肺でアンジオテンシン変換酵素(ACE1)の作用でアンジオテンシンⅡ(1-8)に変換されます。アンジオテンシンⅡは強力な血圧上昇作用があります。
▽ACE2は、もう一つのアンジオテンシン変換酵素ACE1と構造が類似していますが、実は別物です。ACE2は、ACE1によって生成されたアンジオテンシンIIからアンジオテンシン-(1-7)へ変換させます。
ACE2の働きで出来たアンジオテンシン-(1-7)の働きは、アンジオテンシンⅡの血圧上昇を逆に抑制すると理解されています。
▽同時にACE2はアンジオテンシンⅠ:アンジオテンシン(1-10)のC端のアミノ酸を切断し、アンジオテンシン-(1-9)に変換させます。アンジオテンシン-(1-9)はACE1の働きで、そのC端の2つのアミノ酸が切断されてアンジオテンシン-(1-7)になるルートもあります。
▽結論的には、COVID-19に感染すると、ACE2が破壊されるため、アンジオテンシンⅡの血圧上昇を抑制するアンジオテンシン-(1-7)が出来なくなり、高血圧の合併症が起こると推定されます。
補足
アンジオテンシンⅠ、Ⅱの番号はアミノ酸の数です。アンジオテンシンⅡはアスパラギン酸から順次8個のアミノ酸が8つ結合したホルモンンいわゆるペプチドです。即ち、1-8の1のアミノ酸がアスパラギン酸なのです。1をペプチドのN-端、8をC端と呼びます。アンジオテンシンⅡの血圧上昇の働きは、この1.のアスパラギン酸が必須です。我々は1981年、アンジオテンシンⅡのN-端のアスパラギン酸を選択的に切断する酵素「アミノペプチダーゼA」が、ヒト胎盤に存在することを突き止めました。
アンジオテンシンⅡの血圧上昇作用はアミノペプチダーゼAの作用で消失します。