▽前回のブログで取り上げた「高齢女性に対するホルモン療法は危険」とするNIH(米国衛生研究所)の報告についての続報です。

 

NIH(米国衛生研究所)は2002年、高齢女性へのホルモン療法は、心血管疾患や脳卒中、浸潤性乳癌の発生リスクを高めると報告しました。当時、ホルモン療法は、更年期女性の健康に好影響を与え、動脈硬化の予防にもなると推奨する内科医も多かったのです。しかしNIHの論文発表を契機に、ホルモン療法は世界的に下火になっていきました。

 

▽続報の内容は、この報告の根拠とされた論文が、がんや心血管疾患、脳卒中の原因になっていないと打ち消しました。米国マサチューセッツ州のブリガム・アンド・ウィメンズ病院予防医学部門長でハーバード大学公衆衛生学部のJoAnn Elisabeth Manson(ジョアン・エリザベス・マンソン)疫学教授らは、NIH報告の基になったエストロゲン(CEE)とプロゲステロン(MPA)の併用投与によるホルモン補充療法と、エストロゲン単独投与によるホルモン補充療法の参加者50-79才の閉経女性2万7347例を、研究中から2014年まで18年間追跡した結果を詳しく分析しました。

 

▽その結果、2つのホルモン補充療法は、全死因死亡、心血管疾患死、がん死のいずれでも関連性は認められませんでした。米国医師会雑誌(JAMA)912日号に掲載されています。死亡に関するフオローアップデータは、98%超を入手して分析しています。

 

▽詳しい内容をご紹介する前に、まず統計用語の「コホート研究」と「ハザード比」を説明します。

コホート研究は、特定の集団の人達を対象に、長期間にわたり、その人達の健康状態と環境など様々な要因との関係を調査します。

ハザード比は、結果(アウトカム)が発生する割合を示す相対的な指標、いわば「相対的な発生率」です。ハザード比が0.9なら「10%減少」、1.5なら「50%増加」という意味です。

またサンプリングしたデータの結果を全集団にそっくり当てはめると、誤差が生じます。その誤差を計算したのが95%信頼区間です。この信頼区間が1をまたぐと「有意差なし」、1よりも小さいと「リスク減少」、1よりも大きいと「リスク上昇」となります。

 

▽さて、結果はどうだったのでしょう。全プールコホートの解析で、全死因死亡率は、ホルモン療法27.1%、非ホルモン療法群27.6%(ハザード比0.99、95%信頼区間0.94-1.03)でした。ホルモン療法は死亡リスクを減少させているのです。

 

CEEMPAの非ホルモン群の比較では(ハザード比1.02、95%信頼区間0.96-1.08)となり、2%リスクを増やしています。前回のブログで、北米更年期学会の新しいホルモン療法(Hormone Replacement Treatment)の方針をご紹介しました。方針策定チームのメンバーの1人、米フロリダ大学産婦人科のAndrew Kaunitz(アドリュー・カウニッツ)教授は「エストロゲンとプロゲステロンの長期投与は、乳がんのリスクも考えられる」とコメントしていますが、今回の分析がコメントの背景にあるのかもしれません。

 

ホルモン補充療法でごくわずかに癌のリスクがあるかも知れないが、トータルの死亡リスクは下がります。リスクとベネフィットを考えれば、いたずらに問題視するまでもないと言えるでしょう。

▽一方、CEEの非ホルモン群との比較では(ハザード比0.94、95%信頼区間0.88-1.01)で、CEE単独のホルモン療法はリスクを減少させています。

▽心血管疾患死のプール解析(複数の研究の元データを集めて再解析する手法)は、ホルモン療法群(8.9%)対非ホルモン群(9.0%)のハザード比1.00(95%信頼区間0.92-1.08)で、ホルモン療法は何の影響も認められていません。

▽全がん死のプール解析では、ホルモン療法群(8.2%)対非ホルモン群(8.0%)のハザード比1.03(95%信頼区間0.95-1.12)で、リスクを3%増やしています。

▽その他の主要な死因による死亡のプール解析では、ホルモン療法群(10.0%)対非ホルモン群(10.7%)のハザード比0.95(95%信頼区間0.88-1.02)で、リスクを減らしています。

▽ちなみにManson教授は2011年から2012年に北米更年期学会の会長でした。