前にもお話ししましたように、胎盤とは子宮の中の血液プールに浮かんだ島のようで、その島の中央に木(臍帯)が1本はえていて、その根からプールの“母体血”の中の栄養や酸素を吸い上げて、木の頂上の胎児へ送り込んでいます。

また、胎盤が浮いているプールの血液量は、その容器である子宮が収縮したり、プールへ注ぐ水道(動脈)の蛇口がひねられると減少します。蛇口をひねるものは、胎児がストレスに反応して過剰に作ってしまうホルモンである可能性をお話ししました。このプールに一定量の血液がたまっていることが、妊婦の血圧を一定に保つのに重要なことも話しました。

もし、あなたに妊娠中毒症の症状が出てきたら、まず第一にするべきことは安静です。心身ともに安静にすると、筋肉や他臓器へ流れていた血液が効率よく胎盤プールのほうへ流れるようになり、胎児への酵素や栄養分の供給がうまくいくようになります。


 胎児のストレスホルモンであるバゾプレシンは、子宮や動脈を収縮させ、胎盤の血液プールの貯血量を減少させます。私は、胎盤にはこれらのホルモンを破壊し、その作用を消失させる物質があることを考え、少し調べてみました。それは胎盤の酵素で、妊娠が順調であれば皆さんの血液の中に、その酵素が増えてきます。血液を少し採れば簡単にその酵素量が調べられます。私は、胎盤プールの状態を調べ、妊娠中毒症の予知を行う検査として、妊婦健診の時その酵素を測定しています。
 妊娠中毒症の予防の決め手になる方法はありません。定期健診をきちんと受け、ふだんから過労を避け、バランスのとれた日常生活を心がけることが大切だと思います。


ホームドクターすこやかに”愛知県医師会編 1993年9月1日毎日新聞社発行の分担執筆妊娠中毒症から編集