▽生命の誕生である妊娠時疾患の妊娠高血圧症と晩年時のアルツハイマー病。この2つの疾患は、どちらも難病という以外、もう一つの共通項があります。ここは大切なところです。

▽さて、鳴り物入りだったアルツハイマー病の新薬開発が相次ぎ中止され、研究の方向性を疑問視する声が上がっています。一方で、これまでのアルツハイマー病研究で見逃してきたのは何だったのか。その原因探求は一度リセットする必要があるようです。

▽アルツハイマー病の原因は、「コリン仮説」と脳内のβアミロイド蛋白の蓄積説があります。「コリン仮説」は、アルツハイマー病の大脳はアセチルコリンという神経伝達物質が減少しているために起こるという古くからの説です。世界で広く使用されている『アリセプト』という薬剤は、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害し脳内のアセチルコリンを増やす作用があります。

▽βアミロイド蛋白蓄積仮説は、比較的新しい学説です。アルツハイマー病患者の脳内にはβアミロイド蛋白が蓄積する事が明らかでした。神経細胞が死滅するためβアミロイド蛋白が蓄積すると考えられています。

▽アルツハイマー病患者の脳内のセロトニンやアセチルコリンといった神経伝達物質が、低下しているとの考えから、アルツハイマー病の治療に、脳内のセロトニンを増やすセロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)も使われています。SSRIはうつ病治療薬として知られています。

▽これらの仮説に立って、夢の新薬と期待されていたのが、大塚製薬とデンマークのルンドベック社が共同開発したIdalopirdineというコリンエステラーゼ阻害薬とSSRIを抱き合わせた薬です。

脳内で増加したβアミロイド蛋白は血中に排出され、脳内と血中の濃度は一定のレベルになるとされています。そこで血中のβアミロイド蛋白を減少させれば、脳内で増加したβアミロイド蛋白が低下し、アルツハイマー病の進行を押さえる薬剤開発が行われてきました。米Eli Lily(イーライリリー)社が開発した抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬のsolanezumabSKZ)は、その一つです。

▽ところが、本年両剤には、アルツハイマー病の治療効果が認められないとする報告が、世界的に有名な雑誌に発表されました。Idalopirdineは「Journal of the American Medical AssociationJAMA)」の今年19日号に、solanezumabは「New England Journal of Medicine」の125日号に、それぞれ掲載されました。

▽私は、アルツハイマー病の門外漢でほとんど専門知識は持ちません。ただ言えるのは、脳内のβアミロイド蛋白が蓄積する、アセチルコリンが減るという事象は、アルツハイマー病の原因ではなく、結果を見た判断ではないでしょうか。以前から考えていましたが、結果から疾患の治療薬は生まれません。治療薬の開発に最も大切なのは、原因の究明です。これを放置したまま、原因不明のままでは有効な治療薬は期待できません。

▽私見ですが、脳内に蓄積したβアミロイド蛋白は、高血圧症や加齢に伴う疾患により脳組織が損傷された結果として脳内に蓄積していく蛋白の一つではないでしょうか。事実、アンジオテンシン受容体阻害剤を降圧剤として使用された高血圧症の患者は、アルツハイマー病のり患者が少ないことが明らかになっています。

▽アルツハイマー病治療薬の開発には、世界中の多くの研究者が携わり、膨大な開発費が消費されています。しかし何度も指摘するように。原因を解明することなく、結果を基にして薬剤開発を進めても、徒労に終わる公算が大きいでしょう。それは妊娠高血圧症の治療薬開発でも同様です。これが、冒頭で取り上げた共通項の二つ目です。