▽オーストリアの研究者らの調査によると、骨盤の幅が不十分な狭骨盤のため、帝王切開する件数が、1960年代の1000件中30件から、現在は36件に増えている。この事実から、帝王切開の普及が人類の進化、即ち骨盤の大きさに影響を及ぼしているという。

 

▽この調査結果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に論文として掲載された。帝王切開の普及前、狭骨盤では産道からの自然分娩が出来なかった。そのため、狭骨盤という身体的特徴の遺伝は阻害されていたと研究者らは推察している。つまり狭骨盤の妊婦は母児ともに死亡して、狭骨盤の女性が淘汰されていると考えたわけだ。

 

▽これは、昨年12月7日の英国BBCニュースで紹介されました。しかし私に言わせるとかなり“大胆すぎる仮説”でしょう。講座Nо.85でも書きましたが、産婦人科医は1500年代から、狭骨盤の女性が胎児を健常に娩出させる方法を考え、母児ともに死なないよう絶え間ない努力を重ねてきたのです。

 

▽オーストリア・ウィーン大学理論生物学部のフィリップ・ミッテレッカー博士は「狭骨盤で帝王切開する頻度が、1960年代と比べて、現在がこれほどまでに増加したのはなぜか?」という疑問から骨盤の進化論に言及。「帝王切開の普及がなければ、難産でこのような問題は進化論的に言えば選択が起きる。現在は帝王切開の普及で出産が可能となり、狭骨盤という遺伝子情報を娘たちに伝えている」と述べています。

 

▽研究者らは、世界保健機関(WHO)などによる分娩様式に関する大規模な調査データをもとに数理モデルを作成し、このような進化の傾向を発見したと述べています。「より小さな赤ちゃんが生まれやすいという進化の選択を促す力は、帝王切開で消え去った」。ミッテレッカー博士は、そう指摘しています。

▽私は、父が産婦人科の開業医だったため、1960年代後半から分娩に慣れ親しみ、産婦人科の臨床医として50年以上働いています。その経験から、この報告に意見を述べます。

▽帝王切開が普及する以前、産科医は臨床医としてのレベル(技量)は、まず、いかに帝王切開しないで、安全に元気な赤ちゃんを誕生させるかでした。父の指導で、私は鉗子分娩を早くから習得しました。

 

▽講座No83-85で述べましたが、そのお陰で鉗子分娩によって難産に対処してきました。胎児の脳に悪影響を与えがちな吸引分娩を避けることが出来ました。経験に照らすと、理論生物学者が過去60年間で狭骨盤で帝王切開が増加した事実を、骨盤の進化論に結びつけるのは軽率かつ短絡的です。PNASがなぜ、このような論文を採用したのか甚だしく疑問です。

 

▽狭骨盤で帝王切開する頻度が、1960年代と比べて増加したのは、一つは、医療訴訟の増加です。二つ目は、産婦人科医の怠慢で鉗子分娩などで狭骨盤妊婦を産道から娩出させる方法を選ばず、安易に帝王切開するためなのです。産婦人科医は自らの特技を忘れ、外科医と何ら変わらないのです。