ベーター剤の長期使用で、新生児に拡張型心筋症が発症した症例報告をご存じですか?

*交感神経のアドレナリン受容体を刺激する作用がある薬。ベータ刺激剤や/作動薬とも呼ばれる。喘息の治療などに使われる。逆にベータ遮断薬は心臓の興奮を抑える作用がある。


 前回のブログで、切迫早産の薬〈塩酸リトドリン)が、新生児の心臓に障害を与える可能性があることが報告されている事を書きました。その報告の10年後に〈1991年〉同じベーター剤のテルブタリン(ブリカニール)の長期使用で、新生児が拡張型心筋症を発症し、その新生児に心筋の壊死(心臓カテーテルによる生検*)を証明した症例報告があります。その症例では、切迫早産のため、妊娠25週からテルブタリン0.5mg/時を皮下注で9週間も持続投与して、37週で2、850gの男児を出産。新生児に過呼吸と心肥大を認めたので、生後4日目に心臓専門医による精査施行。心電図異常を認め、生後9日目に心臓カテーテルを施行し、右心室の筋肉細胞が壊死している事を確認した症例です。
この症例報告から言えることは、テルブタリンのようなベーター剤を切迫早産の治療で長期間(この症例では9週間)投与すると、胎児(新生児)に重大な心臓の有害作用を及ぼす危険性があるということです。ベーター剤を使用する場合はこのことを十分考慮に入れなければならないことが示唆されます。
 ベーター剤のブリカニールは、日本でも米国に倣い(ならい)1970年代中ごろから、切迫流・早産の治療薬として使われ始めました。喘息治療薬を切迫早産に使用しているので、公的保険の目的外使用でした。それでも少なからぬ産婦人科医が使っていたので、当時メーカー側は「目的外では使わないでほしい」と再三注意を呼び掛けていた事を記憶しています。現在でも、テルブタリンは切迫早産の薬として使用されているようです。
 2011年2月。日本の厚生労働省に当たる米国FDA(連邦食品医薬品局)は、テルブタリンを妊婦に72時間を超えて長期間投与することを禁じる警告を出しています。切迫早産の予防や早産治療のため長期使用した場合、妊婦の重い心臓病や死亡につながる可能性のためなのです。

*:生きた組織の僅かな一部をとって調べる方法



参考文献:
Fletcher SE. Myocardial necrosis in a newborn after long-term maternal subcutaneous terbutaline infusion for suppression of preterm labor. Am.J.Obstet&Gynecol.1991;165:1401-4.