2012年10月

【連載記事⑧】重要な周産期医療

  わたしたちは、長く臨床の場で考えてきた産科医療が抱える2つの問題、すなわち妊娠高血圧症候群の原因と陣痛発来(早産)のメカニズムの解明を目的とした研究を継続してきました。わたしたちの研究は、妊娠高血圧症候群と早産治療を目指した新しい日本発バイオ医薬品の開発を提案するものです。

 英国のバーカー医師は、未熟児で生まれた子どもは生活習慣病やうつ病の発症頻度が高いことを見出して、未熟児のバーカー仮説として知られています(1)。NICU(新生児集中管理室)で生存し、発育していく多くの未熟児の今後のフォローアップは重要な課題です。

 最近脚光を浴びている最近脚光を浴びている再生医療には、多額の研究費が国から与えられています。再生医療による個々の臓器再生も重要な医療であると思います。しかし、周産期医療(新生児、胎児学)はさらに重要な医療ではないでしょうか?

 まず、わたしたちは自然の保育器である妊娠子宮に関してさらなる研究を行い、次の世代の誕生を支援して、再生医療を必要とすることのない健全な生命誕生に全力を傾注すべきではないでしょうか。

 

(1)Baker DJ: Maternal nutrition, fetal nutrition, and disease in later life. Nutrition 1997; 13: 807-813.

 

水谷栄彦 小林浩;妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)と早産の病因解明および新治療法開発の必要性

日医雑誌 第139巻・第3号/平成222010)年6月  より編集

【連載記事⑦】陣痛発来機序を踏まえた早産治療薬

  妊娠マウスに遺伝子組み換えの胎盤酵素(P-LAP)を投与し、その妊娠期間の延長効果を検討したところ、胎盤酵素(P-LAP)投与で妊娠マウスの陣痛の発来時期が安全に延長されました(1)。したがって、胎盤酵素(P-LAP)はヒト陣痛の発来を安全にコントロールし、さらに、安全な早産治療薬として有望なことが示唆されます。

 妊婦の血中のP-LAP測定によって、ある程度陣痛発来日の予測が可能です。すなわち、妊婦血中のP-LAPの活性は、妊娠の振興と共に増加し、ほぼ陣痛発来日の10日前に最高値を示し、その後は一時的に停滞を維持し、陣痛がきます。

 一方、胎児成熟で胎児は子宮を収縮させるホルモン(オキシトシン)の分泌を増加させていきます。増加した、子宮を収縮させるホルモン(オキシトシン) とそのバリアである胎盤酵素(P-LAP)のバランスの生理的破綻が陣痛の発来であり、37週以前の胎児が分泌するホルモンと胎盤酵素P-LAPの病態的破綻が、本態性早産の病因の一端と考えられます。


 

(1)   Ishii M, Naruse K, Hattori A, et al: Oxytocin hypersensitivity in pregnant P-LAP deficient mice. Life Sci 2009; 84: 668-672

(2)  Oosterbaan HP, Swabb DF: Amniotic oxytocin and vasopressin in relation to human fetal development and labor. Early Hum Dev 1989; 19: 253-262

(3)  Chard T, Hundson CN, Edwards CR, et al: Release of oxytocin and vasopressin by the human foetus during labor. Nature 1971; 234: 352-354.


水谷栄彦 小林浩;妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)と早産の病因解明および新治療法開発の必要性

日医雑誌 第139巻・第3号/平成222010)年6月  より編集

【連載記事⑥】新しい妊娠高血圧症候群治療の考え方

妊娠高血圧症候群のモデル動物には多くの報告がありますが、いまだ理想的なモデル動物は存在しません。妊娠自然発症高血圧ラットは、非妊娠時と同様に高血圧を維持しているので、妊娠時の高血圧モデルとなります。

妊娠自然発症高血圧ラットに、胎児が産生するホルモン(アンジオテンシン)が母体側へ流出するのを制御することができる遺伝子組み換え胎盤酵素(APA:アンジオテンシナーゼ)を投与したところ、血圧を下げる効果を示しました。(1)

一方、妊娠高血圧症候群では、胎児は母体にかかるストレスへの防御反応として、アンジオテンシン(胎児が産生するホルモン)の量を増加させます(2)。このことには、胎児が自らの生命を守るために血圧を上昇させていることが示唆されます。

妊娠高血圧症候群には一般的な降圧薬はほとんど効果がないため、母体の血圧を従来の降圧薬で降下させることは、逆に胎児の血圧を降下させて胎児の正常な生命維持に障害をもたらしている可能性があるのです。

胎児が産生するホルモン(アンジオテンシンⅡ)が母体側へ過剰に流出することを制御することができる胎盤酵素のAPAは、分子量が大きく胎盤を通過しないので、胎児血圧への影響は考えられません。APAが妊娠時自然発症高血圧ラットの血圧を下げる効果があることから、母体の血圧のみを下げる効果のある妊娠高血圧症候群の治療薬となる可能性が示唆されます。

 

 

(1)     Binder ND, Faber JJ: Effects of captopril on blood pressure, placental blood flow and uterine oxygen consumption in pregnant rabbits. J Pharmacol Exp Ther 1992; 260: 294-299.

(2)     Broughton Pipkin F, Symonds EM: Factors affecting angiotensin concentrations in the human infant at birth. Clin Sci Mol Med 1977; 11: 235-238.

 

水谷栄彦 小林浩;妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)と早産の病因解明および新治療法開発の必要性

日医雑誌 第139巻・第3号/平成222010)年6月  より編集

【連載記事⑤】 胎児側からみた妊娠の生理と病態

 

過去の多くの研究から、妊娠高血圧症候群や早産では、胎児は母体へのストレスに対する防御反応としてホルモンの分泌を増加させることが明らかになっています。

母体へのストレスホルモンや胎児発育・成熟によって、これらホルモンの胎児・胎盤循環内の濃度は上昇します。増加したホルモンは低分子なので、胎盤にそれらのバリアがなければ容易に母体側へ流出し、母体血管を収縮させ、また子宮を収縮させることが考えられます。

わたしたちは1970年頃から、胎盤に存在するこれらホルモンの胎児-母体バリアを研究してきました。その結果、これら胎児が産生するホルモンを強力に分解・不活性化し、母体側への流出を制御する胎盤酵素を特定しました。


水谷栄彦 小林浩;妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)と早産の病因解明および新治療法開発の必要性

日医雑誌 第139巻・第3号/平成222010)年6月  より編集

 

【連載記事④】早産治療薬―β2刺激薬の副作用

現在、早産の治療薬として広く使用されているのは、本来は喘息治療薬として開発されたβ2刺激薬と硫酸マグネシウムです。

β2刺激薬の使用時には、多くの副作用(心血管障害や代謝異常、時に重篤な副作用として肺浮腫など)が母体に現れるのは周知の事実です。

β2刺激薬は分子量が小さく、容易に胎盤を通過します。現在早産治療のためβ2刺激薬が妊娠中長期にわたり使用されていますが、本剤投与は胎児の心臓にかなりの負荷(心筋虚血)を与えている可能性があります。β2刺激薬投与後の新生児に心筋壊死が発症した報告もあります。(1)

β2刺激薬が母体と比べて格段に小さな胎児の心臓へ与える負荷がいかに大きなものかは、想像に難くありません。



(1)Thorkelsson T, Loughead JL: Long-term subcutaneous terbutaline tocolysis: report of possible neonatal toxicity. J Perinatal 1991; 11: 235-238



水谷栄彦 小林浩;妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)と早産の病因解明および新治療法開発の必要性

日医雑誌 第139巻・第3号/平成222010)年6月  より編集

 


    わたしたち産科医は1970年代から今日に至るまで、ほかに適切な薬剤がないため、早産治療薬としてβ2刺激薬や硫酸マグネシウムを使用しています。小児拡張型心筋症の原因は不明とされていますが、これら薬剤の妊娠時の使用がその原因の一端であれば、きわめて重大な問題と言わなければいけません。

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