妊娠高血圧症候群の基本的な治療薬として長期持続投与されている硫酸マグネシウムは、投与量が過量になれば心停止を来すなど危険な薬剤であり、米国のMittendorfらは、硫酸マグネシウム投与による胎児脳室内出血や周産期死亡の増加の危険性を指摘しています。1)
われわれは、臨床で使用されている量の硫酸マグネシウムを妊娠自然高血圧発症ラット(妊娠後期)に長期投与すると、胎仔の心臓の血管が極端に形成不全になることを見出しました。2)
硫酸マグネシウムは低分子であり、容易に胎盤を通過します。硫酸マグネシウム投与で胎仔心臓の血管形成が極端に障害された事実は、動物実験ではありますが、治療後の新生児の心筋に何らかの障害が起こる可能性を示しています。
小児拡張型心筋症の原因は不明とされていますが、硫酸マグネシウム投与後の新生児における拡張型心筋症発症との関連は、今後検討すべき重要な課題と考えられます。β2刺激薬が母体と比べて格段に小さな胎児の心臓へ与える負荷がいかに大きなものかは、想像に難くありません。
1) Mittendorf R, Pryde PG: A review of the role for magnesium sulphate in preterm labour. BJOG 2005; 112(Suppl 1): 84-88. 2) Ishii M, Hattori A, Numaguchi Y, et al: The effect of recombinant aminopeptidase A (APA) on hypertension in pregnant spontaneously hypertensive rats (SHRs). Early Hum Dev 2009; 85: 589-594. 水谷栄彦 小林浩;妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)と早産の病因解明および新治療法開発の必要性 日医雑誌 第139巻・第3号/平成22(2010)年6月 より編集