前回のブログで、サルタン系の降圧薬の作用の基本は、ヒトの体に存在するアンジオテンシンという最強の血圧を上昇させる(血管収縮)ホルモンが、血管に働く作用を抑えることと説明しました。従って、各種のサルタン系降圧薬の間で、その働き(薬効)に著しい差が生じるという考え方は、根本が間違っています。
今回のディオバン(バルサルタン)をめぐる不祥事の表面化は、海外の雑誌社が、ディオバンと他のサルタン系降圧薬との間に薬効の差があると書かれた京都府立医科大グループの最初の論文をおかしいと考えていたこともあると思います。
京都府立医科大グループの臨床研究のデータの“不自然さ”を指摘した京都大の循環器内科医の論文を、同じ雑誌社が掲載したのは、その証拠ではないでしょうか。
さて、新薬の開発では基本特許を持っている会社が、最初に開発に成功するのが一般的です。ところが、サルタン系降圧薬の開発では、そうなりませんでした。世界で最初に開発に成功したのはアメリカのメルク社。あの赤い表紙の「メルクマニュアル」という家庭向け医学事典を発刊している会社です。開発に成功して、ニューロタンという製品名で売り出しました。
武田薬品がメルク社の後塵を拝したのです。なぜ、そんなことになったのでしょう。皆さん、不思議に思われませんか?
実は、武田薬品の基本特許を降圧薬にする試みは、製薬会社ではなく、なんとフランスの繊維会社ディポン社のZimmermann(ジンマーマン)(写真最前列の左から7番目の人物)らの研究グループが進めていたのです。畑違いだったから、武田薬品もマークしてなかったのでしょうか。
私は1989年2月、アメリカ・カリフォルニア州のCasa Sirena Marina ホテルで開かれたアンジオテンシンゴードン会議に一般参加しました。
ゴードン会議は、世界中でその分野を研究している100人程度の限られた研究者が集まり、未発表の研究成果を報告する秘密性の高い会議です。
Zimmermannの存在を知ったのは、その会議でした。私は、Zimmermannの研究成果の報告を、必死にメモを走らせながら聴きました。もちろん驚きました。
報告後のワインパーティーで、私はZimmermannに「あなたの素晴らしい研究は一体どこにヒントがあったのですか」と英語で尋ねました。彼は「この考え方は、日本の製薬会社、武田薬品の特許にある」と答えてくれました。
会議が終わると、私は帰国しました。そしてまたもや驚くべき話を知ることになるのです。