お産講座No11-13で胎児と胎盤の間の血液の流れを調節する小分子ホルモンの大切な働きを説明してきました。少し重複するところもあるかも知れませんが、さらにこの話を進めていきます。 お産講座No13http://p-lap.doorblog.jp/archives/38975294.htmlで胎児と胎盤の間の血流(胎児・胎盤循環)の40-50%を占める胎盤循環は、小分子ホルモンのアンジオテンシンなど血管の収縮作用を持つホルモンで調節されていることをお話しました。 胎児は妊娠初期からアンジオテンシンを作り、酸素不足などのストレス状態に置かれると、その量を増やすことが分かっています。別の小分子ホルモンのバゾプレッシンと同じ様に働くのです。 どうしてかというと、分娩時には必然的に臍の緒が圧迫され胎児は産道で酸素不足におかれます、分娩時のヒト臍帯血の酸素濃度とアンジオテンシン濃度の関係から、胎児が酸素不足のストレス状態におかれると、アンジオテンシン濃度を増加させることが明らかになっています。(文献1) 既にお産講座No11http://p-lap.doorblog.jp/archives/38824559.htmlで、胎児は妊娠初期からバゾプレッシンを作り、酸素不足などのストレス状態に置かれると、自らを守るためにバゾプレッシンを増加させると説明しました。バゾプレッシンは、胎児と胎盤の間の血液循環をコントロールする大切なホルモンなのです。 私達の体の中でアンジオテンシンやバゾプレッシは、ホルモン(生理活性物質)として働いています。その量を生理的なホルモン濃度と呼びます。 あらかじめ胎盤の色々な場所の血管を取り出しておいて、私達の体の中で正常に働く濃度(ホルモンの生理的な濃度)のアンジオテンシンやバゾプレッシを胎盤の血管に振りかけて、血管が収縮するのを観察した実験があります。 この実験から、二つのホルモンは胎盤の様々な場所の血管を強力に収縮させることが明らかになっています。すなわち、アンジオテンシンやバゾプレッシは、胎盤の血管を強く収縮させるホルモンなのです。(文献2) 妊娠した羊の実験で羊が吸う酸素の濃度を下げる、つまり羊を低酸素状態にする、と胎仔の血液の流れが変化するのが分かっています。 低酸素状態になると胎盤や胎仔の脳という生命を維持するのに欠かせない臓器に血液の流れる量が増え、他の臓器に流れる血流の量を減らすのです。 この変化をストレスへの血流再分配と呼んでいます。胎児がストレス状態に適応する現象としてよく知られている事実です。(文献3) ここで少し考えてみましょう! 1、 胎児の血圧に少なからず影響するのは胎盤の血流です。2.アンジオテンシンやバゾプレッシは胎盤の血管を強く収縮させます。3.ストレス状態に置かれた胎児は、アンジオテンシンやバゾプレッシを増加させます。 まず、以上の3点を頭の中で、ゆっくりと整理してください。 整理は終わりましたか? ストレス状態に置かれた胎児が、ストレスに適応するため血流を再分配して胎盤や自身の脳に流れる血液の量を増やしていく現象、つまりアンジオテンシンやバゾプレッシンを増やすことは、胎盤の血管を収縮させることにほかなりません。さきほどの生命を維持する話とは矛盾しますよね! 今回は、ここまでにします。次の講座では、この矛盾を解決してみます。さて、どうするのでしょうか。 1. Kingdom JCP et al. Brit J Obstet Gynaec 1993;100:476-482 2. Maigaard S et al. Acta Physiol Scand 1986;128:23-31 3. Cohn HE et al. Am J Obstet Gynecol 1974;120:817-824
2014年05月
お産講座NO.11で胎児と胎盤の間の血液の流れは、妊婦の血液の流れから独立し、二つ血液の流れが直接交じりあうことはありませんと説明しました。
今回は、胎児と胎盤の間の血液の流れについてお話します。
ヒトの胎児と胎盤の間の血液の流れについての研究は難しく、多くは妊娠した羊の胎盤と胎児ならぬ胎仔(たいし、動物のおなかの赤ちゃん)の間の血液の流れを研究してヒトに当てはめて考えられています。
ですから、ここからのお話は妊娠羊の胎盤と胎子間の血液の流れと考えてください。収縮期圧(上の血圧)から拡張期血圧(下の血圧)を差し引いた値を3分の1にした値に拡張期血圧を加えた値を平均動脈圧といいます。平均動脈圧は大人は95mmHgあるのに対し、胎児は45-50mmHgと低血圧です。臍帯(へその緒)の動脈末端は胎盤の先端で毛細血管となり、その血圧は10mmHgほどです。この部分で、胎児は母体の子宮動脈から吹き出る血液で満たされたプールから酸素をもらう一方、老廃物を排出して命に重要な物質を交換しています。
酸素を取り込んだ血液は毛細血管から臍帯(さいたい)静脈へと流れて胎児に戻ります。毛細血管の直径はわずか5-7ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリメートル)です。ただ血管の本数が極めて多いため、毛細血管の総断面積は動脈の700倍にも達します。
胎児と胎盤の間の血液の流れは、妊娠の進行とともに増えていきます。体重40Kg前後の妊娠羊で、妊娠末期(羊の妊娠期間は140日)では血液の流れる量は1分間に600mlくらいになります。ヒトでもほぼ同様と考えられています。しかも血液の流れの約40-50%は胎盤の中を流れています。ですから、胎盤の血液の流れは、胎児の血圧に大きく影響します。
ここで、お産講座No12でご説明した血液循環の調節に影響を与える3つの調節システム1)神経系と2)体液系3)自己調節
と胎盤循環についてお話しします。
まず自己調節です。羊の胎仔の心臓から出たばかりの太い動脈の下大動脈を縛って、胎仔の下大動脈と胎盤の間の血液の流れ、即ち、血流量の変化をみて、胎盤の自己調節との関連を調べています。
動脈を縛れば、当然、血圧は上がります。下大動脈を縛る強さを増すと、正比例して胎盤の血流は抑えられます。このことから、胎盤循環には自己調節はほとんど関連していないことが解っています(文献1)。お産講座No12で、ヒトの脳では血圧が60-140mmHgの変化では、血流が一定に保たれるというお話をしました。憶えていらっしゃいますか。 次に、1)神経系と2)体液系の胎盤循環への関わりについてお話しします。 お産講座No12で自律神経の交感神経からアドレナリンという物質が出て血管を収縮させ、小分子のホルモンのアンジオテンシンが強力に血管を収縮させ体液系の循環を調節するお話しをしました。 このアドレナリンと同じ作用をするノルエピネフリンとアンジオテンシンを羊の胎仔に投与して、両者の臍帯血流と臍帯の血管抵抗(血圧)を調べた実験があります。 この実験からノルエピネフリンは、臍帯血流と臍帯の血管抵抗にほとんど影響を与えませんが、アンジオテンシンは投与量に比例して臍帯血流を減らし、臍帯の血管抵抗を上げる、つまり血圧を上げることが明らかになっています。 この実験から、胎盤循環はアンジオテンシンなどの小分子ホルモン、体液因子によって調節されており、神経系と自己調節はほとんど関与していないといえます。 文献1.Anderson DF, Faber JJ. Regulation of fetal blood flow in the lamb. Am J physiol 1984;247:R567-R571
Dr. 水谷のお産講座No.9以降のお話は、私が1994(平成6)年に日本産婦人科学会で講演した内容を基に書いています。なので、内容は産婦人科のお医者さん向けです。一般の皆様には少し難しいお話かもしれませんが、じっくりと読まれると必ず分っていただけます。
今回は、“血圧を調節するものは何か?”です。
妊婦のみに存在する血圧を調節する特殊な仕掛け、即ち、動脈と静脈のシャントとその大切な働きについては、お産講座No.10で書きました。
このような特殊な血圧調節の仕組みは、通常、妊婦特有のものです。
一般には、血圧すなわち血液循環の調節に影響を与えるものには、全身的なものと局所的なものがあります。
全身的に働くものは2つあります。1)神経系と2)体液系(各種のホルモン)です。
局所的なものは3)自己調節と呼ばれるものです。
難しい言葉が出てきましたので、説明いたします。まず、1)神経系です。自分の意志で筋肉を動かして運動するときを考えてみましょう。筋肉の神経を自らの意思で動かしています。このような神経を運動神経と言いますが、それとは異なります。
皆さんは自律神経という言葉をご存じと思います。胃や腸などの内臓の運動は、自らの意志では動かせません。内臓の動きを調節する神経は自律神経と呼ばれています。
血管も内臓の臓器です。血管の筋肉は自律神経でコントロールされます。その自律神経は交感神経と副交感神経の2種類があり、交感神経からはアドレナリンという物質が出て血管を収縮させ、副交感神経からはアセチルコリンという物質が出て血管を開きます。
次に2)体液系は、脳などの臓器で作られる血圧を調節するホルモンが全身の血液の流れに乗って、体の色々な臓器の血管でそのホルモンの働きが現れるのをいいます。
物質の重さが小さなものを、小分子量と言います。血管の筋肉に働き、血管を収縮させるものとして、アンジオテンシン、前回のお産講座No.11で書いたバゾプレッシンがあります。
一方、血管を開くものとしてブラディキニンなどの小分子量ホルモンがあります。
最後です。最も難しい3)自己調節による血圧調節を説明します。
血液の流れの“自己調節”を書物で調べると、臓器や組織には自らの血流量を調節する能力があり、これを“自己調節”と呼ぶと書かれています。しかし、これではさっぱり理解できませんよね?
例えると、高級自動車の自動運転機能と考えてください。高速道路では、この機能を使えばアクセルを踏まず、自動車は一定の速度で走行してくれます。各種の電子機器が働いているのです。
ヒトの血管の筋肉にも巧みな仕掛けがあり、血圧がある一定範囲の変動なら、自動的にその臓器の血流量を一定にする仕組みがあります。この仕組みによって、血圧の少々の変化にも、その臓器は順応するのです。
ヒトの脳は言うまでもなく大切な臓器です。血流の自己調節を示す臓器の代表例です。脳では血圧が60-140mmHgの間の変化なら、一定の血液の流れが保たれるようになっています。
ヒトの場合、この仕組みを微妙に調節する電子機器として、プロスタグランディン、エンドセリン、一酸化窒素など、いわゆる生理活性物質と呼ばれる物質が働いています。これらの生理活性物質に関しては、時間が許す時にインターネットなどで調べてみてください。
今回はここまでに致します。難しかったでしょうか?
前回のブログで、胎盤は母体の血液のプールに浮かぶ胎児の臍帯の先の付属臓器で、胎児が酸素を取り込む際の肺の働きや老廃物を処理する腎臓の働きをする必須の臓器であることを説明しました。
今回は、その母体の血液(プール)プールに水(母体血)を送り込む配管(血管)について説明します。母体血は、子宮動脈の先端部分から送り込みますが、そこに妊娠の継続に大変重要な仕掛けがあります。
どの臓器の血管でもその周囲(壁)は、筋肉で薄く覆われて圧力(血圧、血液の流れによる圧力)に耐え得る作りになっています。動脈血管も例外ではありません。ところが、妊娠子宮筋の内側1/3ではその動脈壁は筋肉で覆われていません。血液のプールとの接触部分になります。
ですから、妊娠すると、子宮動脈の先端部分は、子宮全体を収縮させることによって血流の圧に耐えながら、母体の血液(プール)に供給する血液量を調節しています。
母体の血液のプールの量は、子宮が弛緩している、お腹の張りがない状態なら、血液がどっと流れ込みます。逆に子宮が収縮する、お腹が張った状態になると、プールの血液が少なくなり、胎児は酸素が取り込みにくい状態に置かれてしまいます。
まとめまると、胎児が酸素を供給されている母体の血液のプールの量は、子宮の収縮(張り)と弛緩(ゆるみ)でコントロールされているのです。
私の父も開業医でした。父が妊婦さんに良く話していた例え話を思い出します。「妊婦さんのお腹(子宮)が『福井名産の羽二重餅』なら、妊娠の経過は順調です」。子宮の弛緩を表す適切な表現と思います。
それでは、血液プールの量が減って、胎児が酸素不足になると、胎児はどんな反応をするのでしょうか。まず、酸素不足で苦しくなるはずです。
これは、犬の実験です。妊娠した犬に酸素濃度が薄い空気を30分くらいマスクで吸わせると、およそ5-10分で胎仔は脳から出るバゾプレッシンというホルモンを極端に増やすのが分かっています。
聞き慣れない「バゾプレッシン」というホルモンの名前が出てきました。少し説明します。バゾは筒(血管)を意味します。プレッシンはプレス(押さえつける)するものです。
バゾプレッシンは血管を押さえつけて血管の筋肉を収縮させ、血管を細くしてしまいます。子宮筋も血管と同様な筋肉です。だから、バゾプレッシンが増えると、血管や子宮が収縮します。ヒトは脳でバゾプレッシンを作りますが、生命維持に重要なホルモンです。妊娠していない場合は、バゾプレッシンは特に腎臓の血管を収縮させて、尿の血流量が減って、尿が出なくなるので抗利尿ホルモンと呼ばれています。
胎児では、妊娠初期からバゾプレッシンが作られ、胎児と胎盤の血液循環をコントロールするホルモンとして働きます。胎児の腎臓の働きは、先に説明した様に、胎盤が代行します。
ですから、妊娠していない場合と同様、胎児はストレスに晒されると、バゾプレッシンを増やして、胎盤血液プールの量を減らし、尿の量を減らしてしまいます。
少し補足します。胎児・胎盤の循環系(血液の流れ)は、母体の循環系(血液の流れ)から独立しており、二つ血液の流れが直接交じり合うことはありません。胎盤は母体の血液プールに浮かんではいるのですが、決して二つの血液の流れは混じらないのです。
このように、胎児は酸素不足などのストレスに晒されると自らを守るためにバゾプレッシンを増やします。その結果、胎児の血圧が上がり、胎児・胎盤の血液の流れを増やして酸素の取り込みを増加させようとします。まさに、胎児の自己防衛反応といえましょう。
ところが、バゾプレッシンは子宮を収縮させて血液プールの量を減らします。したがって、胎児が長期間、ストレスに晒されると、次第に修復不可能な状態に追い込まれます。
ここで、話を少し戻します。胎児・胎盤の血流と母体の血流は、決して混じりませんと説明しました。それでは、なぜ胎児のバゾプレッシンがストレスで子宮を収縮させるのでしょうか? おかしいですよね。
でも、それでいいのです。胎児・胎盤の血流と母体の血流は、決して混じりません。今回もくどくどと胎盤は母体血のプールに浮かんでいると説明してきました。
すなわち、プールの母体血と薄い組織を隔てて胎盤の胎児血管は接近しているのです。この薄い組織は、小さなホルモンなどは、その量が増えすぎると染み出して母体プールの方へ流れ込みます。この小さなホルモンなどが、胎児から母体プールの方へ染み出しを防ぐ仕掛けについては、後日に別のブログで詳しく説明します。
事実、ヒトの胎児が、難産のため生まれてくるまで、産道を通過するのに時間がかかってストレスに晒されると、赤ちゃんのバゾプレッシンの量が正常に生まれ赤ちゃんと比べて60倍も増えています。
妊婦さんが、過度の仕事や運動をすると、母体への酸素供給が必要になります。その結果、母体の血流は増加しますが、結果的に子宮への血流は制限を受けます。
皆さんは、疲れた時に風呂に入ると、それまでの青白い皮膚がピンク色に変わった経験をされていますよね?
妊婦が長風呂をすると、入浴で体の表面が温まり母体への血流が増えます。一方、長時間の入浴は胎児への血流が抑えられることになります。
過度の仕事や運動、長風呂は、なるべく控えましょうという妊婦さんに対する先人の教訓は、妊娠の仕組みを考えれば、実に適格な考え方なのです。
キャリアウーマンとしてお仕事に励む妊婦さん、あるいは、旅行代理店が勧める“妊婦向け温泉ツアー”への参加を考えておられる妊婦さん、くれぐれも体を無理使いせず、お大事にしてください。
このP-LAPブログの“ウテメリン(塩酸リトドリン)は胎児ばかりでなく妊婦をも危険に晒します” http://p-lap.doorblog.jp/archives/16587694.html(2012.9.5)は、未だに大勢の方々に読んでいただいています。良い意味でも、悪い意味でも、それだけ皆さんの関心が高い現れでしょう。
既にブログに書きましたが、ウテメリンを発売した中堅製薬会社が厚労省に提出した資料(市販後副作用調査)では、1986年4月のウテメリンの承認以来、2002年12月末までの16年8か月の間に、妊婦に現れた重い副作用251例が報告されていることが明らかになっています。
これらの重大な副作用が明らかになり、その対策を未だになぜ考えていなのでしょうか?
同社は、別の中堅製薬会社(この会社は1986年、特許切れしたウテメリンのジェネリック(後発品)を発売しています)と共同で新しい切迫早産治療薬「KUR-1246」の開発を進めていました。
薬の作用を分かり易くするため、少し専門的なことを書きます。交感神経末端に存在するノルアドレナリンという神経伝達物質があります。一方、細胞膜上や細胞内に存在し、ホルモン等の物質の刺激を認識して細胞にホルモン作用を伝えるタンパク質を受容体(レセプター)と言います。
ノルアドレナリンの受容体はβ1とβ2があり、β1は主に心臓を刺激するとされています。β2は気管支の拡張作用(喘息治療)や子宮の筋肉の弛緩(早産治療)作用を示します。
このKUR-1246という薬は、β2受容体に対する選択性がβ1受容体の1万倍と言われていました。つまり、β2に圧倒的に作用するため、β1にはあまり作用しない。だから心血管系の副作用が軽くなると期待されていました。
まさにunmet medical need(アンメット・メディカル・ニーズ 未だ満たされていない医療ニーズ)を満たす薬剤になるだろうとみられていたようです。
しかしながら、「吉川医薬経済レポート」の2006年1月号にKUR-1246開発中止の記事が掲載されていますが、夢の新薬開発は頓挫しました。
同レポートは、国内開発中止の理由を次のように報じています。
「国内では患者のリクルートが困難で,しかも同剤を使って誕生した子供
についても追跡調査が必要であるなど,妊婦に対する治験環境が整って
いないためということである」。平たく言うと、治験に協力する妊婦の同意が
得られなかったのです。
先日、「ウテメリンの重い副作用が集計期間で異なるのは何故?」
http://p-lap.doorblog.jp/archives/38404532.htmlを書くため、
KUR-1246開発の根拠となった論文を検索し、関連する論文:
Pharmacological Characterization of KUR-1246, a selective
uterine relaxant (2001): available at http://jpet.aspetjournals.orgを読みまし
た。
1986年当時、日本でテルブタリン(ブリカニール)が承認され
ず、ウテメリンのみが流早産治療薬としてなぜ承認されたのか。
同じβ2刺激薬なのに、その違いに極めて疑問を感じたのです。
論文の成績の一部をご紹介します。論文のtable3です。
このデータによると、リトドリン(ウテメリン)よりもテルブタリ
ンの方が心臓作用(動悸?)は、およそ10倍起こしにくく、消化器
症状では100倍以上の差があると解釈できます。
テルブタリンは、ウテメリンよりも動悸などの副作用が少なく、安
全性が高いというデータなのです。
ウテメリンを承認した厚労省とは異なり、FDA(米国食品医薬品
安全局)は、このような根拠に基づいてテルブタリンのみを切迫早産の
治療薬として承認したことは十分考えられます。
ただし、米国では、そのテルブタリンの使用期間を厳しく制限していま
す。妊婦への使用は48-72時間以内です。
ウテメリンの重い副作用が確認され、EU(欧州連合)は、ウテメリンの注射剤は使用制限、錠剤は承認を取り消しました。つまりEUに加盟する28か国では切迫早産の治療にウテメリンの錠剤は使えなくなったのです。
実は、ウテメリンはオランダの「フィリップス デュファル」という製薬会社が開発し、日本の中堅製薬会社は同社と国内で共同開発して厚労省の承認を取り付けています。そのオランダが加盟するEUが、国内では軽い切迫早産の妊婦に気軽に投与されているウテメリン錠の使用を禁止しました。
事態がここまで深刻になった以上、中堅製薬会社は迅速かつ詳らかに保有する全ての情報を公開し、規制当局と早急に善後策を講じるべきではないでしょうか。切に願っています。