2014年05月

Dr. 水谷のお産講座(No.10):胎盤は血液プールに浮かんでいる。


 妊婦さんは非妊時と比べて心拍出量と循環血液量(全身の血管の中を流れる血液量)のかなりの増加があるのに、正常妊娠の妊婦さんの血圧は何故下がるのか?不思議ですよね。



血圧は、心臓から動脈へ噴出される血液量(心拍出量)と全身の血管の壁の固さ(抵抗性)を掛け合わせたものですから、正常妊娠の妊婦さんにはその全身の血管の壁の固さ(抵抗性)を劇的に下げる構造が必須になるのは、皆さん容易に想像できますよね?

前回のブログで動脈と静脈の巨大なシャント(バイパス)さえ何処かにあれば、たとえ心拍出量と循環血液量が増加しても血圧は下がる事が考えられる事をのべました。前回のブログの繰り返しになりますが、犬に動脈と静脈のシャントを手術で作れば、犬の血圧は下がり、心拍出量と循環血液量が増加する事をのべました。

妊娠の場合は実は胎盤の構造(作り)が、シャントそのものなのです。

そこで、少し難しいのですが胎盤の構造を少し考えてみましょう。

胎盤は、構造的(形の上では)には胎児の一臓器なのです。胎盤は臍の結(臍帯)で胎児と繋がっています。臍帯には、胎児からくる2本の動脈と胎盤からくる1本の静脈があり、胎児と胎盤はそれらの血管で確りと繋がれ、血液が胎児と胎盤の間を激しく行き来しています。

胎児は、呼吸できませんので、酸素の供給は母体の血液からもらいます。また、老廃物は直接排尿や排便ができませんので、母体の血液中へ捨てることになります。胎児が発育するのに必須の酸素取り込みと、老廃物の処理の仕掛けが、動脈と静脈の巨大なシャント(バイパス)の場所で行われているのです。

 私は、胎盤の後ろ(子宮の筋肉側)の血液プール(胎盤後血)と呼んでいますが。胎盤は子宮の筋肉と胎盤の裏側の部分(胎盤の最も細い動脈、即ち最先端部分の動脈と最も細い静脈部分)を壁とする巨大な血液プールに浮かんでいるような構造なのです。この血液プールへは妊娠後期には、毎分500-700ミリリットルの血液が子宮動脈から送りこまれ、子宮静脈へ吸い込まれています。すなわち、母体血管としては、このプールは間違いなくシャントの作りになっているのです。

次回は血液プールの中の血液量をコントロールする仕掛けを説明します。


 

切迫早産治療薬(硫酸マグネシウム)が米国FDA胎児危険度分類のランクAから一挙にDに下げられました。

 2013.5.30日、米国のFDA(日本の厚生労働省)は切迫早産の治療に、硫酸マグネシウムの注射は5-7日までとする勧告をだしました。


その理由は、妊婦への硫酸マグネシウムの長期投与は、胎児の骨発育を傷害して、胎児・新生児が骨減少、骨折などを引き起こす危険性があるためとしています。
P-LAP
ブログの過去のブログ(2012年5.11こちら,5.18,6.11,6.28,10.21,10.22など)で硫酸マグネシウムの妊婦への注射は胎児への悪影響が心配される事を、度々述べてきました。今回は米国のFDAが胎児の骨発育が傷害される事を指摘しました。日本の現在の周産期医療に重大な問題提起とおもわれます。



日本でも硫酸マグネシウムは以前から切迫早産に頻繁に使われてきました。しかし、胎児に対するその危険性をかつて一度も顧みられたことはなく、ずるずると今日まで医療の現場で使用されています。外国ではようやくこの薬物の危険性が指摘され始めていますが、日本ではその動きは全く見られていません。その一つの理由は、ほかに使える薬はいまだに開発されていないということです。



話題は変わりますが、栄養不足の時代に多かった乳幼児の「くる病」が最近、増えているということです。紫外線対策の普及や母乳栄養の推進などが複合的に関係していると考えられています。専門医は「くる病は母乳で育っている子どもに多く、特に注意してほしい」と呼びかけています。胎児期がいかに外部からの影響を受けやすいかを象徴する事実です。



参考: 米国FDAの勧告 May 30, 2013


FDA Recommends Against Prolonged Use of Magnesium Sulfate to Stop Pre-Term Labor

FDA is advising health care professionals against using magnesium sulfate injection for more than 5-7 days to stop pre-term labor in pregnant women. Administration longer than 5-7 days may lead to low calcium levels and bone problems in the developing fetus.

The Pregnancy Category for the drug is changing to D from A. Pregnancy Category D means that there is positive evidence of human fetal risk, but the potential benefits from using the drug in pregnant women may be acceptable in certain situations despite its risks.




翻訳しますと:FDAは早産治療の目的で硫酸マグネシウムの長期使用を中止する事を勧告します。早産治療の目的で妊婦への5-7日を超える硫酸マグネシウムの使用を産婦人科医に対して忠告します。5-7日を超える硫酸マグネシウムの使用は、胎児のカルシウム濃度を下げ、胎児の骨の発育に障害を起こすからです。米国FDA胎児危険度分類のランクAから一挙にDに下げられました。(1979年、米国のFDAは、医薬品の胎児に対するリスク分類を導入しています。A:適切な、かつ対照のある研究で、妊娠第一期(first trimester)の胎児に対するリスクがあることが証明されておらず、かつそれ以降についてもリスクの証拠が無いもの。D: 使用・市販後の調査、あるいは人間を用いた研究によってヒト胎児のリスクを示唆する明らかなエビデンスがあるが、潜在的な利益によって、潜在的なリスクがあるにもかかわらず妊婦への使用が正当化されることがありうる)


すなわち、妊婦に硫酸マグネシウムの使用は、特殊な条件でその危険性を覚悟の上でのみ使用が許されるということです。



 


 


 


 


 


 

切迫早産の治療薬が海外で厳しく規制。日本の現状は?


 切迫早産の治療薬「ウテメリン」が、EU(欧州連合,28カ国)で使用制限されたり、使用禁止になったことは、このブログで既にお伝えしました。特にウテメリン錠が使用禁止(承認取り消し)になったことは、日本の産婦人科に衝撃を与えたのではないでしょうか。なぜなら、日本では軽症の切迫早産の妊婦には気軽にウテメリン錠を飲ませている実態があるからです。EUのEMA(欧州医薬品庁、日本の厚労省に相当)は、ウテメリン錠について「リスクがベネフィットを上回る」として承認を取り消しました。百害あって一利なしというわけです。

さてウテメリンが使えない、あるいは、使っても効果がない重症の切迫早産の妊婦には、「マグセント」という薬を投与するのが日本では一般的です。ところが、こちらの方もアメリカのFDA(連邦食品医薬品局、日本の厚労省に相当)が、投与期間の短縮を医療機関や医療従事者に勧告しました。投与期間は5日から7日。つまり1週間を超えた投与を禁じました。日本では、早産を防ぐためと言って、1週間どころか2-3週間さらに長期間投与している例も少なくないようです。

 


アメリカでの流れが、日本にも押し寄せてくるのは間違いありません。事実、米国では「ブリカニール」という喘息の治療薬を切迫早産治療薬として使う場合は、最長投与時間を72時間としました。それ以上の期間投与すると、胎児の心臓に悪影響を与えることが分かったからです。


米国では「ウテメリン」という薬がないため、「ブリカニール」の長時間投与が禁止されてからは、切迫早産の治療薬はほぼ「マグセント」だけになったようです。


 では、FDAはなぜ「マグセント」の長期間の使用を止めるよう勧告したのでしょう。1週間を超えて妊婦に「マグセント」を投与すると、胎児や新生児(生まれたばかりの赤ちゃん)の骨が折れやすかったり、骨の量が少なかったりしたからです。生まれた時、いや生まれる前から“骨粗しょう症”になっていたのです。骨粗しょう症といえば、高齢者の病気と思われがちですが、妊娠時に危険な薬を投与されると、生まれたばかりの赤ちゃんが骨粗しょう症のリスクにさらされる可能性が高くなるのです。

 
 私達は2013年3月、『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』(静岡学術出版)から上梓して、「ウテメリン」や「マグセント」など、国内で現在、切迫早産などの治療に標準的に使われている薬剤の危険性を、研究成果や外国の文献を基に指摘しました。その後も、このブログで危険性を指摘し警鐘を鳴らし続けています。事態は、まさに私たちが危惧している方向に向かっています。

『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』は、大手出版社から出版されているわけでもなく、売り上げ上位ランキングにも入っていません。もちろん新聞や雑誌を使った広告もしていません。

長年臨床現場に立っている産婦人科医が、切迫早産の治療などに広く使われている薬剤が、どれほど危険なものかを広く知ってもらうために自費出版しました。本の刊行に不可欠な編集者がいないため、文字通り“手作り”です。

ただ書かれている内容は、高齢出産時代にマッチした問題点を先取りして指摘しています。

Dr. 水谷のお産講座 No.9 妊婦の血圧は妊娠前の血圧より低くなるのをご存じですか?



 先のブログで、ご紹介ししたように、妊娠高血圧症治療薬に関する私の論文が

外国の有名医学誌に掲載、高い評価を得ました。そこで、少し妊婦さんの血圧に関して解説いたします。



妊娠が正常なら、妊婦の血圧は妊娠初期(妊娠14週ころ)から中期(妊娠28週ころ)にかけて、妊娠していない時(非妊時)の血圧より収縮期(上)拡張期(下)ともに下降します。収縮期が100以下になる場合や拡張期が50前後になる場合も全然心配ありません。なぜならその場合は、胎盤の働きが順調だからです。



少し難しい話になりますが、血圧はどのような体の変化を表すものか考えてみましょう。血圧=心臓から動脈へ噴出される血液量(心拍出量)と全身の血管の壁の固さ(抵抗性)を掛け合わせたものです。



妊婦さん(母体)の心拍出量は、非妊時と比べ40-50%も増加します。その上、母体の全身の循環血液量は、非妊時と比べて40-50%も増加します



このように、妊婦さんでは非妊時と比べて心拍出量と循環血液量のかなりの増加があるのを、ご理解くだされば、妊婦さんの血圧は何故下がるのか疑問に思われるでしょう。

何か血圧を下げる仕掛けがありそうですね?



母体の心拍出量と循環血液量は何故増加するのか?その理由はよくわかっていません。しかし、あくまで犬の実験なのですが、その理由にヒントを与える実験が日本人の研究者によって明らかにされています(文献)。


 再び、少し難しい話になります。血管には、動脈と静脈がありますが、両者が直接つながることは通常ありません。動脈と静脈が直接つながる状態を動静脈シャントとよびます。


 その日本人の実験とは、犬に動静脈シャントを外科的に(手術して人工的に)作ってみると、そのシャントの大きさと正比例して、心拍出量と循環血液量が増加し、また血圧も低下する事が確認されたのです。しかもそのシャントを閉じると心拍出量と循環血液量が減少し、また血圧は再びもとにもどるのです。

 この実験の結果は、妊婦さんの心拍出量、循環血液量の増加と血圧の降下とよく一致しますね。その仕掛けが(シャント)実は胎盤に仕組まれているのです。


 次回は、その仕掛けを解説する予定です。


 文献:
Nakano J. Effect of arteriovenous fistula on the cardiovascular dynamics. Jap Heart J 1971;12: 392-400





ネイチャーではありません。本当に医療に貢献し、しかも今すぐできること、多くの妊婦さんやその赤ちゃんの健康に貢献できる可能性というものは、世間を騒がすだけの扇動ではなく、話題性はなくとも着実な研究から生まれる医療貢献といえるのではないでしょうか。



ドラッグス、つまり“医薬品“というまさにそのもののタイトルをもつ世界レベルの医学誌の中に、14ページにわたり、我々NPOが取り組んでいる妊娠中毒症と新しい薬の開発について特集されています。この特集の著者は、医学レベルではアメリカ随一を誇るメイヨークリニック(メイヨー医科大学)のお二人の教授です。



著者らは、次のように言っています。まず、妊娠高血圧症(妊娠中毒症)で亡くなられる妊婦さんの数はアメリカでも未だ多い。しかしながら、いまだに有効な治療薬やその他の治療法の選択肢が限られている。さらに、現在使われている血圧を下げる薬はどれも妊娠中毒症では使うのがむつかしい。なぜなら、これらの薬は胎盤を通して胎児の血圧も下げてしまい、安全であるとはいえない。

このような考え方は、我々NPOが目指す胎盤酵素製剤の開発を示唆しているように思えるのです。



この特集ではさらに、“画期性のある新しい治療薬や治療法の可能性”と題された章が設けられており、その中に紹介された、可能性のある8つの治療の2番目に私が執筆した“胎盤アミノぺプチダーゼ(P-LAP)およびアミノぺプチダーゼ(APA)欠損マウスから得られた妊娠中毒症と切迫早産の原因メカニズムに関する新しい知見”と題する(原文は英語)論文が参照されています。



とくに著者らが、私の論文から述べていることは、我々の提案する酵素は胎盤を通過しないということと、APAが血圧を上げる原因のペプチド(妊娠中毒症の場合は胎児から作られ、お母さんの体内循環に流入する)を分解して血圧を正常に戻す効果があること、などです。つまり、これらの酵素は妊婦さんに効果があるが同時に胎児に対して安全であること、また、ペプチドを分解して血圧を下げるという画期的な方法な薬になり開発すべき薬として推薦をしていただいたというわけです。



 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

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