妊婦さんは非妊時と比べて心拍出量と循環血液量(全身の血管の中を流れる血液量)のかなりの増加があるのに、正常妊娠の妊婦さんの血圧は何故下がるのか?不思議ですよね。
血圧は、心臓から動脈へ噴出される血液量(心拍出量)と全身の血管の壁の固さ(抵抗性)を掛け合わせたものですから、正常妊娠の妊婦さんにはその全身の血管の壁の固さ(抵抗性)を劇的に下げる構造が必須になるのは、皆さん容易に想像できますよね?
前回のブログで動脈と静脈の巨大なシャント(バイパス)さえ何処かにあれば、たとえ心拍出量と循環血液量が増加しても血圧は下がる事が考えられる事をのべました。前回のブログの繰り返しになりますが、犬に動脈と静脈のシャントを手術で作れば、犬の血圧は下がり、心拍出量と循環血液量が増加する事をのべました。
妊娠の場合は実は胎盤の構造(作り)が、シャントそのものなのです。
そこで、少し難しいのですが胎盤の構造を少し考えてみましょう。
胎盤は、構造的(形の上では)には胎児の一臓器なのです。胎盤は臍の結(臍帯)で胎児と繋がっています。臍帯には、胎児からくる2本の動脈と胎盤からくる1本の静脈があり、胎児と胎盤はそれらの血管で確りと繋がれ、血液が胎児と胎盤の間を激しく行き来しています。
胎児は、呼吸できませんので、酸素の供給は母体の血液からもらいます。また、老廃物は直接排尿や排便ができませんので、母体の血液中へ捨てることになります。胎児が発育するのに必須の酸素取り込みと、老廃物の処理の仕掛けが、動脈と静脈の巨大なシャント(バイパス)の場所で行われているのです。
私は、胎盤の後ろ(子宮の筋肉側)の血液プール(胎盤後血)と呼んでいますが。胎盤は子宮の筋肉と胎盤の裏側の部分(胎盤の最も細い動脈、即ち最先端部分の動脈と最も細い静脈部分)を壁とする巨大な血液プールに浮かんでいるような構造なのです。この血液プールへは妊娠後期には、毎分500-700ミリリットルの血液が子宮動脈から送りこまれ、子宮静脈へ吸い込まれています。すなわち、母体血管としては、このプールは間違いなくシャントの作りになっているのです。
次回は血液プールの中の血液量をコントロールする仕掛けを説明します。