▽確かに一部の降圧剤で一過性に母体血圧が降下して、妊娠高血圧症が改善するように思えることもあります。しかし降圧剤で母体血圧を降下させることは、むしろ妊娠高血圧症の胎児環境を悪くしていると考えねばなりません。 ▽重症化した状態では、殆ど一般的な降圧剤では血圧が下がらないのは、産科医なら皆さんが臨床の場で経験しているでしょう。http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=21419968 http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=21777330 ▽このブログで指摘しているように、硫酸マグネシウムは痙攣を止める薬です。古くから子癇発作時の全身痙攣を抑えるために使用されていました。あくまで発作時に一時的に使用されていたのであり、妊娠高血圧症を改善する薬ではないのです。http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=7222558 http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=8423797 http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=10156761 http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=15554285 http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=18924144 http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=28941608 http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=40098448 ▽それでは、何か有効な治療法への光明はあるのでしょうか?結論から申し上げると、結果からアプローチする治療法では、光明を見出すのは不可能と思っています。 ▽米国の有名大学では、ベンチャー企業とタイアップしてアンチトロンビンⅢ(ATⅢ)による妊娠高血圧症の治療が試みられています。http://www.wbjournal.com/article/20150205/METROWEST01/150209973/framingham-biopharma-hopes-to-rewrite-the-rules-of-preeclampsia-treatment ▽ここで、血液が固まる現象を考えてみます。血液中にプロトロンビンとして存在するタンパクが変化(活性化)してトロンビンというプロテアーゼになります。トロンビンは、血液凝固の際に繊維素原(フィブリノーゲン)をフィブリンにして、フィブリンの塊を作ります。これが血液凝固です。 ▽ATⅢは、血液中に存在するタンパク質で血が固まる(凝固)作用を抑える働きがあります。アンチは日本語の「抗」です。ATⅢはトロンビンに抵抗する物質ということになります。従って、ATⅢ療法は、妊娠高血圧症の結果からのアプローチと言えます。果たして良い結果が期待できるのでしょうか? ▽ウロキナーゼは、プラスミノゲン(不活性な酵素前駆体)をプラスミン(プロテアーゼ)に変えるプロテアーゼで、尿中に排泄されます。 プラスミンは、フィブリンやフィブリノーゲンを分解して血栓を溶かします。ATⅢは血栓形成を阻止し、ウロキナーゼは血栓を溶かすことから、何れも血栓に関与する生理現象です。 ▽随分昔のことです。日本でも偉い先生が、ウロキナーゼによる妊娠高血圧症の治療法を提唱していました。懐かしく思い出します。 ▽今年5月の米国内科学会誌(Ann Intern Med)に次の論文が発表されました。妊娠高血圧症では、母体における血管内皮細胞の機能障害が起こっているから、妊娠高血圧症の予防的治療としてアスピリン投与を推奨するという論文です。この論文は「他に治療法がないことを考慮すれば、疾病負荷を軽減し、転帰を改善するために、ハイリスク女性に対するアスピリン投与を推奨することは妥当」と結論づけています。 過去のブログで妊婦がアスピリンなどを服用する危険性を指摘しました。果たしてアスピリンに妊娠高血圧症の治療的な意味があるのでしょうか?参考はhttp://p-lap.doorblog.jp/archives/43325276.html ▽今年5月の米国内科学会誌は、原因不明の不育症(RPL)にかかった妊娠5-8週の妊婦434人を対象に、低分子量ヘパリン(LMWH)注入の流産予防効果を無作為化比較試験で調べた成績を掲載しています。ヘパリンは、血液凝固を阻止する働きをする生体物質です。肝臓などで作られています。血液凝固による血栓が作られるのを抑えます。 ▽この無作為化比較試験の成績では、ヘパリンには流産予防効果が無いと結論しています。度々、流産を繰り返す人を不育症と呼びます。不育症は、血液凝固の亢進が見られるため、ヘパリンやアスピリンなどの血液凝固を抑える薬が治療的意味を認められるとする考え方があります。これに対しアスピリンやヘパリンには、不育症の治療効果はないとする報告もあります(Cochrane Database Syst Rev. 2009)。 流産は、妊娠初期に繰り返し起こります。不育症の抗凝固療法も、基本的に妊娠高血圧症の抗凝固療法と同じ結果になるように思われます。 ▽妊娠高血圧症は、古くは妊娠中毒症(英語ではtoxemia=妊娠による毒血症)と呼ばれていました。この言葉も、ある意味、この病気の本質をとらえた名称といえます。 母体が、妊娠(胎児が子宮で育つ)状態に中毒症状を起こしていると考えたわけです。食中毒という言葉に置き換えると、理解し易いですね、食べた食物に胃腸がびっくりして、下痢などの症状が現れているのです。 ▽米国の大学でATⅢ治療法が試みられている話から、妊娠中毒症の病名の由来を改めて考えました。そして今、病因に基づく妊娠高血圧症のみならず、流産の根本的な治療法の開発を急がねばならないと心の底から思っています。http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=38573481 http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=42977235 http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=43673641
2015年05月
▽因果応報という仏教の教えがあります。平たく言うと、原因があって結果が生まれるということになります。
▽妊娠高血圧症は、その病因が不明で、治療法は有効なものが何らありません。病因が不明ということは、治療法には色々な考え方が登場し、結局、何時までも根本的な治療法が見出せません。残念ながら、これが産科医療の現状なのです。
▽ところが、胎児が子宮内で死亡する、または、低体重児を覚悟で娩出させると、恐ろしい症状は嘘の様に消え去り、妊娠高血圧症は治癒します。
この事実を謙虚に考えると、生きようとする胎児が子宮内に存在することが、根本原因(病因)と言えます。それでは、その結果です。
▽母体に現れる臨床症状が結果になります。まず、浮腫(体重の異常な増加)です。正常な妊娠の経過なら、妊娠中その時期を問わず、1週間に400g妊婦の体重は増えていきます。それを上回る体重増加は、浮腫が現れていると考えねばなりません。
▽2番目の症状は、血圧の上昇(高血圧)です。以前のブログで、妊娠の経過が順調なら、妊婦の血圧は妊娠期間の中ごろ(妊娠14-30週ころ)では、妊娠前より低下すると書きました。http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=38627969
▽3番目の症状は、タンパク尿です(尿にタンパクが排出される)。タンパク尿は腎臓の働きの障害を意味します。病気が進行(悪化)していると考えねばなりません。
病気の悪化は、その他の症状として現れてきます。言い換えれば妊婦の体には色々な生理(病態)変化が起こっています。生体防御の反応です。その中には炎症反応の変化も含まれます。
▽かつて名古屋大学在職中、欧州の妊娠高血圧症学会に参加したことがありました。確か、イギリスの有名大学教授の「妊娠高血圧症の病因は炎症」という内容の講演を聴きました。
「おかしい」と思ったので、フロアーから「多数の妊娠高血圧症の治療を経験してきましたが、患者さんが発熱するという事実はありません。仮に原因が炎症なら発熱するのが当たり前ではありませんか」と質問しました。しかし何ら明確な回答はありませんでした。
▽病気の悪化に伴う生体防御の反応を取り上げると、このような滑稽な妊娠高血圧症の炎症説がまことしやかに講演されるのです。
▽妊娠高血圧症の主症状である血圧上昇の究極の変化は「子癇発作」です。急激な血圧上昇で脳内循環が悪化して、意識がなくなり、全身痙攣が起こります。また血液の変化を中心にしたものでは、HELLP症候群と呼ばれる播種性血管内凝固(DIC)が起こるケースもあります。DICは、3つの病態の頭文字を略しています。即ち、溶血(hemolysis)、肝機能悪化(elevated liver enzyme)、血小板減少(low platelets)です。
▽この病態で起こるDICは、主な症状として、出血しやすくなる、または、全身の微小な血管の障害と血管が詰まって肝臓など母体の臓器に障害が現れます。症状が進むと、ショックや稀に出血傾向(溶血性貧血)を伴い大変危険な状態になります。
次回にこの続編を書きます。
最近は、逆子だけで、多くの医師が直ぐに帝王切開術を分娩方法に選びます。妊婦さんは、やむなく、時として進んで帝王切開手術で分娩しています。
私たち産婦人科医が忙しく働いていた昭和40年代は、いかに巧みに経腟分娩で逆子の分娩を取り扱えるか、あるいは、いかに鉗子分娩を安全にこなして帝王切開手術を避けることが出来るか-などが産科医の力量(技術)を測るバロメーターでした。
その頃、若い医師仲間で、帝王切開術をポンポンとするなら外科医と産婦人科医は何ら変わらない。これらのテクニックを安全にこなして、初めていっぱしの産婦人科医と言えるのだと語り合いました。私は開業医だった父親から、これらのテクニックを直接指南してもらいました。自慢ではありませんが、今でも自信があります。
先般、新潟市の私の友人の奥様と電話をしていたら、彼女は妊娠中で受診している病院で逆子と言われて困っていることを知りました。病院の助産師から逆子体操を指導してもらい、2週間程、体操を毎日頑張っているが、逆子が修復されないと訴えられました。
私は、逆子体操を指導するときのポイントを次の様に話しました。
逆子体操は膝胸位の体操です。膝胸位ですから、妊婦さんが膝を曲げてほぼ直角に自分の胸を床に付ける姿勢を取ります。この姿勢は、いわば妊婦さんが腰から胸までを逆立ちに近い状態で少なくとも10-15分間維持しておくことになります。
この姿勢によって、胎児は骨盤から浮き上がり、妊婦さんの肋骨に近い場所へ一時的に移動するのです。逆子が修復するのは、この体操の後、胎児が自ら回転して頭位に戻るのです。
このことを十分理解して指導されるパラメディカルの方が意外に少ないように思われます。
体操中に逆子が修復するのではありません。このメカニズムを妊婦さんが理解すれば、次に妊婦さんが知るべきことは何か、すぐ分かるはずです。
胎児の背中が右か、左かの点です。逆子体操で胎児が妊婦さんの肋骨に近い場所へ浮き上がったら、妊婦さんはすぐさま胎児の背中側を上にして、真横の姿勢を取らねばなりません。その姿勢を崩さないようにして、真横になって翌朝まで休んでいる間に胎児は回転して頭を下にするのです。
逆子体操の際、私は「まず、自宅の全ての座布団を集めてください。その後、ご主人に頼んで真横の姿勢が崩れないよう、あなたの前と後ろに座布団を積み上げてもらって睡眠しなさい」と話しています。胎児の頭は、体格の割に大きいのです。この真横の姿勢を翌朝まで維持する間に胎児はくるりと回転して頭を妊婦の骨盤側(下)にするのです。
このような観点から、私は睡眠前にこの体操をするように指導しています。パラメディカルの方々の逆子体操で欠けているのは、妊婦が膝胸位の姿勢をとるとき、妊婦は当然かなり苦しい姿勢なので、そこまで厳しく指導していないのではないでしょうか。
(1)両膝を可能な限り接近させる(2)胸を直接床に付ける。この2つが、指導では大切です。この姿勢が原則なのに、苦しいから両肘を曲げて体重を支える姿勢でОKとしているのは問題でしょう。
これでは、両膝を開いて、両肘で体を支える。まるきり四つん這いに近い姿勢になります。妊婦さんは少しも苦しくなく、胎児も骨盤から浮き上がりません。楽な姿勢でと考えて、まるきり四つん這いに近い姿勢では、逆子は頭位に戻らないのです。
新潟市の友人の奥様に1週間後にお電話しました。とても明るい声で「逆子が頭位に戻っていると病院で言われました」と話されました。安堵の声を聴けて、少しはお役に立ったと喜びを感じました。今頃は、元気な赤ちゃんが生まれているでしょう。
微生物化学研究所の青柳先生は、梅澤濱夫先生と共にべスタチン、アマスタチンなど多くのアミノペプチダーゼの阻害剤(酵素作用を抑える物質)を発見された日本の優れた研究者です。残念ながら今年の初めに亡くなられました。 産婦人科臨床医の私と青柳先生とは、どう考えても接点が浮び難いと思います。少しご説明いたします。私が産婦人科臨床(病気)の難題を抱え、数ある病気の中で産婦人科医しか取り組めない病気である「妊娠高血圧症と早産」の原因と治療に取り組むうちに青柳先生との出会いが必然的に生まれました。 「妊娠高血圧症と早産」の原因と治療を考える必須の武器が、青柳先生が発見されたアミノペプチダーゼ阻害剤だったのです。私が、「妊娠高血圧症と早産」の治療薬として、その基礎と臨床研究を長年継続する中で使用したべスタチンは、既に抗がん剤(主に血液の癌)として臨床に広く使用されているのは、よくご存じのことと思います。 「妊娠高血圧症と早産」の原因と治療を日夜考えつつ、私は微生物化学研究所の青柳先生をお訪ねして色々とご教示頂きました。先生が昭和薬科大学へご栄転されてからは、東京都町田市の大学の研究室を度々お訪ねして、ご講義を拝聴させて頂きました。 実は、微生物化学研究所と昭和薬科大学での先生のご講義の過程で「病態と治療におけるプロテアーゼとインヒビター研究会」が生まれたのです。私が、名古屋大学助教授の時代に第1回の研究会が開催できました。平成8年8月のことです。この研究会は今は病態プロテアーゼ学会となり、奈良県立医科大学産婦人科教室の小林浩教授が理事長として、本学会発展のためにご努力頂いております。 青柳先生からお聞きしたのですが、先生は第一製薬(現在第一三共)で研究された時、現在も臨床で広く使用されている止血剤トランサミンの開発を手掛けられました。トランサミンは無論止血剤として使用されていますが、今では女性が肌の白さ(老化防止)を保つための一般薬として広く皆さんが使用されるクリームなどにも使用されているようです。 また、先生は米国でオンデッティ博士らがアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤を開発したとき、その会議に米国へ招かれて相談を受けた事をお聞きしました。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤はアンジオテンシンという人の体の中にある最強力な血管収縮ホルモンが新たに出来るのを防ぎます。(ACE)阻害剤は、今も世界で広く使用されている降圧剤です。随分昔の話ですが アルッハイマー病で有名なアミロイドβ(ベータ)の発見者 グレナー博士の下で研究したフィンランドのHopsu-Havu先生(皮膚科)が現在のIPS(第3回を名古屋市で開催)の前身の「プロテアーゼ研究会」をフィンランドで開催した時、先生のお供をいたしました。 その際、私と同じオキシトシン分解酵素の研究者サーラ・ランペロ先生のご自宅に泊めていただきました。朝起きますと、青柳先生は庭の苔の土を採取しておられました。「どうされるのですか?」とお尋ねすると、「日本へ戻り、土からアミノペプチダーゼ阻害剤の探査をするのです」とお答えになり、眠気が覚めたのを鮮明に記憶しています。
▽「新生児禁断症候群」という病名を聞かれたことはありますか? “禁断症状“は、麻薬中毒者の薬が切れた時に起こす壮絶な興奮状態を想像します。いわゆる離脱症状です。
▽麻薬常習者が、この状態から抜け出すのは至難の業です。だから、いつまでも使用し続けるのです。なんと、これとよく似た症状が、生まれたばかりの赤ちゃんに起きるというのです。
▽最近、米国の医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に発表された報告があります。米国でNICU(新生児集中治療室)に緊急搬送された赤ちゃんのうち、「新生児禁断症候群」と診断された赤ちゃんの割合が、ここ10年間で約4倍も増加していることが分りました。
▽2013年にはNICUで1000児のうち27児がこの症状でした。原因ははっきり分かっています。妊婦さんが使う鎮痛薬、例えば、ハイドロコドン、オキシコドン、モルヒネ、コデインなどの合成麻薬剤(オピオイドと言います)を妊娠中に使用していたからです。▽つまり、お腹の中の赤ちゃんは生まれる前から、お母さんからの麻薬を吸収してしまったのです。妊娠中に使う薬や環境から吸収した汚染物質やタバコの煙なども影響があると考えられます。
▽胎児はデリケートで急速に成長するため、悪い影響も急速に受けてしまいます。何という悲劇でしょうか。真剣に考えなくてはなりません。これらの薬剤は、妊婦が自ら使用するものです。
▽私どものNPOが取り上げている“危険な薬剤=現在早産や妊娠高血圧症に使われている薬剤”は、全くその意味が異なります。すなわち、患者さんの意志に関係なく、医師がそれらの薬剤を投与しているからです。
▽今回取り上げました「新生児禁断症候群」とは、その意味が異なりますが、赤ちゃんが受ける影響は大変大きな問題と考えられます。