▽妊娠して、しかも早産になりかけたりしない限り、妊婦さんが切迫早産の治療薬のことを知る機会は少ないと思います。この薬は、よく「子宮の張り止めの薬」と呼ばれています。お腹の張りを訴える妊婦さんに、産婦人科医がこともなげに「じゃあ、張り止めのお薬を出しましょうか?」と言ったという話はよく耳にします。
▽良く使われている張り止めの薬は「基本的に喘息のくすりであるべ-ター2刺激剤」です。今では先発薬は特許切れなので、その特許が失効した後に発売されたゼネリック(後発薬)と呼ばれる薬が多数あります。
▽私は、先発も後発も張り止め薬を使った経験がないので知らなかったのですが、名古屋市内のある会合に出席した際、そのゼネリック(後発薬,A社)の「使用上の注意」という添付文書を読む機会がありました。一般の人も読もうと思えば読めるのですが、普通はお医者さんしか読みません。
▽その添付文書の内容に、びっくり仰天しました。そこには次の様に記載されていました。1. 妊娠16週未満の症例(妊婦のことです)に関する安全性及び有効性は確立していないので,投与しないこと(使用経験が少ない)2.出産直前に本剤を投与した場合には,出産直後の授乳を避けることが望ましい.[動物実験(ラット)で乳汁中への移行が報告されている.]。
▽興味を持たれた方はURL:http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2590004F1273_1_02をクリックしてください。これは、独立行政法人医薬品医療機器総合機器のホームページです。
▽話を戻します。この「子宮の張り止めの薬」を使われる先生方は、「出産後の授乳は避けるのが望ましい」という表現に違和感を覚えませんか? 張り止めの薬が、妊婦に投与されると、点滴薬でも錠剤でも、薬の有効成分は胎盤を簡単に通過して胎児の血液濃度は、妊婦の血液濃度と同じになります。この子宮の「張り止めの薬」の発売以前から良く知られていた事実です。
▽産婦人科医なら常識ですが、褥婦(じょくふ=分娩後2週間までの妊婦の呼び方)の乳汁の分泌が始まって1週間は、新生児が免疫力を母からもらえる唯一の機会なのです。母乳の初乳(鬼乳=きにゅう)は、免疫の大切なタンパクがあるため、是非とも新生児に飲ませるべきなのです。詳しくは次のURLをクリックしてください。URL:http://p-lap.doorblog.jp/archives/40080325.html
▽ところが、「張り止めの薬」を投与されている妊婦さんは、貴重な初乳を赤ちゃんに飲ませない方が良いことになります。「子宮の張り止めの薬」の「使用上の注意」の「出産後の授乳は避けるのが望ましい」という表現は、「張り止めの薬」が胎児に移行すると、副作用が発生する可能性が高いのを“自供”しているようなものでしょう。
▽仮にそうではないとするなら、分娩直後の赤ちゃんに欠かせない鬼乳はなぜ避けるのが望ましいのか。そこまで書かないと、使用上の注意文書にはならないと思うのですが。どうでしょうか。