▽女性の顔色は排卵時に通常より赤くなることが知られています。この微妙な変化は、ヒトの目では分からないことが多いのですが、受胎能(排卵)がピークになった合図なのです。

▽この合図は、ヒトの進化過程で排卵を隠すことが、都合がよく利益も大きくなり、目立たないようになった可能性がある、という考え方が、今年、英ケンブリッジ大獣医学部のHannah Rowland氏らの論文で報告されました。(注1)

▽ローランド氏らは、1カ月間にわたり女性22人の顔色の変化を調べました。普通のカメラよりも、正確に色を捉えるカメラを用い、化粧をしない状態で顔写真を毎日撮影。その後、コンピューターを使い、写真に写った女性の頬の同じ部分を選択。各女性の画像を赤、青、緑の値に変換して(RBG変換のことです)、色の濃度変化を評価しました。

▽被験者の女性には決められた間隔でホルモンの変化を自己検査してもらい、最も受胎能の高い時期を特定しました。「黄体ホルモン値」の急激な上昇後24時間以内に排卵が起こると予測したと書かれています。結論から言うと、これは「黄体ホルモン」ではありません。「卵胞ホルモン(エストロゲン)」の間違いです。

▽女性の頬の赤みは1カ月で著しく変化し、排卵時がピークでした。月経開始に伴い、顔面の赤みは大きく減りました。赤みは排卵周期の体温変化と一致していました。つまり赤みは、エストロゲン値が低下するまで残っていたということです。

▽ローランド氏は「他の霊長類と同様、ヒトも顔色が排卵の合図かも知れない、と我々は考えたが、男性が気付く変化は見られなかった。しかし、女性は無意識に化粧や赤い洋服などで、この顔の赤みを強調しているのではないか」と話しています。

▽さて、ここで少し女性ホルモンのお話しを致します。健康な妊娠可能な女性は、毎月定期的に卵巣から排卵が起こります。それは通常、月経開始から14日目前後です。排卵直前の卵巣内の卵は、大きさが17-20mmにもなっています。月経時にはせいぜい5mm前後の卵が、わずか14日間で育つのです。この卵の成熟と正比例して卵胞ホルモン(エストロゲン)が、発育する卵から分泌されて血液中に増えてきます。

▽エストロゲンには、血流を増やす働きがあります。ですから、ローランド氏らの「女性の顔色は排卵時に赤くなる」という話は、エストロゲンが体内に増加してきて顔面だけではなく全身の血流が増していることを表わしています。

▽ところで皆さんは、動物ではエストロゲンのことを「発情ホルモン」と呼んでいるのをご存知ですか? ヒトでは、このような“下品”な名前ではないのですが、基本的に同じホルモンです。ネズミではエストロゲンが増えるとセックスするのです。ローランド氏らの「女性の顔色は排卵時に赤くなる」という報告は、ネズミではセックスすると同義語なのです。

▽ヒトの男性では、性ホルモンは男性ホルモン「テストステロン」のみですが、女性にはもう1つのホルモン「プロゲステロン」があります。このホルモンは、排卵した卵の抜け殻(黄体と言います)から分泌されて血液中に増えてきます。このホルモンは、妊娠をさせようとするホルモンです。「プロ」はプロパガンダなどというように、物事を推し進めるという意味です。「ゲステロン」は妊娠という意味です。つまり妊娠を推し進めるホルモンなのです。

▽女性の健康は、2つの女性ホルモンがバランス良く卵巣から分泌されて維持されています。更年期になると、健康な女性でも排卵が不規則になります。その結果、2つの女性ホルモンのバランスが取れなくなります。更年期の初期には、排卵が不規則となり、殆ど黄体ホルモンがなくなり、卵胞ホルモン優位になります。

▽さらに年齢を重ねると、卵胞ホルモンもなくなり、女性としての活力を生む性ホルモンがなくなってしまいます。この変化が、更年期の「女性の顔色」を含めた体調の変化や女性特有の疾患の根本なのです。

▽皆さんは、ピル(経口避妊薬)の名前はご存じと思いますが、その中身はご存知ですか?これまで書いてきた排卵時に増えるエストロゲンと排卵後の卵の抜け殻(黄体)から分泌されるプロゲステロンと同じホルモンが、極微量含まれているのです。

▽「ピルを飲むと癌や血栓が出来る」など、ネット上では全く根拠のない健康情報が溢れています。しかし、これは全く間違っています。女性を女性らしく、活力を与えている源泉のホルモン(ピル)を飲むのが、どうして危険なのでしょうか。全く科学的な根拠のないでたらめな健康情報です。

▽健康に関する情報は確かに大切です。ただ中には医学を学んで勉強した方のエセ情報も少なからず含まれています。簡単に信用しないようにしてください。


注1:Burriss RP, et al. PLoS One. 2015;10:e0130093.