日本産婦人科医会は「母体安全への提言 2014」で、HELLP(ヘルプ)症候群の管理は母体の重篤な合併症を念頭に置き、積極的管理(硫酸マグネシウム、降圧療法、ステロイド投与)を行うとしています。



ここで少しヘルプ症候群を説明しましょう。妊娠後期または分娩時に発生する肝臓の病気で、母体が生命の危険に晒されます。ヘルプは、この病気の3大徴候の英語の頭文字を取っています。Hemolytic anemia(溶血性貧血)、Elevated Liver enzymes(肝逸脱酵素上昇)、Low Platelet count(血小板低下)の3つです。



ヘルプ症候群は、妊娠高血圧症に伴って発症するケースが多いことが知られています。以前のブログの内容との重複があるかも知れませんが、大いなる疑問の理由を書いていきます。



1)まず、低出生体重で生まれた赤ちゃんは、成人になって不安障害やその他の精神健康上の問題を抱えるリスクが高いことは、イギリスの疫学者バーカー博士の理論として知られています。バーカー博士は低出生体重児の成長過程における自殺との関連性を調べました。出生体重別に男児と女児を成人まで追跡しました。2001年に発表されたバーカー博士最後の研究論文で胎児の低栄養(低出生体重児)は、男児成人時の精神障害や鬱のリスクが高くなると報告されています。(文献1)

2)次に出生前ステロイド投与の問題です。カナダ・マックマスター大のRyan Van Lieshout准教授らのチームは、19771982年に「超低体重」(1000g未満)で生まれた成人84人を問診し、正常体重で生まれた同年齢の成人90人と比較しました。

その結果、早産群では不安障害、うつ、または、注意欠陥多動性障害(ADHD)の比率が2倍以上であることが判明したと報告しています。特に出生前にステロイド投与を受けた人はリスクが高く、例えば、社会恐怖症リスクは6倍、ADHDリスクは10倍だったと報告しています。



3)硫酸マグネシウムを妊婦に投与することの問題点は、1997年以来、米国のロヨラ大ミッテンドルフ教授が、切迫早産や妊娠高血圧症患者に硫酸マグネシウムが使用された場合、新生児が脳室内出血や周産期死亡例が増加するとする警告されているのは周知の事実です。

4)さらに私は、既存の降圧薬を重症妊娠高血圧症の妊婦に投与するのは、胎児・胎盤循環に悪影響を及ぼし、ヘルプ症候群を一層悪化させると考えています。

なぜなら、降圧剤で母体血圧を下げれば、胎児・胎盤の血圧も下がり、胎児は一層過酷な環境、即ち低酸素状態に置かれるからです。血圧が下がることで、胎児は母体血液から得る酸素が減ってしまうのです。

5)その結果、胎児はさらに低酸素状態に曝されます。そして低酸素に敏感に反応するホルモンのバゾプレッシンやアンジオテンシンを、胎児が大量に分泌して、胎盤を通過して母体に流れ込み、母体の血圧はさらに上昇します。

さて皆さんは、どのようにお考えになられますか?

1)C.Thompson et al.British Journal of Psychiatrics 2001, 179;450-455