2016年08月

Dr.水谷の女性と妊婦講座 No.74 「低用量ピルの使用は肺血栓症リスクを下げる。フランスの調査で明らかに。英国医師会雑誌が掲載」。

 ▽「ピル」といえば、日本では良いイメージを持つ人はそういません。副作用の代名詞と扱われる風潮さえあります。果たしてそうでしようか。女性の体内で作られる女性ホルモンが極微量含まれ、排卵を抑える経口避妊薬がピルです。避妊以外にも女性にたくさんのメリットがあります。皆さんにピルを正しく理解していただくため、このブログを書きます。最後までお付き合いください。





▽さて、ピルは最近開発されたような印象が強いようですが、かなり以前に開発されています。特に欧州では成人女性の50%以上が服用しているというデータがあります。国連の2011年の報告では、世界で1億400万人の女性がピルを使っています。



▽ピルの歴史を振り返ってみます。米FDA(日本の厚労省に相当)1960年、黄体ホルモンと卵胞ホルモン150μg(ナノグラム、1μgは1㎎の1000分の1)のホルモン配合剤「エナビット」を、経口避妊薬として初めて承認しました。その後、「ノアルテンD」、「アノブラール」などが相次ぎ承認され、販売されました。



▽私は1966年から4年間、名古屋大産婦人科の大学院生でした。当時、成田収先生(現名古屋成田病院理事長)や故飯田講師が「アノブラール」を中心にしたステロイドホルモンの研究をしておられました。私は、産婦人科の開業医だった父に、人工妊娠中絶術後の女性に「アノブラール」の使用を勧めました。父は三重県桑名市の開業医でしたが、日本でも早くから「アノブラール」を使った産婦人科医の一人だったと思います。



▽「アノブラール」などのピルには、エストロゲンが50μg以上含まれています。1961年のピルによる血栓症の報告を皮切りに、ピルと血栓症の副作用の報告は広く知られていました。エストロゲンが、いくつかの血液凝固因子を増加させるためです。血液の凝固は用量依存的でエストロゲンが50μg以上のピルを服用した場合、稀にみられることが明らかになってきました。



▽一方、エストロゲン50μg以下の低用量ピルは、1990年7月の申請以来、9年間の長期審査を経て1999年に容認されました。世界に遅れること約半世紀。ビルはやっと、日本でも使用可能となったのです。

これに対し異例の短期審査で承認された薬剤は、切迫早産や妊娠高血圧症候群の妊婦さんに広く使われている“張り止め薬”のウテメリンです。胎児や妊婦の心臓などに副作用が及ぶ危険性の高い薬であるにもかかわらず、わずか1年間の審査で解禁されました。



▽話を戻して、エストロゲン量別にピルの静脈血栓症の発症率を書きます。これは、1万人の女性が1年間に何人発症するかの数値です。非服用者は1.1人から2.8人、平均1.2人と考えられています。1978年から1991年の報告によると、中高用量ピル(エストロゲン50μg以上)では7.5人から10.4人、平均8.3人です。低用量ピル(エストロゲン50μg以下)では3.0人から4.2人、平均3.7人となっています。



▽この数値を比較すると、血栓症はピルにとってある程度不可避の副作用であり、血栓症はエストロゲンの用量に依存していることが分かります。しかしながら、妊娠による血栓症リスクは、5.9人から20人という報告があります。ピルで起こる血栓症は,妊娠による血栓症のリスクよりはるかに低いレベルの頻度なのです。



▽そうした事実があるにも関わらず、女性の体全体の健康管理から逸脱して、ピルによる血栓症発現の危険性のみが論争になっています。新しい低用量ピル(エストロゲン50μg以下)が使用されるようになっても、副作用論争がしばしば繰り返されます。



▽なぜでしょうか。ピルは健康な女性が飲みます。このため何か異常を感じると、ピルが原因と考えて副作用に敏感に反応する傾向があります。中でもマスコミは、ネガティブな情報を取り上げやすく、その影響を受けていると考えられます。



英国医師会雑誌『BJМ』が掲載した今回の論文は 、フランスの全国健康保険組織公衆衛生研究部門のAlain Weill氏らが、フランス人女性500万例を対象としたコホート研究の結果です。経口避妊薬の使用が認められた5443916人/年において、血栓によると考えられる重篤な合併症である肺塞栓症が1800例(人口10万人年当たり33例)、虚血性脳卒中1046例(人口10万人当たり19例)、心筋梗塞407例(人口10万人当たり7例)でした。

エストロゲンの用量が低量(20μg)のピルは、高用量(30-40μg)のピルと比べ、肺塞栓症や虚血性脳卒中、心筋梗塞のリスクが低減することが示されました。



▽こうした結果を踏まえ、論文の著者は「エストロゲン20μgの用量で黄体ホルモンとしてレボノルゲストレルを組み合わせたピルが、全体として肺塞栓症や動脈血栓塞栓症の低リスクと関連していた」と結論付けています。

レボノルゲストレルは、日本でも広く使用されている低用量ピルに含まれている黄体ホルモンです。



▽血栓症は、脹脛(下肢の裏側)や腋窩(脇の下)の血栓症として発症することが圧倒的に多いとされています。深部静脈血栓症は大半が自然消失するため、発症率の計算は困難といわれています。ピル服用以外に、肥満や妊娠、外傷、悪性疾患との関係が指摘され、血栓症患者のいる家族歴はハイリスク因子とされています。

血栓症が発症しても、大部分は治療により治ります。深刻な肺塞栓症に進行するのは稀です。しかも深部静脈血栓症は若い女性では極めて稀といわれています。



▽現在、使われている「低用量ピル」は、エストロゲンはすべてがエチニルエストラジオールで20-40μgの用量です。黄体ホルモン剤は、ノルエチステロン、レボノルゲストレル、デソゲストレル、ゲストデンなどがあります。使用する際の参考にされてください。



文献:Weill A et al. BMJ,2016;353:i2002





 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

Dr.水谷の女性と妊婦講座 No.73「ホルモン補充療法(HRT)は明らかに大腸癌や直腸癌のリスクを下げる。デンマークの国家規模の統計で改めて判明」。


HRTもピル(経口避妊薬)も二つの女性ホルモン(卵胞ホルモン:エストロゲンと黄体ホルモン:プロゲステロンン)を投与するので、基本的には同じ事と考えて差支えありません。過去のブログで、英国の1968年から2009年に及ぶ長年の調査でピルの内服者は、大腸癌や直腸癌が明らかに減少すると指摘しました。この調査は、英国の開業医と助産師の団体が行った、長年にわたる調査でかなりしっかりした調査です。これらの調査以外でも、女性ホルモンが大腸癌や直腸癌のリスクを20-40%下げることが、海外の調査で確認されています。女性[n1] ホルモンの投与は、大腸癌や直腸癌の発症に関係することが既に示唆されているのです。



▽今年1月、欧州疫学雑誌『Eur J Epidemiol』が次の内容の論文を掲載し、この事実をさらに補強しました。



▽北欧のデンマークは、ホルモン補充療法(HRT)の施行者を登録しています。その一方で大腸癌や直腸癌の患者は、国家のがん登録システムの対象になっています。すなわちHRTの施行者と大腸癌や直腸癌の患者は、どちらもデンマークが国家管理しているのです。



▽調査は、この2つの対象者で実施されました。まず、過去に癌の病歴がない50-79才の100万6219人を1995年から2009年まで調べ、がん登録システムから大腸癌患者8377人、直腸癌患者4742人をピックアップしました。



▽一方、HRT施行者すなわち卵胞ホルモン(エストロゲン)単独使用者及びエストロゲンと黄体ホルモン(プロゲステロンン)双方使用者の、いずれでもホルモン非HRT施行者と比べると、大腸癌の発症頻度を0.77まで、直腸癌の発症頻度も0.83にまで下げていました。



▽エストロゲンの経皮製剤(皮膚に塗って吸収させる薬剤)は、内服より癌予防効果に優れています。ただエストロゲンの経皮製剤でHRTを施行する際に併用するプロゲステロンンの投与量やその種類は、癌の予防効果に関係しませんでした。



▽HRTの施行期間が長期間になるほど、大腸癌や直腸癌のリスクを下げる傾向を示し、HRT施行者では大腸癌や直腸進行癌の発生頻度が少なくなっていることも明らかになりました。



▽10年以上のHRT施行者(今回調査時もHRT施行中)を調べると、非HRT施行者と比べ、大腸癌の発症頻度を0.72に、直腸癌の発症頻度は0.89にそれぞれ下がっていました。

今回調査の成績は、HRTと大腸癌や直腸癌との関連性を明らかにする事実として注目すべきと考えられます。



文献:Morch LS et al.EurJ. Epidemiol.DOI 10.1007/s10654-016-0116-z




 


 


 


 


 


 


 


 


 

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