2017年01月

Dr水谷の女性と妊婦講座No.89「EUはウテメリンの産科適応に使用禁止や制限。妊婦、胎児双方の心血管副作用リスクを考慮」

▽ウテメリンを服用して男児を出産した女優の釈由美子さんの経験を、No.88のブログで取り上げました。その末尾で主治医が「赤ちゃんを守るために必要なのだ」と釈さんを説得してウテメリン錠を飲ませ続けた服薬指導は、産婦人科医として正しい判断だったのでしょうか、と書きました。

▽恐らく、そこまで書かなくても、と思われた方もいらっしゃるでしょう。しかしウテメリンの母体と胎児への副作用を考えると、どうしても書かざるを得ません。なぜなら、ウテメリンは母体にとどまらず、お腹の赤ちゃんにも悪影響を与える可能性が高いからです。この可能性が高いからこそ、妊婦や赤ちゃんに少しでも安心、安全な治療法として、50年の産婦人科医としての経験に基づく切迫早産や妊娠高血圧症の治療法(エストロゲンとプロゲステロンの漸増療法)を提言しています。次のURLをクリックしてください。
http://p-lap.doorblog.jp/archives/18011183.html

▽後述します
EU(欧州連合)がウテメリンを規制した際、どうして医薬品医療機器総合機構や日本の学会が、この提案を無視されたのか。いまなお疑問です。


▽No.87とNo.88のブログで妊婦の血液検査のCK(クレアチニンキナーゼ)の数値が、ウテメリンの投与開始から短期間に上がることを述べました。私たちのNPОの会員のお母さんが、陳旧性心筋梗塞(発症から時間が経った心筋梗塞)と慢性心不全と診断されました。循環器の医師から血中のCKの値は、病状を反映する主な指標と聞き、CK値に神経質になられています。

▽申し上げたように、ウテメリンは胎盤を容易に通過します。胎盤と胎児は臍帯で連結したユニットです。母体に投与されたウテメリは、胎盤を通過して母体で働くのと同様に胎児に働くと考えるのが当然でしょう。

母体の子宮収縮を抑えるための薬が、胎児の心筋を傷害しているのは間違いないはずです。2012年7月のブログでも、ウテメリンは新生児の心臓に障害を与える可能性があると指摘しました。

 

▽この事実は1981年5月の時点で、ドイツで報告されています。およそ20年前の話です。ドイツのベームという産婦人科医のグループが、早産や流産を予防するため、ウテメリンを妊娠8週間から24週間投与された妊婦が産んだ新生児25人を調べました。

▽その結果、3人に局所的な心筋の壊死(細胞が死滅)、3人に心筋細胞の脂肪変性(心臓の筋肉細胞が脂肪細胞に変化)、14人に心筋内膜(心臓の内側の細胞)下の心筋細胞の核が変化していました。細胞は核と細胞質から出来ています。その核が変化していたのです。

▽胎児は、当然ですが、自らの苦痛を訴えることができません。私たち産婦人科医は、もっと真摯に胎児の悲鳴にも耳を傾けるべきです。

▽心筋梗塞は、心臓に栄養や酸素を送っている冠動脈の血流量が減り、心筋が虚血状態になって壊死した状態をいいます。診断には、心筋マーカーと呼ばれる血液検査をするのが一般的です。その検査で心筋の状態を調べる値がCKなのです。心筋の細胞が障害されると、血中のCK濃度は高まります。

▽もちろん、ウテメリンを処方された胎児のすべてで胎児の心臓筋肉が傷つくとは申しません。しかしEU(欧州連合)は2013年10月、早産防止や過度の分娩収縮抑制などの産科適応で、経口剤の短時間作用型β刺激薬(ウテメリン錠)を使用すべきでないと勧告しました。さらに注射剤については,特定の状況下で短時間(基本的に48時間以内)に限って使用を認めるように改めました。

▽以前から北米ではリトドリンは使われていません。日本と同じようにリトドリンを使用していたEUでは厳しい使用制限がなされることになりました。その結果、ウテメリンがいまなお使われているのは、日本だけになりました。

EUは、ウテメリンを産科適応で使用した場合,母親も胎児も重い心血管系副作用のリスクがあると結論付けて勧告したのです。

▽EUの勧告は、日本にも届きました。このとき、EU同様の措置を取っていたら、釈由美子さんの主治医が「赤ちゃんのためにウテメリンを飲みましょう」と服薬指導することはなかったはずです。しかし残念ながら、厚労省や独立行政法人医薬品医療機器総合機構は、EUとは異なり、ウテメリンの投与をそのまま続けることを容認しました。同じウテメリンなのに、この違いはどこからくるのでしょうか?

Dr水谷の女性と妊婦講座 No.88「妊婦は生まれる赤ちゃんのために必死で張り止め薬の副作用に耐えています」

▽No.87のブログでは、リトドリン塩酸塩注射液(ウテメリン注射液など)と硫酸マグネシウム注射液の併用による早産治療のリスクを薬剤師の皆さんの懸命の努力で回避した事例を紹介しました。日本病院薬剤師会が発行する雑誌『日病薬誌』に日本赤十字社医療センターの植松和子先生(薬剤師)が紹介した事例を基にお伝えしましたが、今回のブログも最初は、植松先生の事例報告を抜粋します。日病薬誌ではウテメリン注射液はリトドリン塩酸塩注射液と一般名で書かれていますが、このブログでは先発薬の「ウテメリン」を使います。

 

▽双胎妊娠切迫早産の診断で入院。30歳代。

入院時妊娠30週1日:ウテメリン注射液100μg/分と硫酸マグネシウム注射液1g/hr(時間)による治療を開始。

妊娠30週3日:切迫症状進行したため,ウテメリン注射液150μg/分に増量。動悸,ふるえ,口渇,熱感,脱力感あり。CK(クレアチンキナーゼ)180IU/L。女性の基準値は32-180IU/Lです。

妊娠30週5日:大腿の筋肉痛と強い脱力感出現。CK257IU/Lに上昇。

薬剤師から医師に連絡。横紋筋融解症を考慮して,ウテメリンの減量とCKのモニタリングを提言。

以後、硫酸マグネシウム注射液0.5g/hrへ減量。

妊娠30週6日:CK163IU/Lに低下。筋肉痛,脱力感軽減。

妊娠31週3日:症状問題なく,ウテメリン注射液150μg/分,硫酸マグネシウム注射液0.5g/hr継続にて切迫症状安定し妊娠継続した。

34週6日まで点滴継続し,35週6日に予定帝王切開となった。

出生体重は1児2228g,2児1728g。2児とも低体重管理目的で新生児集中治療室(NICU)入院。

薬剤師から医師への提言で、ウテメリン注射液と硫酸マグネシウム注射液の併用によるCK上昇を伴う筋肉痛,脱力感の重篤化を回避できた事例です。

ここで注目すべきは、ウテメリン注射液150μg/分と硫酸マグネシウム注射液1g/hrという投与量です。

ウテメリンの通常有効量は毎分50-150μgとなっています。通常有効量でも投与開始からわずか5日目で横紋筋融解症の危険が迫っていたのを、薬剤師が臨床検査値を注意深く観察して食い止めのです。

2012年9月のブログで述べたように、リトドリン塩酸塩の先発品「ウテメリン」を開発したキッセイ薬品(長野県松本市)2002年、妊婦に重い副作用が起こっている実態を厚労省に報告した中で、横紋筋融解症が投与開始後1-3日で発症したと記述しています。

▽ネット検索でウテメリンの副作用を調べると、たくさんのブログが現れます。赤ちゃんのためにと必死で張り止め薬(流早産治療薬)の副作用に耐える妊婦さんの姿が透けて見えます。その中から2つ取り上げます。まず、その1です。

 

「私も入院中にコレ(ウテメリン)の世話になって、20mm切りそうだった子宮頸管が最長で40mm以上まで戻りました。つっても(と言っても)ウテメリンどうのこうのより、医師の言いつけを守って絶対安静を貫いていたから回復したとも言える。
副作用が、そりゃもうエゲツないのである。動悸・四肢の震え・な〜んだ、痛みとかは無いじゃん。と、軽く見ていたら、キッツイキツイ。飲んでから20分-30分もすれば、どれだけ安静にしていようと鼓動がフルマラソン並みに速まり、息をするのもゼェハァ、ゼェハァに。普段が6080くらいの心拍が、簡単に100を超える。スマホをいじって気を紛らわせようとしても、指がドリフ(ドリフターズ)のコントみたいにブルブル震えて、フリック入力(画面上で指を素早く動かす文字入力法)さえままならない!
頭の中に、おでん屋の老婆に扮した志村けんが、ガタガタ震えながら客として訪れたいかりや長介に勢いよく灼熱のおでんをブチあてる、あの懐かしの画面が浮かんでくる。本当に、箸を持つのも難しいのだ。

このウテメリン副作用マックス状態の私を見た夫は、何か違う病気か発作でも起こしたかのように思ったとかなんとか。
助産師さんに「次第に慣れますよ」と言われたけど、1ヶ月近く飲んでも、ビタ一文慣れやしない。
▽その2は女優の釈由美子さんの
2016年5月19日のブログです。タイトルは「ウテメリン」です。

「副作用として動悸、息切れ、気持ち悪さなどに襲われあまり穏やかな状態ではいられません。

お薬を飲んだあとは、しばらく動けなくなるほど、しんどくなります

否応なしにグッタリさせられる。でも、もし入院なんてことになったらこの何十倍も強い点滴を24時間打ち続けなくてはいけないんですよね?

切迫(早産で)入院されている妊婦さんたちの大変さを想えば頭が下がります。こんなことぐらいで、へこたれてるなんて甘っちょろいですよね。

副作用が赤ちゃんに及ぼす影響よりも早産で産まれてしまう方がうんと赤ちゃんに負担がかかるそうで。

赤ちゃんを守るために必要なのだという先生のご指導通り、しぶしぶ?夜の分を飲みました。

正産期に入ればついにこのお薬からも卒業できるらしいので残りもう少しの辛抱だと言い聞かせ、ベビ蔵くんのためにおかぁたんは頑張ります。」

 

▽釈さんは、その後、無事に男児を出産しますが、このブログにはウテメリン5㎎錠の画像を載せています。錠剤は点滴注射液と比べ、副作用は軽いとされています。

 

▽前述した植松先生が紹介された筋肉痛などの症状がある場合は,横紋筋融解症に注意が必要です。横紋筋融解症は,筋肉のみならず、心臓の筋肉細胞を破壊して血中の逸脱酵素CKの上昇を引き起こすのです。

 

▽ウテメリンは、胎盤を容易に通過して胎児に流れ込むため、新生児の心筋への悪影響が心配されます。そのことは、2012年8月の私のブログ「新生児の心臓病の原因は何?」が、大勢の方に読まれていることからもうかがえます。

▽さて、釈さんの主治医は「赤ちゃんを守るために必要なのだ」と説得してウテメリン錠を飲ませ続けたようです。ただ、その服薬指導は、産婦人科医として正しい判断だったのでしょうか。

 





 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dr.水谷の女性と妊婦講座No.87“張り止めの薬”の副作用に苦しむ妊婦さんの悲鳴が聞こえます

 

2012年9月に書いたブログ『ウテメリンは胎児ばかりでなく妊婦をも危険に晒します』は、未だに多くの方々に読んでいただいています。ウテメリン、一般名はリトドリン塩酸塩、妊婦さんの間では“張り止めの薬”とも呼ばれ、強烈な副作用で知られています。

副作用のトップは無顆粒球症※1。次いで肺水腫※2。3番目は横紋筋融解症※3です。

 

▽私たち医師は、薬剤師の先生と協力しながら治療を進めています。医薬分業といい、医師の薬の処方に対し薬剤師は注意を喚起することができます。医師が持つ薬の処方権をチェックする機能を薬剤師に与えているのです。

▽病院勤務の薬剤師でつくる日本病院薬剤師会が発行する『日病薬誌』という雑誌があります。この雑誌の第48巻111号の1335ページ-1338ページに、切迫早産治療薬の副作用による妊婦さんの重篤化をどのように回避したかの事例が掲載されています。報告者は、東京の救急医療拠点、日本赤十字社医療センター(東京都渋谷区)薬剤部調剤課長の植松和子先生です。


▽以下は植松先生の記事の抜粋です。これを読まれて、薬剤師の先生方が、切迫早産の治療薬から妊婦さんの身の安全を守るのにどういう努力をされているか。その一端を垣間見ることができます。

▽まず30歳代の妊婦さんの事例です。

妊娠22週3日目に切迫早産で入院。リトドリン塩酸塩注射液とマグネシウム注射液の併用投与中に、箸が握れない,呂律(ろれつ)が回らない、などの症状が出現。投与量を減らして,高マグネシウム血症の重篤化を回避した報告です。

  1. 入院時 リトドリン塩酸塩注射液150μg/分と硫酸マグネシウム注射液1g/hr(時間)を併用投与。

  2. 妊娠22週4日目 切迫症状が進行したため,硫酸マグネシウム注射液を1.5g/hr(時間)に増量。妊婦さんは動悸,ほてり,ふるえ,口渇,脱力感の症状が現れました。

  3. 妊娠22週5日目。早朝より強い倦怠感が出現。血中のマグネシウム濃度が6.2㎎/dLに上昇したため、硫酸マグネシウム注射液の投与量を1g/hr(時間)に減量。同日昼の服薬指導時、妊婦さんが「呂律が回らず会話ができない,箸が握れない,瞼が重い」などと訴えた。医師に報告した結果、硫酸マグネシウム注射液を0.5g/hr(時間)に減量となり,夕方には症状が改善傾向となった。

血中のマグネシウム値の濃度が上がって、妊婦さんに高マグネシウム血症の症状が出現したのです。

  1. 妊娠22週6日目。 ウテメリン注射液150μg/分,硫酸マグネシウム注射液0.5g/hr(時間)で継続。ところが、骨格筋や心筋が障害された際に血液中へ流出する逸脱酵素クレアチンキナーゼ(CK)が96IU/L(女性の基準値45-163U/l)に上昇

  2.  妊娠23週3日目。以後、切迫早産の症状が落ち着き,リトドリン塩酸塩注射液150μg/分,硫酸マグネシウム注射液0.5g/hr(時間)で投与継続し妊娠継続。

 

▽薬剤師の先生が、妊婦さんの日常動作の訴えを注意深く傾聴することで、高マグネシウム血症の早期発見につながった事例です。切迫早産の治療薬は、短期投与でも重い副作用を発症するのです。

硫酸マグネシウム注射液は,血中濃度が中毒域に入ると、呼吸抑制や呼吸麻痺,呼吸停止,不整脈などの症状が起こります。

今回の事例のように筋力低下などの症状も現れた場合は,横紋筋融解症にも注意が必要と考えられます。横紋筋融解症は,筋肉細胞の逸脱酵素CKが上昇すると確定診断となります

 

▽リトドリン塩酸塩注射液の先発薬『ウテメリン』は、メーカーのキッセイ薬品(長野県松本市)2002年、投与された多くの妊婦に重い副作用が起こっている実態を厚労省に報告しています。にもかかわらず、いまなお安易かつ幅広く妊婦さんたちの早産予防に使われているのです。

 ▽このように、産科救急では一刻を争う事態が日常的に発生しています。ところが、患者が極めて多い生活習慣病(高血圧や糖尿病など)の治療薬は数え切れないほどあるのに、産科の治療薬はなぜ少ないのでしょうか。考えられたことが、ございますか? 

理由ははっきりしています。日本の出生数はせいぜい年間100万、昨2016年は推定96万人-97万人と統計開始以来初めて100万人を切りました。


▽これに対して、生活習慣病の患者は、高血圧にしろ、糖尿病にしろ、優に一千万人を超えています。さらに、産科はお母さんとお腹の赤ちゃんと同時に2人の生命を扱う大変気を使う医療です。新薬の臨床試験をするにしても、万が一不測の事態があっては取り返しがつきません。だから、誰もやりたがらないのです。

リスクが高すぎる半面、見返りがほとんどない。つまり患者がそう望めません。新薬を開発したとしても、売り上げは小さいということなのです。


▽これでは、いつまでたっても産科の治療は発展しません。国民全体でこの現状を打開しないといけないのです。

妊婦さんに安心・安全な薬を提供するのは、女性の社会進出、さらには女性活躍を支える1丁目1番地です。

私たちのNPOは、この道筋を立てるための活動を続けています。どうぞ読者の皆様が、お力添えくださるよう切にお願い申し上げます。

 

無顆粒球症:血液に含まれる細胞成分の一つ。外部から体内に侵入した細菌やウイルスなど異物を排除する白血球が無くなってしまいます。

横紋筋融解症:骨格筋を構成する横紋筋が壊死する状態で、筋肉痛や脱力感の症状が現れます。

クレアチニンキナーゼ(CK):骨格筋や心筋が傷害を受けた際に血液中に現れる酵素。基準値…男性62-287IU/L 女性45-163IU/L 

 

 

 

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