▽東京・上野動物園のジャイアントパンダ、シンシン(11歳)が赤ちゃんを出産しました。5年ぶりの出産を期待して都庁には、垂れ幕がかけられました。担当者は「前回は生後間もなく赤ちゃんが死んでしまったため、今回はすくすく育ってほしい」と話しています。
▽パンダが初めて日本にやってきたのはちょうど45年前。ずっと赤ちゃんができず、多くの人たちが諦めかけていた頃、ランランの体に妊娠の兆候が現れました。日本に来て7年目になっていました。
▽日本中が喜び、初めてのパンダの赤ちゃんの誕生を待ち侘びる中、ランランは突然倒れて息を引き取りました。ランランのお腹の中では、産まれてくるはずだった赤ちゃんパンダも亡くなっていました。ランランの死因は、妊娠高血圧症(妊娠中毒症)でした。
▽パンダもヒトと同じように妊娠中毒症に罹(かか)ることは、昔から知られています。私たちのNPОが推進している治療法が広く認められ、治療に使える胎盤酵素製剤があったら、ランランもシンシンのように赤ちゃんを産めたのにと残念です。
▽話は飛びます。「バイアグラ(シルデナフィルクエン酸塩)」という薬があります。 男性の陰茎の勃起に重要な役割を果たす陰茎海綿体に分布する酵素(ホスホジエステラーゼ5、略称PDE-V)の働きを選択的に抑制します。陰茎海綿体では、蛇行する静脈(洞)が密集してスポンジ状になっています。その静脈が弛緩して、ここに血液が流れ込むと海綿体が膨らみ、勃起状態となるのです。
▽蛇行する静脈(洞)の壁になる海綿体平滑筋は、性的刺激によって一酸化窒素 (NO)という物質を遊離させます。NOは、静脈(洞)の壁(平滑筋)の細胞内の酵素(グアニル酸シクラーゼと呼ばれていす)を活性化し、細胞内の情報伝達物質cGMP(環状グアノシン一リン酸)を増やします。その結果、平滑筋が弛緩するのです。
▽バイアグラはPDE-Vを抑制します。その結果、cGMPは増え続けて海綿体平滑筋は弛緩し、勃起が持続します。cGMPは酵素PDE-Vによって分解されるため、バイアグラはcGMPを増やすのです。
▽ところで、男性勃起機能障害(インポテンス)の改善薬を妊娠高血圧症の治療に使うのを目的にした臨床試験が、日本の国立大学で始まりました。その臨床試験には複数の大学が参加するようです。この薬は、勃起改善治療薬では最も売れているタダラフィルという薬です。
▽確かにパンダの交尾には効果があると思いますが、妊娠高血圧症への効果は期待できません。全身に作用するcGMPが過剰に増加し、全身の血管の弛緩(血圧下降)を引き起こす可能性が高いのです。
▽現在、切迫早産や妊娠高血圧症の標準治療薬になっている喘息治療薬転用剤の「ウテメリン」や硫酸マグネシウムと同様、あるいはそれ以上、母体や胎児への悪影響が懸念されます。勃起改善治療薬の使用は、厳重な注意が必要なことは周知の事実です。申し上げているように、細胞内のcGMPが過度に増えて、全身の血管が弛緩し血圧の下がり過ぎが十分予想されるからです。
▽既存の降圧剤は、妊娠高血圧症の治療には使えません。いたずらに母体の血圧を下げると、胎盤内の胎児はさらに低血圧状態になるためです。胎児は、胎盤から酸素を供給されて生きています。その胎盤の血圧は、もともと低いのです。降圧剤で母体の血圧をさらに下げると、どういうことになるかは容易に想像できるでしょう。
▽タダラフィルという薬も、「ウテメリン」などと同様に合成した化学物質の分子が小さいため、胎盤を簡単にすり抜けて胎児に届きます。つまり胎児に影響を与える可能性があるのです。これを防ぐには胎盤を通過せず、母体の血圧を下げ、しかも胎児に影響を与えない薬しかないのです。私たちNPOが提案する胎盤酵素剤は、そういう薬なのです。