▽7月11日のNIHニュースに、このようなタイトルの記事がでました。内容をご紹介します。


▽妊娠中の女性で突然血圧が上がってタンパク尿が出てくる症状、即ち、妊娠中毒症(妊娠高血圧)は、妊婦さんだけでなく、お腹の中の赤ちゃんにも大変危険な状態です。


▽米国でも、この妊娠高血圧症は大きな問題となっています。NIH(アメリカ国立衛生研究所)の研究費で調べたハーバート大学医学部産婦人科のジーナ・アニュパム医師らの研究グループは、この疾患に関連するが医療費が、莫大な金額になり、2012年の1年間でみても、約2000億円(20億ドル)以上に達していると報告しています。


▽報告によれば、過去30年間、妊娠高血圧症は増加傾向で、背景には妊婦さんの高齢化や肥満があるとされています。この事実は、妊娠高血圧症のさらなる研究により、新しい治療法と予防法の開発が、喫緊の課題であることを示しています。


▽妊娠高血圧症の病因は、未だ神秘に包まれています。ただ胎盤が作る何らかの蛋白が関係していることが、最近の研究で明らかになってきています。この疾患が発生すると、妊婦の血管系に異常をきたす一方、胎児に酸素と栄養分が届かなくなります。

▽軽症なら、血圧管理でその場をしのげます。しかし重症化すると、胎児だけでなく妊婦さんにとっても致命的な病態となります。従って、重症者の唯一の方法は、胎児の娩出、つまり未熟状態でも胎児を帝王切開で娩出させる以外にありません。この結果、未熟な状態で生まれた胎児の健康被害と医療費は相当な額になります。

▽このような症例に係る医療費に関する初の調査です。研究グループは、カリフォルニア州の病院の記録、州の出産証明、保険会社の情報、および全米医療費推計などからデータを収集しました。


▽2012年の1年間にカリフォルニア州で出産した約200万人以上の妊婦さんとその赤ちゃんのデータから、研究グループは、妊娠高血圧症妊婦の分娩の転機(帝王切開など)、その患者の分娩費用を含めて出産後12ヵ月間の医療費を推計しました。


▽その結果、2012年の1年間で妊娠高血圧症例は約15万6千件、そのうち2万1千460件に重篤な合併
症が発生しました。母体に合併症が起こる頻度は約10%。正常妊娠の2倍です。分娩直後に起こるケースが多く、そのうち母体に最もよく見られる症状は血小板減少、または、それによる大量出血でした。


▽妊娠中毒症の妊婦は、正常分娩に比較して約1.7週早く出産しています。このような早産の場合、胎児が合併症を発生する割合は15%以上で、正常な出産に比べて約2倍高くなります。その多くは、肺の発達不全による呼吸器疾患や危険な感染症などです。


▽妊娠中毒症に要した全体の医療費は約2200億円、妊婦さんとその出生児でほぼ半々と推計されています。新生児の分娩週数に費用は大きく左右されます。例えば、正常な出産予定日より12週早い場合は平均約2800万円、3週間以内の早産では約60万円となっています。


▽妊娠中毒症後の女性は、分娩後5年間、心臓血管病の高リスクが続きます。さらに新生児は、その後長期に渡って健康被害にさらされます。


▽ここ10年間で妊娠中毒症の治療法は何も進歩がありません。それは、単なる対症療法と早期の人工分娩(帝王切開術による未熟な新生児の娩出)なのです。妊娠中毒症の本当の病因の解明による理想的な治療法は未だありません。

▽何とかしなければならないと誰もが考えています。米国で増加する妊娠中毒症による母児の健康障害、あるいは疾患による死亡を考えると、早急な医学研究による病態の把握と転帰、医学的介入法の必要性が、今ほど喚起されたことはありません。


文献
Short-term costs of preeclampsia to the United States health care system. Stevens W et al. American Journal of Obstetrics & Gynecology. 11 July 2017. [Epub ahead of publication]