2017年10月

Dr.水谷の女性と妊婦講座 No.116「 妊婦へのウテメリン投与と小児喘息に関する国立成育医療研究センターのプレスリリース」


No.114のブログで、「妊娠中に子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン、製品名ウテメリンなど)を経静脈的に長期間使用すると、お腹の赤ちゃんが5歳になったときの喘息有症率が高いことを示唆」とする国立成育医療研究センターのプレスリリースを取り上げました。

 

▽ウテメリンは切迫早産の標準治療薬で国内では妊婦に広く用いられています。交感神経のβ2受容体のみを選択的に刺激し、気管支の拡張作用や子宮筋肉の弛緩作用に効果があるとされています。しかし実態は、手足の振戦、心拍数の増加、血糖の上昇、酸素分圧の低下といった交感神経のβ1受容体を刺激した作用も強く現れます。

 

▽プレスリリースは、妊娠中のウテメリン投与と、その児が5才で喘息が発症することは明らかな関連性を認めたとしています。論文中のコメントでは、「今回の論文は、妊娠中にβ2刺激剤を投与された児の出生後の喘息の増加を世界で初めて報告した」と強調しています。さらに妊娠中にβ2刺激剤を投与された児の出生後の健康問題への影響を報告した論文は3編のみとしています。その3編の論文は、どのような問題を指摘していたのでしょうか。

 

▽驚くべきことに、3編の論文すべてが妊娠中のβ2刺激剤投与とその児の鬱病との関連性を報告しています。まず1編目です。(文献1)。論文を要約します。デンマークで健康と人口登録データからASD(自閉症スペクトラム)と母体へのβ2刺激剤負荷の関連性を報告しています。ASDは一般的に男児が女児の4倍ということが広く知られています。

 

▽1997-2006年に生まれた子供の分析(casecontrol study)では、妊娠中β2刺激剤投与妊婦の新生児で、その児がASD患者(5200人)と正常児(52000人)を比較しています。妊娠中β2刺激剤投与の児は、ASD患者3.7%、正常児2.9%でした。β2刺激剤負荷期間が長いほどASD発症者が多くなっていました。

 

▽この論文からも、妊娠中β2刺激剤投与とその児がうつ病になる頻度が増えるとする多数の論文の存在が明らかになりました。2013年6月3日の私のブログURL:http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=28814169で紹介した論文も引用されていました。妊娠中β2刺激剤の長期投与とその児のうつ病の因果関係は、かなり知れ渡っているいるようです。他の2編も妊娠中β2刺激剤の長期投与と児のうつ病との因果関係を報告しています。

 

▽さて日本は、こういう危険な薬剤を妊婦に長期投与するのを容認し続けている世界で唯一の国です。初めて知られた方もいらっしゃるでしょうが、これは紛れもない事実です。国立成育医療研究センターという日本を代表する高度医療機関の1つが、危険性を世界に報告した薬剤を、国は何時まで放置するつもりでしょうか?

文献: Gidaya NB, et al. Pediatrics.2016;137(2)

Dr.水谷の女性と妊婦講座No.115.「日本で進まない頸がんワクチン予防接種」

 「子宮頸がんワクチン中止継続を求める「全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)」は24日、薬害根絶のための要望書を加藤勝信厚生労働相に手渡した。接種後の健康被害が報告されている子宮頸(けい)がんワクチンの積極的勧奨の中止継続や、医薬品副作用被害救済制度の充実などを求めた。」

 

これは、8月25日の朝日新聞デジタルの掲載記事ですが、この記事に違和感を覚えるのは私だけでしょうか。子宮頸がんワクチンの予防接種は、やるべきではないのでしょうか。

 

子宮頸がんは、主にウイルス感染によって引き起こされます。ワクチンを接種してウイルスへの免疫を体内につくれば予防が可能なのです。

ワクチン接種による子宮頸がんの予防は、世界的に一般的な取り組みになっています。半面、日本ではワクチン接種が進まないため、子宮頸がんを予防する機会そのものが失われているのです。

 

この問題と関連する子宮頸がん健診に関する米国の新しい情報を紹介します。

米国にUSPSTFという組織があります。米国でのがん検診や人間ドックなどプライマリーケアーの問題点や方針に対し、医学的な根拠に基づき勧告する有識者の独立組織です。医師や疫学者などがメンバーで米国保健福祉省から任命されています。9月12日、そのUSPSTFが、子宮頸がん検査の新しい指針を作成しました。

 

内容は次の通りですが、まだ正式決定ではありません。ただ早晩、このようになされるとおもいます。

 

子宮頸がん検診の検査方法は、子宮膣部擦過細胞診(パパニコロー法)と発がん性が疑われるウイルスの遺伝子検査(パピローマ遺伝子型検査)の2種類があります。

 

1.年齢が30才―65才では、パパニコロー法またはパピローマ遺伝子型検査のどちらか。双方の方法を同時に実施するのは、パピローマ遺伝子型検査単独と比べて、子宮頸がんの発見に役立たず、むしろ経過観察とされる対象者を増やすにとどまる。パピローマ遺伝子検査が、従来のパパニコロー法に代わって推奨される。

2.21-29才では3年毎のパパニコロー法を推奨。

3.21才未満では子宮頸がんのスクリーニング検査は必要ない。21才より若年では、たとえスクリーニング検査をしても子宮頸がんの頻度や子宮頸がんに起因するがん死を減少させていない事実がある。

 

USPSTFの勧告に対し、ニューヨークのマウントサイナイ病院のLinus Chuang教授は、次の様にコメントしています。

1.30-65才では、5年毎のパピローマ遺伝子検査に正式なお墨付きを与えた。Chuang教授は、指針策定メンバーではありません。

パピローマ遺伝子検査は、子宮膣部擦過で採り入れられている。米国では過去5年間子宮頸がん検査を実施していない女性の人口がほぼ半数という現状を考えると、自己採取によるパピローマ遺伝子検査の普及が問題を解決させるのではともコメントしています。

Dr水谷の女性と妊婦講座No.114「妊婦へのウテメリンの長期使用は、赤ちゃんが5歳になると小児喘息を発症する率が高い」

 

 ▽日本を代表する高度専門医療センターの1つ、国立成育医療研究センターが10月11日、「妊娠中に子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン)を経静脈的に長期間使用すると、お腹の赤ちゃんが5歳になったときの喘息有症率が高いことを示唆」とするプレスリリースを発表しました。塩酸リトドリンは、「ウテメリン」という製品名で知られ、広く使われています。

▽産婦人科医として、長年、多くの妊婦さんを治療して参りました。しかしながら、たったの一度も、いわゆる子宮の張り止め薬(塩酸リトドリン)を処方したことはありません。過去のブログを読んでいただくか、オンラインストア「アマゾン」で販売中の『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』を、ご一読いただけば、理解していただけます。

▽プレスリリースが取り上げている危険な薬剤を使用しなくても、ホルモン療法でほぼ治療は可能です。さらに『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』やブログで紹介している、開発中の胎盤酵素剤が使用可能になれば、塩酸リトドリンのような危険な薬剤は必要がなくなり、早産も妊娠高血圧症も必ず完治できます。

▽ここで少し塩酸リトドリンの働きを説明します。自律神経の交感神経の末端にノルアドレナリンという神経伝達物質が存在します。この物質が細胞膜上や細胞内に存在するレセプター(ホルモン受容体)にくっつきホルモン作用が現れます。ノルアドレナリンの受容体はββ2があり、β1は主に心臓を刺激し、βは気管支の拡張作用(喘息治療)や子宮筋肉の弛緩作用(早産治療)を示します。ただ、その作用は厳密に区別できません。

塩酸リトドリンは、選択的β2刺激剤とされています。気管支の拡張作用や子宮筋肉の弛緩作用のみに効果があるとされていますが、手足の振戦、心拍数の増加、血糖の上昇、酸素分圧の低下など、β1の作用が著しく現れます。それは、塩酸リトドリンを投与された経験のある妊婦さんなら、誰もがすぐわかります。過去のブログで何度も指摘通り、塩酸リトドリンは紛れもなく喘息治療薬なのです。

▽プレスリリースにも明記されていますが、β2刺激剤は気管支拡張作用のため気管支喘息に使用される半面、長期投与によって気道過敏性の亢進による喘息の増悪を引き起こすことが知られています。β2刺激剤を妊婦に投与して、お腹の赤ちゃんが小児喘息になるとはなんとも皮肉な話です。

 

▽プレスリリースによると、テメリン投与群と非投与群の小児喘息の発生率(オッズ比)は2.04倍。投与期間が20日以上なら2.95倍、累積投与量が1.6gなら3.06倍に達したとしています。また投与された94人の妊婦から生まれた赤ちゃんの13.8%は、5歳時点で小児喘息の患者になっていました。非投与群の5歳時点の小児喘息患者は9.2%だったので4㌽以上も違っていました。

▽過去のブログでは、妊婦に対する塩酸リトドリンの長期大量投与は、小児喘息にとどまらず、若年男性の自殺や医療的ケアー児の増加、拡張型小児心筋症との関連性なども取り上げています。この機会に、併せてお読みいただければ幸いです。

 

 

 

Dr.水谷の女性と妊婦講座Nо.113「高齢女性に対するホルモン療法は安全な治療法。JAMA9月12日号が掲載」  

▽前回のブログで取り上げた「高齢女性に対するホルモン療法は危険」とするNIH(米国衛生研究所)の報告についての続報です。

 

NIH(米国衛生研究所)は2002年、高齢女性へのホルモン療法は、心血管疾患や脳卒中、浸潤性乳癌の発生リスクを高めると報告しました。当時、ホルモン療法は、更年期女性の健康に好影響を与え、動脈硬化の予防にもなると推奨する内科医も多かったのです。しかしNIHの論文発表を契機に、ホルモン療法は世界的に下火になっていきました。

 

▽続報の内容は、この報告の根拠とされた論文が、がんや心血管疾患、脳卒中の原因になっていないと打ち消しました。米国マサチューセッツ州のブリガム・アンド・ウィメンズ病院予防医学部門長でハーバード大学公衆衛生学部のJoAnn Elisabeth Manson(ジョアン・エリザベス・マンソン)疫学教授らは、NIH報告の基になったエストロゲン(CEE)とプロゲステロン(MPA)の併用投与によるホルモン補充療法と、エストロゲン単独投与によるホルモン補充療法の参加者50-79才の閉経女性2万7347例を、研究中から2014年まで18年間追跡した結果を詳しく分析しました。

 

▽その結果、2つのホルモン補充療法は、全死因死亡、心血管疾患死、がん死のいずれでも関連性は認められませんでした。米国医師会雑誌(JAMA)912日号に掲載されています。死亡に関するフオローアップデータは、98%超を入手して分析しています。

 

▽詳しい内容をご紹介する前に、まず統計用語の「コホート研究」と「ハザード比」を説明します。

コホート研究は、特定の集団の人達を対象に、長期間にわたり、その人達の健康状態と環境など様々な要因との関係を調査します。

ハザード比は、結果(アウトカム)が発生する割合を示す相対的な指標、いわば「相対的な発生率」です。ハザード比が0.9なら「10%減少」、1.5なら「50%増加」という意味です。

またサンプリングしたデータの結果を全集団にそっくり当てはめると、誤差が生じます。その誤差を計算したのが95%信頼区間です。この信頼区間が1をまたぐと「有意差なし」、1よりも小さいと「リスク減少」、1よりも大きいと「リスク上昇」となります。

 

▽さて、結果はどうだったのでしょう。全プールコホートの解析で、全死因死亡率は、ホルモン療法27.1%、非ホルモン療法群27.6%(ハザード比0.99、95%信頼区間0.94-1.03)でした。ホルモン療法は死亡リスクを減少させているのです。

 

CEEMPAの非ホルモン群の比較では(ハザード比1.02、95%信頼区間0.96-1.08)となり、2%リスクを増やしています。前回のブログで、北米更年期学会の新しいホルモン療法(Hormone Replacement Treatment)の方針をご紹介しました。方針策定チームのメンバーの1人、米フロリダ大学産婦人科のAndrew Kaunitz(アドリュー・カウニッツ)教授は「エストロゲンとプロゲステロンの長期投与は、乳がんのリスクも考えられる」とコメントしていますが、今回の分析がコメントの背景にあるのかもしれません。

 

ホルモン補充療法でごくわずかに癌のリスクがあるかも知れないが、トータルの死亡リスクは下がります。リスクとベネフィットを考えれば、いたずらに問題視するまでもないと言えるでしょう。

▽一方、CEEの非ホルモン群との比較では(ハザード比0.94、95%信頼区間0.88-1.01)で、CEE単独のホルモン療法はリスクを減少させています。

▽心血管疾患死のプール解析(複数の研究の元データを集めて再解析する手法)は、ホルモン療法群(8.9%)対非ホルモン群(9.0%)のハザード比1.00(95%信頼区間0.92-1.08)で、ホルモン療法は何の影響も認められていません。

▽全がん死のプール解析では、ホルモン療法群(8.2%)対非ホルモン群(8.0%)のハザード比1.03(95%信頼区間0.95-1.12)で、リスクを3%増やしています。

▽その他の主要な死因による死亡のプール解析では、ホルモン療法群(10.0%)対非ホルモン群(10.7%)のハザード比0.95(95%信頼区間0.88-1.02)で、リスクを減らしています。

▽ちなみにManson教授は2011年から2012年に北米更年期学会の会長でした。

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