2017年10月

Dr水谷の女性と妊婦講座No.114「妊婦へのウテメリンの長期使用は、赤ちゃんが5歳になると小児喘息を発症する率が高い」

 

 ▽日本を代表する高度専門医療センターの1つ、国立成育医療研究センターが10月11日、「妊娠中に子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン)を経静脈的に長期間使用すると、お腹の赤ちゃんが5歳になったときの喘息有症率が高いことを示唆」とするプレスリリースを発表しました。塩酸リトドリンは、「ウテメリン」という製品名で知られ、広く使われています。

▽産婦人科医として、長年、多くの妊婦さんを治療して参りました。しかしながら、たったの一度も、いわゆる子宮の張り止め薬(塩酸リトドリン)を処方したことはありません。過去のブログを読んでいただくか、オンラインストア「アマゾン」で販売中の『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』を、ご一読いただけば、理解していただけます。

▽プレスリリースが取り上げている危険な薬剤を使用しなくても、ホルモン療法でほぼ治療は可能です。さらに『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』やブログで紹介している、開発中の胎盤酵素剤が使用可能になれば、塩酸リトドリンのような危険な薬剤は必要がなくなり、早産も妊娠高血圧症も必ず完治できます。

▽ここで少し塩酸リトドリンの働きを説明します。自律神経の交感神経の末端にノルアドレナリンという神経伝達物質が存在します。この物質が細胞膜上や細胞内に存在するレセプター(ホルモン受容体)にくっつきホルモン作用が現れます。ノルアドレナリンの受容体はββ2があり、β1は主に心臓を刺激し、βは気管支の拡張作用(喘息治療)や子宮筋肉の弛緩作用(早産治療)を示します。ただ、その作用は厳密に区別できません。

塩酸リトドリンは、選択的β2刺激剤とされています。気管支の拡張作用や子宮筋肉の弛緩作用のみに効果があるとされていますが、手足の振戦、心拍数の増加、血糖の上昇、酸素分圧の低下など、β1の作用が著しく現れます。それは、塩酸リトドリンを投与された経験のある妊婦さんなら、誰もがすぐわかります。過去のブログで何度も指摘通り、塩酸リトドリンは紛れもなく喘息治療薬なのです。

▽プレスリリースにも明記されていますが、β2刺激剤は気管支拡張作用のため気管支喘息に使用される半面、長期投与によって気道過敏性の亢進による喘息の増悪を引き起こすことが知られています。β2刺激剤を妊婦に投与して、お腹の赤ちゃんが小児喘息になるとはなんとも皮肉な話です。

 

▽プレスリリースによると、テメリン投与群と非投与群の小児喘息の発生率(オッズ比)は2.04倍。投与期間が20日以上なら2.95倍、累積投与量が1.6gなら3.06倍に達したとしています。また投与された94人の妊婦から生まれた赤ちゃんの13.8%は、5歳時点で小児喘息の患者になっていました。非投与群の5歳時点の小児喘息患者は9.2%だったので4㌽以上も違っていました。

▽過去のブログでは、妊婦に対する塩酸リトドリンの長期大量投与は、小児喘息にとどまらず、若年男性の自殺や医療的ケアー児の増加、拡張型小児心筋症との関連性なども取り上げています。この機会に、併せてお読みいただければ幸いです。

 

 

 

Dr.水谷の女性と妊婦講座Nо.113「高齢女性に対するホルモン療法は安全な治療法。JAMA9月12日号が掲載」  

▽前回のブログで取り上げた「高齢女性に対するホルモン療法は危険」とするNIH(米国衛生研究所)の報告についての続報です。

 

NIH(米国衛生研究所)は2002年、高齢女性へのホルモン療法は、心血管疾患や脳卒中、浸潤性乳癌の発生リスクを高めると報告しました。当時、ホルモン療法は、更年期女性の健康に好影響を与え、動脈硬化の予防にもなると推奨する内科医も多かったのです。しかしNIHの論文発表を契機に、ホルモン療法は世界的に下火になっていきました。

 

▽続報の内容は、この報告の根拠とされた論文が、がんや心血管疾患、脳卒中の原因になっていないと打ち消しました。米国マサチューセッツ州のブリガム・アンド・ウィメンズ病院予防医学部門長でハーバード大学公衆衛生学部のJoAnn Elisabeth Manson(ジョアン・エリザベス・マンソン)疫学教授らは、NIH報告の基になったエストロゲン(CEE)とプロゲステロン(MPA)の併用投与によるホルモン補充療法と、エストロゲン単独投与によるホルモン補充療法の参加者50-79才の閉経女性2万7347例を、研究中から2014年まで18年間追跡した結果を詳しく分析しました。

 

▽その結果、2つのホルモン補充療法は、全死因死亡、心血管疾患死、がん死のいずれでも関連性は認められませんでした。米国医師会雑誌(JAMA)912日号に掲載されています。死亡に関するフオローアップデータは、98%超を入手して分析しています。

 

▽詳しい内容をご紹介する前に、まず統計用語の「コホート研究」と「ハザード比」を説明します。

コホート研究は、特定の集団の人達を対象に、長期間にわたり、その人達の健康状態と環境など様々な要因との関係を調査します。

ハザード比は、結果(アウトカム)が発生する割合を示す相対的な指標、いわば「相対的な発生率」です。ハザード比が0.9なら「10%減少」、1.5なら「50%増加」という意味です。

またサンプリングしたデータの結果を全集団にそっくり当てはめると、誤差が生じます。その誤差を計算したのが95%信頼区間です。この信頼区間が1をまたぐと「有意差なし」、1よりも小さいと「リスク減少」、1よりも大きいと「リスク上昇」となります。

 

▽さて、結果はどうだったのでしょう。全プールコホートの解析で、全死因死亡率は、ホルモン療法27.1%、非ホルモン療法群27.6%(ハザード比0.99、95%信頼区間0.94-1.03)でした。ホルモン療法は死亡リスクを減少させているのです。

 

CEEMPAの非ホルモン群の比較では(ハザード比1.02、95%信頼区間0.96-1.08)となり、2%リスクを増やしています。前回のブログで、北米更年期学会の新しいホルモン療法(Hormone Replacement Treatment)の方針をご紹介しました。方針策定チームのメンバーの1人、米フロリダ大学産婦人科のAndrew Kaunitz(アドリュー・カウニッツ)教授は「エストロゲンとプロゲステロンの長期投与は、乳がんのリスクも考えられる」とコメントしていますが、今回の分析がコメントの背景にあるのかもしれません。

 

ホルモン補充療法でごくわずかに癌のリスクがあるかも知れないが、トータルの死亡リスクは下がります。リスクとベネフィットを考えれば、いたずらに問題視するまでもないと言えるでしょう。

▽一方、CEEの非ホルモン群との比較では(ハザード比0.94、95%信頼区間0.88-1.01)で、CEE単独のホルモン療法はリスクを減少させています。

▽心血管疾患死のプール解析(複数の研究の元データを集めて再解析する手法)は、ホルモン療法群(8.9%)対非ホルモン群(9.0%)のハザード比1.00(95%信頼区間0.92-1.08)で、ホルモン療法は何の影響も認められていません。

▽全がん死のプール解析では、ホルモン療法群(8.2%)対非ホルモン群(8.0%)のハザード比1.03(95%信頼区間0.95-1.12)で、リスクを3%増やしています。

▽その他の主要な死因による死亡のプール解析では、ホルモン療法群(10.0%)対非ホルモン群(10.7%)のハザード比0.95(95%信頼区間0.88-1.02)で、リスクを減らしています。

▽ちなみにManson教授は2011年から2012年に北米更年期学会の会長でした。

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