2018年03月

Dr.水谷の女性と妊婦講座Nо.121「更年期女性へのホルモン補充療法(HRT)は心臓の健全性を高めます」

 ▽オープンアクセスの科学雑誌『PLOS ONE』が3月8日配信したpublished online によると、更年期女性に対するホルモン補充療法(HRT)は、心臓の働き(心機能)のみならず、心臓の構造にも良好な変化をもたらし、心臓疾患リスクを減らすことが英国の研究で明らかになりました。

 

▽この研究は、英国の国民保健サービス(国営医療サービス事業)で集めた「中高年の保健データベース(バイオバンク)」を基にしています。それによると、HRTを平均8年以上受けた女性は、受けていない女性と比べて、左心室と心房の血液量(容積)が減少し、左室から拍出される血液量の減少が認められました。著者は「HRTによる左室と左房の容積の明らかな減少は、HRTが心臓・血管系の健全性と関連する」と指摘しています。

 

▽HRTの心臓への効果は、60代後半の年齢が進むほど明確になっていました。従来のHRTの心臓への影響は、CТ検査で心臓・血管系の動脈硬化を調べていましたが、この研究は心機能評価で最も信頼性の高い検査法とされる心臓МRI検査で評価しています。

 

▽著者のクイーン・メアリー・カレッジ(ロンドン大学群)のMihir Sanghvi氏は「HRTと微妙な心臓の形態と機能改善の関係が初めて明らかにされた」と述べています。今回の成績から、HRTは心臓の機能と構造に悪い影響を与えていないばかりか、心臓の健全性に貢献していることが分かります。この事実は、大きな意味があります。なぜなら、HRT施行中の数百万人にとっては朗報です。HRTは心臓に是か非か、未だ学会でも論争のあるところだからです。

 

▽研究では、バイオバンクから条件を満たした症例を検討しています。バイオバンクには、40-69才の50万人(2006-2010年)の身体調査、血液や尿など生化学的成績が登録され、さらに最初の登録者では10万人に心臓МI検査が施行されています。

 

▽調査では、閉経前後で心臓МRI検査が施行され、心臓疾患のない1604人を対象としました。内訳は、513人(32%)がHRTを3年以上施行し、平均HRT施行期間は8年、HRT開始年齢の平均は47.6歳(HRT群)でした。残る1091人はHRT未施行(非HRT群)。心臓МI検査時に78人(15%)は、HRT施行中でした。

 

▽HRT群の平均年齢は、非HRT群と比べて高く(65.4歳対61.3歳)、平均閉経年齢は(50歳対51歳)でした。HRT群では、左心室のEDV(収縮直前の左心室の血液量)が、非HRT群と比べて有意に低下し、拍出量も低下していました。左心房の心室収縮終了時の血液量も低下していました。

 

▽HRT開始時期と閉経年齢の関連性は、HRTによる心房、心室の血液量に変化を与えませんでした。左心房と左心室の血液量の減少は、心臓の健全性を表しています。HRTの心臓への効果は、年齢が高くなるほど明らかになっていました。HRTの心臓への効果は、心臓MRI検査が施行された60代後半の女性で最も現れていました。この結果から、60才以下の閉経後女性に対しHRTは有意義な治療法と言えそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

  Dr.水谷の女性と妊婦講座No.120「アルツハイマー病と妊娠高血圧症の共通項。結果から治療薬は生まれない」

 ▽生命の誕生である妊娠時疾患の妊娠高血圧症と晩年時のアルツハイマー病。この2つの疾患は、どちらも難病という以外、もう一つの共通項があります。ここは大切なところです。

▽さて、鳴り物入りだったアルツハイマー病の新薬開発が相次ぎ中止され、研究の方向性を疑問視する声が上がっています。一方で、これまでのアルツハイマー病研究で見逃してきたのは何だったのか。その原因探求は一度リセットする必要があるようです。

▽アルツハイマー病の原因は、「コリン仮説」と脳内のβアミロイド蛋白の蓄積説があります。「コリン仮説」は、アルツハイマー病の大脳はアセチルコリンという神経伝達物質が減少しているために起こるという古くからの説です。世界で広く使用されている『アリセプト』という薬剤は、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害し脳内のアセチルコリンを増やす作用があります。

▽βアミロイド蛋白蓄積仮説は、比較的新しい学説です。アルツハイマー病患者の脳内にはβアミロイド蛋白が蓄積する事が明らかでした。神経細胞が死滅するためβアミロイド蛋白が蓄積すると考えられています。

▽アルツハイマー病患者の脳内のセロトニンやアセチルコリンといった神経伝達物質が、低下しているとの考えから、アルツハイマー病の治療に、脳内のセロトニンを増やすセロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)も使われています。SSRIはうつ病治療薬として知られています。

▽これらの仮説に立って、夢の新薬と期待されていたのが、大塚製薬とデンマークのルンドベック社が共同開発したIdalopirdineというコリンエステラーゼ阻害薬とSSRIを抱き合わせた薬です。

脳内で増加したβアミロイド蛋白は血中に排出され、脳内と血中の濃度は一定のレベルになるとされています。そこで血中のβアミロイド蛋白を減少させれば、脳内で増加したβアミロイド蛋白が低下し、アルツハイマー病の進行を押さえる薬剤開発が行われてきました。米Eli Lily(イーライリリー)社が開発した抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬のsolanezumabSKZ)は、その一つです。

▽ところが、本年両剤には、アルツハイマー病の治療効果が認められないとする報告が、世界的に有名な雑誌に発表されました。Idalopirdineは「Journal of the American Medical AssociationJAMA)」の今年19日号に、solanezumabは「New England Journal of Medicine」の125日号に、それぞれ掲載されました。

▽私は、アルツハイマー病の門外漢でほとんど専門知識は持ちません。ただ言えるのは、脳内のβアミロイド蛋白が蓄積する、アセチルコリンが減るという事象は、アルツハイマー病の原因ではなく、結果を見た判断ではないでしょうか。以前から考えていましたが、結果から疾患の治療薬は生まれません。治療薬の開発に最も大切なのは、原因の究明です。これを放置したまま、原因不明のままでは有効な治療薬は期待できません。

▽私見ですが、脳内に蓄積したβアミロイド蛋白は、高血圧症や加齢に伴う疾患により脳組織が損傷された結果として脳内に蓄積していく蛋白の一つではないでしょうか。事実、アンジオテンシン受容体阻害剤を降圧剤として使用された高血圧症の患者は、アルツハイマー病のり患者が少ないことが明らかになっています。

▽アルツハイマー病治療薬の開発には、世界中の多くの研究者が携わり、膨大な開発費が消費されています。しかし何度も指摘するように。原因を解明することなく、結果を基にして薬剤開発を進めても、徒労に終わる公算が大きいでしょう。それは妊娠高血圧症の治療薬開発でも同様です。これが、冒頭で取り上げた共通項の二つ目です。

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