▽更年期女性に対するホルモン補充療法(HRT)について、医学雑誌『Neurology』のオンライン版(3月21日配信)が、認知症(認知能力)との関連性に言及した論文を掲載していました。難解な論文なのですが、私なりに要旨をまとめると次のような内容になると思います。

 

▽HRTは、女性ホルモンのエストロゲンが使われます。剤形は、皮膚への塗薬(国内でも使用されています)と錠剤(プレマリン)があります。もう1つの女性ホルモン、プロゲステロン剤も毎月12日間内服されます。

 

▽両剤によるHRTを閉経から早期(3-36ヶ月の間)に始めて4年間施行した米国の研究「KEEPS」に関しては、既にその検討結果が報告されています。

 

▽今回、著者らは、KEEPS研究の症例の中でHRT(4年間)開始から3年後まで7年間は米メイヨー・クリニックで経過を観察し、脳のMRI検査もした75例を再検討、分析しました。75例()の内訳は、20人がプレマリン0.45mg錠の内服、22人がエストロゲル50μgの塗布薬、33人が偽薬の貼り薬(非HRT)でした。年齢はHRT開始時で42-59才でした。

 

▽私たちの脳は、年をとるにつれて少しずつシワが深く、大きくなっていきます。徐々にですが、脳が萎縮しているためです。一般的に脳の萎縮は30歳代くらいから始まり、65歳くらいでは肉眼的にも「明らかな萎縮がある」と分かります。

 

▽萎縮のスピードや程度は個人差が大きく、脳の部位でも差がみられます。特に前頭葉や側頭葉は、加齢(老化)に伴う萎縮が目立つとされています。

▽私たちの認識(認知)を司る脳の重要な場所が、最近の研究で特定されました。脳内の背外側前頭前野(Dorsolateral prefrontal cortex、DLPFC)と呼ばれる部位です。

▽今回の再検討から、エストロゲル塗布薬によるHRT群は、この認知を司る背外側前頭前野の容量が、非HRT群と比べると、HRT後3年間維持されていることが明らかになりました。プレマリンによるHRT群では、エストロゲルによるほど、この効果(背外側前頭前野の容量維持)はありませんでした。著者は「その理由は不明」としています。

 

▽過去の研究では、閉経後に長期間経てから始めたHRTでは、脳機能の維持は期待出来ず、むしろ有害になるという報告もありました。その一方で、今回のように閉経後早くにHRTをはじめた場合、痴呆は減少するという報告例があります。

 

▽このようにHRTと脳の働きの関係は議論があります。しかしながら著者は「エストロゲル塗布薬で脳の認知を調節する部位の萎縮が防がれるのは、閉経前後からの塗布薬の意義が示唆される」と評価しています。私もエストロゲル塗布薬が、脳の萎縮防止に役立っていると考えています。