▽海外の医学雑誌『J.Clinical Case Reports 』が近く、妊娠中毒症(妊娠高血圧症)や切迫早産の妊婦に対するエストロゲンとプロゲステロンの漸増療法による治療例を取り上げます。私が2003年、名古屋大学付属病院で試みた治療例を詳しく掲載します。

 

▽タイトルは「Treatment for severe pregnancy induced hypertension and preterm labor with concomitant administration of estradiol and progesterone under monitoring aminopeptidases」。 『J.Clinical Case Reports』はアクセスフリーの雑誌です。誰でも自由にお読みいただけます。ただ残念ながら、全文が英語です。日本語で読んでみたいと思われる方は、ネットショップの「アマゾン」でお求めいただけます。2013年3月に発刊した『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』(静岡学術出版教養新書)です。

 

▽妊娠高血圧症や切迫早産で広く使用されているベータ2刺激剤や硫酸マグネシウムは、妊婦にとどまらず、胎児にも重大な副作用を及ぼします。このブログでも、何度も書いてきました。そういうことを書く以上、私はベータ2刺激剤や硫酸マグネシウムを一切使っていません。

 

▽それでは、どうやって、妊娠高血圧症や切迫早産の妊婦さんを治療してきたと思われますか? その治療方法こそが、エストロゲンとプロゲステロンの暫増療法です。ウテメリンやマグネゾールを使う必要は、まったくありませんでした。『J.Clinical Case Reports 』が、ホルモンの漸増療法に焦点を当てたのも、妊婦や胎児の安全性を考慮したことにほかならないからでしょう。

 

▽さて、妊娠高血圧症のみならず切迫早産の妊婦にも、カルシウム拮抗薬や ニフェジピンといった降圧薬を使用する治療もなされています。しかし、私はこれに大いに疑問があります。

 

▽米メーヨークリニック腎臓内科のブラウン医師らが今後開発されるべき妊娠高血圧症治療薬に胎盤アミノペプチダーゼ(P-LAPAPA)を挙げました。胎盤アミノペプチダーゼは、私たちが長年開発に取り組んでいる“夢の治療薬”ですが、ブラウン医師らは論文で次の様に述べています。

 

▽「降圧薬による急激な血圧の降下は、胎児・胎盤循環の血流を悪くする可能性があるため、降圧剤の使用時には血圧降下の母体と胎児への影響に注意して観察しなければならない。究極の妊娠高血圧症治療薬は、母体の血圧を下げるが、胎児の状態を悪化させないものであるべき。一般的な降圧剤では、胎児・胎盤循環の血流を悪くする可能性がある」。

 

▽低分子の降圧薬の投与は、降圧薬が胎盤を通過して胎児の血圧も引き下げてしまいます。妊婦の血圧が下がったとしても、ただでさえ血圧が低い胎児の血圧をさらに引き下げて致命的になりかねないのです。