2018年07月

Dr水谷の女性と妊婦講座Nо.125「胎児発育不全でED治療薬投与された胎児の死亡が続出 オランダの臨床試験中止へ」


 ▽男性の勃起不全(ED)治療薬では妊娠高血圧症や赤ちゃんの推定体重が基準値を下回る胎児発育不全の治療はできない、とかねてから主張してきました。

 

▽最近では、朝日新聞が昨年7月18日のデジタル版に「妊婦にED治療薬、胎児発育不全に効く?」という見出しで、ED治療薬「タダラフィル」が胎児発育不全の治療に有効かも知れないという内容の記事を掲載した際も、このブログ「Dr水谷の女性と妊婦講座」Nо.109(http://p-lap.doorblog.jp/archives/51982897.html)とNо.110(http://p-lap.doorblog.jp/archives/52006560.html)で、疑問を呈しました。

 

▽欧州では2015年から、オランダを中心に11病院で妊娠中期に胎児発育不全と診断された赤ちゃんに対するED治療薬シルデナフィルを投与する臨床試験が進められています。ED治療薬は、胎盤への血液の流れを増やして子宮内の胎児発育不全を改善するとの仮説に基づいています。

 

▽ところが、この研究が中止されました。米ニューヨークのMedscape(メドスケープ)社が運営する医療情報サイト『Medscape Medical News』は、オランダ・アムステルダム大学のこの研究の広報担当者、Marc van den Broek氏の次のような説明を掲載しています。

 

▽オランダで中止と決定された根拠は、対象患者183人中93名にED治療薬が投与され、19人で胎内死亡となり、うち11人は肺高血圧症による肺疾患での胎内死亡でした。6人は新生児肺高血圧症が発症したものの、生存しているそうです。

 

▽一方、183人中90人がED治療薬の非投与群(対照群)に割り付けられました。このうち9人で胎内死亡となりましたが、いずれも死因が肺疾患という例は認められませんでした。新生児3人に、肺疾患の併発がありましたが、生存しています。

▽EUはED治療薬シルデナフィルを肺高血圧症治療薬としても承認しています。

 

▽アムステルダム大学の研究者は「シルデナフィルは胎児への治療効果が全く認められない」と指摘。同大学の他の研究者も「ED治療薬は母児ともに何ら有益性は認められない。しかも出生後致命的な副作用を来す」と警告しています。こうした実態を踏まえ、Marc van den Broek氏は「ED治療薬は、新生児の肺血管に影響し致命的な副作用を及ぼし胎内死亡を増加させる」と断言しています。

 

 

▽シルデナフィルは『バイアグラ』の製品名で知られ、米ファイザー社が世界で初めて発売しました。ただ、この研究にファイザー社は関与せず、『バイアグラ』のジェネリック(後発品)が使われています。

 

 

▽同様の研究は、カナダでも実施されており、オランダの研究者らは「世界で実施中の本研究は中止すべき」と訴えています。カナダの研究責任者でブリティッシュコロンビア大学のKenneth Lim医学博士は「オランダのニュースを重く受け止めている。カナダの患者21人は、現段階ではオランダの報告のような事実は確認されていないが、カナダでの成績を早急に検討し直す」と話しています。

 

▽『英国医師会雑誌(BMJ)』が2月、英国の研究ではED治療薬は妊娠の延長に効果がなく、治療効果も認められないと記載。さらにED治療薬の投与で胎児の血流の流れの悪化が認められたと指摘しました。近く、オランダの研究者らも今回の成績を医学雑誌に投稿するとしています。

 

 

▽さて、日本でも同様な研究が進められています。朝日新聞の記事は、この研究を紹介する話だったのですが、私はブログを書いて警鐘を鳴らしました。胎児はただでさえ低い血圧でお母さんのお腹の中で頑張っています。そこに血圧を下げるED治療薬を投与したら、どうなるかということは、「自明の理」だと思うのです。


Dr.水谷の女性と妊婦講座 No.124.「50歳で血圧高めの人は認知症に要注意です」


▽英オックスフォード大学出版が発行する『The European Heart Journal』の612日付オンライン版は、50歳時点で収縮期血圧(上の血圧)が130mmHg以上だった人は、血圧が低かった人と比べて、後に認知症を発症するリスクが高くなる可能性のあるという論文を掲載しました。論文の筆頭著者でフランスの国立保健医学研究所のJessica Abell氏は「このことは、正常高値血圧(130-139mmHg)でも脳に悪影響を及ぼす可能性があることを示唆している」と指摘しています。

 

▽このブログでも、認知症発症と高血圧症の関連性を過去に何度か取り上げています。最近では2016年4月の「米フレミンガム研究関連論文が認知症の発症率は30年間で低下、高血圧の予防はアルツハイマー型認知症を予防」です。URL:http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=48385855

 

▽この認知症と高血圧症の関係が、英国の医学雑誌でも取り上げられたのです。さて今回の研究ですが、対象は英国の公務員8,639人(男性67.5%、女性32.5%)です。1985年から2003年の間に血圧を6年ごとに計4回測定し、2017年まで認知症の発症を追跡して、高血圧と認知症の関連性を調べています。

 

▽特徴は、50歳時点、60歳時点、70歳時点の血圧に焦点を当てて解析したことです。その結果、社会人口学的因子など様々な因子で調整した後の解析でも、50歳時点で収縮期血圧が130mmHg以上だった人は、130mmHg未満だった人と比べると、その後に認知症を発症するリスクが1.38倍に上っていました。

 

▽さらに45歳と61歳の間に収縮期血圧が130mmHg以上だった期間が長いほど認知症の発症リスクは高まっていました。ただ60歳時点と70歳時点の収縮期血圧と拡張期血圧は、いずれの年齢でも認知症の発症リスクとは関連性がみられませんでした。

 

 

▽Abell氏によると、高血圧は一過性脳虚血発作や脳白質の損傷、脳への血流不足などを引き起こす可能性が指摘されています。これと併せて、中年期の早くから血圧が高い状態が続くほど認知症の発症リスクが高まることが今回の研究で示唆されたため、Abell氏は「健康寿命を延ばすには中年期の血圧を正常に保つことが重要だ」と強調しています。また米アルツハイマー病協会のHeather Snyder氏は「この結果は、脳と心臓の健康は直接関係するとした既存の報告を裏付ける。認知症予防のため、この結果をどう生かしていくか、真剣に考えるべきだ」とコメントしています。

 

 

▽正常高値血圧でも心筋梗塞や脳卒中、心不全、腎不全のリスクが2倍に高まるという最新エビデンスに基づき、米国心臓病学会と米国心臓協会は2017年に診断基準を130/80mmHgに引き下げました。これに対し欧州高血圧学会のガイドラインの診断基準は従来通り140/90mmHgのまま据え置いています。今回の英国の公務員約8,600人を対象に解析した研究結果は、欧州の高血圧の診断基準に警鐘を鳴らすはずです。

 

 

参考文献:

Association between systolic blood pressure and dementia in the Whitehall II cohort study: role of age, duration, and threshold used to define hypertension.


をご覧ください。

 


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