2018年10月

Dr.水谷の女性と妊婦講座 No129 「原因不明の反復流産や子宮内の胎児死亡はプロゲステロン療法が唯一の治療法」


▽最近、米国発のオンラインニュースが反復流産の治療に関する見解を取り上げました。今回は、その内容をご紹介します。筆者は、ハンガリーの首都ブタペストにある「Kaali Institute IVF Center」のピーター・コバク博士です。

▽さて、原因不明で繰り返される特発性流産や妊娠初期の子宮内の胎児死亡は、妊娠の15-25%の頻度で起こります。多くは、染色体異常が原因と考えられています。2回または3回以上繰り返すと反復流産とされますが、流産の3-5%を占めています。

▽反復流産(妊娠ロスとも呼ばれています)は詳しく検討されています。女性が35才以上、男性が50才以上、ストレス、喫煙、過度のアルコールやカフェイン摂取、環境因子、慢性子宮炎症などが、背景因子に挙げられています。

 ▽反復流産の診断には十分な医学的評価が必須です、遺伝子、血液、ホルモン、免疫などの検査が実施され、さらに子宮腔内の異常の有無も検査が必要です。

▽問題点が絞り込まれたら、適切な治療が可能です。しかしながら、反復流産の少なくとも50%は、問題点が不明で、特発性(原因不明)の反復流産とされます。

 ▽特発性反復流産の治療では、いろいろな治療法が試みられてきました。しかし、アスピリンの治療は有効性が認められていません。低分子ヘパリン治療も有効性はありません。

▽プロゲステロン(黄体ホルモン)療法は2つの大規模研究があります。一つは、有効性が認められず、他方は高い有効性が認められています。

▽免疫グロブリン治療も有効性が認められていません。そのほか、様々な治療法が試みられていますが、反復流産の唯一の治療法で推奨されるのは、排卵後からのプロゲステロン療法です。

▽患者や家族は、原因不明というのはいらだたしい限りでしょう。仮に異常(原因)が明らかになっても、治療法に効果が期待出来ないのですから。

▽原因として子宮奇形などが明らかになれば、手術治療で結果が期待出来ます。ホルモン異常の原因が浮かび上がれば、治療の効果は期待出来ます。

▽血液異常が原因と考えるのは疑わしいでしょう。ヘパリンには有効性は認められませんでした。カップルに遺伝子異常がある場合、体外受精で受精卵の検査も可能でしょう。

▽特発性反復流産に対する免疫異常の関与も調べられました。しかし、免疫的観点からの治療法は何ら良い結果を認められていません。特発性反復流産の患者は、治療への期待をなくし、チャンスがあれば何でもやってみると考えているようです。

▽ただ次の点も考慮する必要があります。すなわち、特発性反復流産の患者が何の治療もせず、妊娠を継続して分娩することもあります。

▽今回過去の文献を検討した結果から、特発性反復流産治療に効果を認めたのはプロゲステロン療法のみでした。患者には、適切にカウンセリングし、無治療という選択もあるのを説明し、重篤な副作用がある半面、あまり効果のない治療法は避けるべきでしょう。

 

参考文献

1.The Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Definition of infertility and recurrent pregnancy loss: a committee opinion. Fertil Steril. 2013;99:63. Abstract

2.The Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Evaluation and treatment of recurrent pregnancy loss: a committee opinion. Fertil Steril. 2012;98:1103-1111. Abstract

3.Guideline of the European Society of Human Reproduction and Embryology. Recurrent pregnancy loss. 2017; 1-154. Source

4.Rasmark Roepke E, Hellgren M, Hjertberg R, et al. Treatment efficacy for idiopathic recurrent pregnancy loss?systematic review and meta-analysis. Acta Obstet Gynecol Scand. 2018 Mar 30. [Epub ahead of print] Source


Dr.水谷の女性と妊婦講座 No128「閉経後早く実施するホルモン補充療法は更年期女性の動脈硬化症を防ぎます」


 ▽閉経後短期間の若年閉経女性の血液中の女性ホルモン値が高いと、動脈硬化が進行せず、逆に閉経後長期間の高年女性の血液中の女性ホルモン値が高いと、動脈硬化が進むことが米国の研究で明らかになりました。

 

▽若年閉経女性と高年女性にホルモン補充療法(HRT)を実施した結果を分析したところ、閉経後6年以内にHRTを実施すると動脈硬化症の進行が明らかに抑制できました。

 

▽半面、閉経後10年以上の人へのHRTは、動脈硬化の進行抑制効果は認められませんでした。この研究は、HRTの開始時期の重要性を指摘しています。

 

▽研究の対象患者は596人。うち297人にHRTが実施されました。閉経後6年以内を閉経初期、閉経後10年以上を閉経後期と分けています。

 

▽閉経初期では、血中女性ホルモン(エストロゲン)値と内頚動脈の内膜中皮の厚さ(動脈硬化の診断基準)は逆相関し、閉経後期では両者は相関していました。

 

▽閉経初期の女性ホルモン値を4段階に分けて、最低値では内頚動脈の内膜中皮の厚さは8.5 μm/年、最高値では7.2 μm/年の割合で肥厚しました。

▽閉経後期は4段階に分けて、最低値では9.8μm/年、最高値では11.7 μm/年の割合で肥厚しました。この研究結果から、HRTの開始時期が早いと、動脈硬化の進行を抑制する効果が明らかになりました。

 

文献:September 28, 2018. J Clin Endocrinol Metab. doi:10.1210/jc.2018-01600

 


最新記事
プロフィール

plap

QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ