▽iPS細胞を使って脊髄損傷を治療する臨床研究計画が、厚生労働省から了承された、とマスコミ各社が2月18日に大々的に報道しました。iPS細胞の臨床応用については、2015年8月12日のブログで理化学研究所多細胞システム形成研究センター(神戸市)が、網膜移植手術を延期したことを取り上げました。再生医療の2例目の臨床応用になる自家iPS細胞由来の網膜移植を延期した話です。
▽このブログでは、網膜色素細胞が損傷されて機能を一度失った視細胞が、網膜色素細胞を交換すれば、再び機能するようになるのか、という疑問を投げかけました。覚えていただいてますか。なぜ、そうなのか。かいつまんで理由を説明します。
▽網膜は、カメラのフィルムに例えられます。ヒトの網膜は、カメラに映る映像を神経の働き(電気刺激)に変え、その映像を脳で理解出来るようにするという極めて複雑な作業を一瞬にこなしています。iPS細胞由来の網膜色素上皮(RPE)シートを移植するだけで、本当にこのような複雑な生命活動が可能になるまでに視力が回復しうるものなのでしょうか。
▽この疑問を解消すべく、その後のiPS細胞による網膜移植手術が、患者さんにどれだけの恩恵を与えているか少し調べました。
すると、毎日新聞が2018年1月16日に他人由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)を目の病気の治療に使えるかを移植手術で調べる世界初の臨床研究を実施。理化学研究所多細胞システム形成研究センターや神戸市立医療センター中央市民病院などの研究チームは、男性患者の1人に網膜が腫れる合併症が起こり、原因とみられる部位の除去手術を行ったという報道がありました。
▽最近、エディンバラ大学実験解剖学教授のジェイミー・A.ディビィス氏が書いた『人体はこうしてつくられる:ひとつの細胞から始まったわたしたち』(紀伊国屋書店)を読む機会がありました。その本は、精子と卵子からできた受精卵が分化し、個体が発生する過程を描いた生命の神秘の解説書です。もちろん、ES細胞やiPS細胞による再生医療にも言及しています。
▽ディビィス氏は、受精卵が分化して個体発生に進むには、細胞同士のコミュニケーションによって1つの胚(1つの細胞)から連続して各器官を形成する過程があると説いています。細胞同士が、コミュニケーションしながら機能する組織へと発達していくのが個体の発生であると述べています。人工的に成熟してから取り出した細胞、つまり不連続な環境下のiPS細胞に同様な機能レベルの組織に発達させること可能なのか? 疑問を禁じえません。
▽再生医療に関してはまだまだ学ぶべきことが多い、断言するのは時期尚早と示唆しています。国内外の一般紙の紙面に踊る文字との間に大きなギャップがあります。この本では、再生医療に関してはまだまだ学ぶべきことが多いことが示唆されていますが、大衆紙の紙面に踊る文字との間には大きなギャップがあるとも述べてます。
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