▽内閣府が3月29日、自宅に半年以上閉じこもっている40~64歳の「ひきこもり」が、全国で推計613千人いるという調査結果を発表しました。7割以上が男性。ひきこもりの期間は7年以上が半数です。15~39歳の推計54万1千人を上回り、「ひきこもり」の高齢化、長期化が鮮明になりました。中高年層を対象にした「ひきこもり」の調査は初めてだそうです。

 

▽「中高年引きこもり61万人=男性8割、半数が5年以上-内閣府調査ひきこもる就職氷河期世代」、「ひきこもり100万人時代、中心は40代。家族が苦悩する「お金問題」」など、新聞には衝撃的な見出しが躍りました。中高年層の「ひきこもり」の実態が、それほど深刻さを増しているという証です。

 

▽この原因について、中央大学文学部の山田昌弘教授は「引きこもりは増加傾向にあり、それは親と同居する未婚者の増加と強く連動している」と指摘。そのうえで、引きこもりの4分の3が男性であることに関して「男性と女性を比べた場合、日本社会は学歴や職歴で男性により厳しい社会のため、結果として男性が引きこもる可能性が高くなる」と分析しています。

 

▽山田教授の分析は、確かに後天的にはそうしたことも一因になるかも知れません。しかし、「ひきこもり」が増え続けている原因を、この世に生まれる前、お母さんの胎内で過ごす時期、先天的な要因について、もっと探ってみる必要がないのでしょうか?

 

▽私は、ブログの執筆や講演、『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』(静岡学術出社)の出版、『週刊朝日』の取材記事 (2014年11月28日号)などを通じて切迫早産治療薬「ウテメリン(塩酸リトドリン)」の問題点を指摘してきました。

 

▽本来は喘息治療に使う薬を転用したのが「ウテメリン」です。この薬に代表されるベータ刺激剤が、妊婦の胎児に与える影響を、米ボルチモアのジョンズ・ホプキンズ大学のフランク・ウィッター教授(産婦人科医)が海外の医学誌に発表して波紋を広げました。妊婦の胎内でベータ刺激剤に被爆した胎児は、生後に深刻な問題を引き起こすというのです。

 

▽この結論を得るまでに、ウィッター教授は動物実験を実施するとともに、ヒトの疫学研究報告をつぶさに調べました。まず動物実験では、ベータ刺激剤を投与された場合、胎仔の脳組織に異変が起こり、生まれた胎仔の能機構が損なわれ異常な行動変化をすることが分かりました。疫学研究報告の調査からは、ヒトでも妊娠期間中のベータ刺激剤の使用により脳機能に悪影響を及ぼしている可能性あったことが判明しました。

 

▽妊娠3半期*の妊娠初期から中期にかけてベータ刺激剤を投与された妊婦の新生児と、投与されていない新生児を比較すると、明らかにベータ刺激剤を投与されていた妊婦の新生児に自閉症がより多くみられました。またベータ刺激剤を長期間投与されていた妊婦の新生児は、認知機能や運動機能の発達の遅れがみられ、その後の学校での成績も劣ることが明らかになっています。(文献1)。「ベータ刺激剤を妊娠初期から中期にかけて妊婦に投与することは、胎児にとって極めて危険である」。ウィッター教授はそう断言しました。

 

 

 

▽2003年、米国産婦人科学会(ACOG)は、ベータ刺激剤(米国では主に「テルブタリン」)の早産治療への使用について、維持(長期)のみならず短期の使用を繰り返すのも行うべきではないとする警告文書を出しています。さらに2日以上のテルブタリンの妊婦への使用は、新生児のASD**(自閉症スペクトラムなど)のリスクを増す可能性があると警告しています。

 

▽私が名古屋大学の助手として勤務していた頃、産科病棟ではウテメリンは薬剤として売り出されていませんでした。テルブタリンが広く使われていました。ウテメリンは1986年4月、早産治療薬として承認されました。その後、国内では早産治療の標準治療薬になり、今に至っています。今回の内閣府の調査の対象年齢は、ウテメリンが承認されたころに生まれてきた子供たちです。

 

▽私は、ウィッター教授の論文が発表された後の文献を調べました。これまでのブログでも度々取り上げてきましたが、デンマークでは国民の健康情報を国家が登録して管理しています。このデータを基に、多くの疫学調査が実施され論文発表されて有益な情報が得られています。最近では、ピルと卵巣癌の関係が、デンマークでの疫学成績から分りました。またベータ刺激剤の妊婦への投与とASDの因果関係も、デンマークの疫学調査から明らかになっています。

 

▽その内容を簡単に紹介します。1997年から2006年の間に病院に入院してASDと診断された5200例と非ASD52000人の比較です。ASDでは妊娠中3.7%にベータ刺激剤が、非ASDでは2.9%にベータ刺激剤がそれぞれ使用されていました。妊娠時のベータ刺激剤の使用により、ASDの頻度が明らかに増加していました。オッズ比***で妊娠前期は1.3、中期は1.5、後期は1.4の増加を認めました。長期のベータ刺激剤投与でASDの頻度が明らかに増加したのです。男女比をみると、男性が82.1%と大勢を占めています。(文献2)

 

▽一方、内閣府の調査では、引きこもり61万人のうち男性が8割を占めるのですが、デンマークの疫学調査でベータ刺激剤の妊婦投与によるASD発症の男女比も、恐ろしいほど一致します。この事実を皆さんはどのように思われますか?引きこもりは、まさに妊婦の胎内でベータ刺激剤被爆が原因と考えられないでしょうか。

 

 

*妊娠3半期:妊娠期間40週を前期、中期、後期と3つに区分します。

**ASD:社会的なコミュニケーションや他の人とのやりとりが上手く出来ない、興味や活動が偏るといった特徴があります。自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群といった呼び方をされることもあります。

***オッズ比:ある疾患への罹りやすさが、対比する群で同じ時に1とし、1より大きいと疾患への罹りやすさがある群でより高くなります。逆に1より小さいと,疾患に罹りにくいことです。

 

 

文献1.Witter FR et al. Am J Obstet Gynecol. 2009;201:553-559

文献2.Gidaya NB et al. Pediatrics 2016;137:e20151316