2019年05月

Dr.水谷の女性と妊婦講座 No.140 「臨床の現場を混乱させるHRTと認知症の疫学研究」

▽本年3月と5月、米国と英国の一流医学雑誌にHRT(エストロゲンとプロゲステロン投与療法)が認知症を改善・予防する否か、全く異なる報告が掲載されました。さて皆さんは、どちらの報告を信じますか?

▽今年5月2日の米国『Health Day New』が、女性ホルモン(エストロゲン)が分泌されている期間(曝露期間)が、短いほど認知症になり易いという記事を掲載しました。内容は次の通りです。

 

▽初経年齢が遅い、あるいは、閉経年齢が早いなどでエストロゲンに曝露する期間が短いほど、女性は認知症を発症するリスクが高まる可能性がある。米カイザー・パーマネンテ研究部門のPaolaGilsanz氏らの研究で明らかになりました。(文献1)

 

▽米カイザー・ヘルスケアシステム1964-1973年の診療録データがあります。1996年に登録されていた女性15,754人を対象に、エストロゲン曝露期間と認知症リスクとの関連を調べました。

対象女性には、中年期(平均年齢で51.1歳)の時点で、初経(初潮)年齢と閉経年齢、子宮摘出術の施行歴を尋ねています。

また認知症の診断歴については、1996年から2017年までの診療録から抽出しています。追跡期間中、対象女性の42%が認知症と診断されていました。

▽解析の結果、初経年齢が平均で13歳だった女性()と比べて、16歳以降だった女性()では認知症リスクは23%高いことが分かりました。

同様に、自然閉経を迎えた年齢が47.4歳未満だった女性()では、それ以降だった女性()と比べて、認知症リスクは19%高いことも明らかになりました。

さらに妊娠可能な期間が34.4年未満だと、認知症リスクは20%高くなりました。子宮摘出術を受けると、認知症リスクが8%高まったそうです。

 

Gilsanzらは、この研究結果は、一生のうち女性ホルモンのエストロゲンに曝露する期間が短いほど認知症になりやすいとする過去の研究を裏付けるとしています。例えば、試験管レベルの研究や動物実験では、エストロゲンが脳細胞の回復や修復に働く可能性が示唆されているとしています。

 

▽今回の研究は観察研究にすぎないため、Gilsanz氏は「エストロゲンへの曝露またはその欠乏が、認知症リスクと関連することを証明するものではない」と説明。そのうえで「認知機能を保つため、女性にホルモン療法を行うべきという意味ではない」と付け加えています。

 

▽Gilsanz氏によると、女性は男性よりも認知症リスクが高いとされ、例えば、65歳時点の認知症の発症率は女性の25%に対し男性は15%とされています。

そうした事実を踏まえると、エストロゲンが脳を保護する可能性があれば、なぜ女性は男性よりも認知症リスクが高いのかという疑問が生じます。その理由を説明する一つの可能性として、Gilsanz氏は「閉経後の急激なエストロゲンの欠乏が、数年後の女性の認知症リスクに影響しているのではないか」との見解を示しています。

 

▽この見解から、私は閉経後のなるべく早い時期からのホルモン補充療法(HRT)の意義が示唆されていると考えています。事実、過去のいくつかの研究によって、HRTはアルツハイマー病のリスクに対し防御的な作用を有する可能性が示唆されています。この講座でも、このような趣旨のことを度々書いてきました。

 

▽これに対し、今年3月、英国の医学雑誌に閉経後のホルモン補充療法でアルツハイマー症リスク増加するとする論文が掲載されました。(文献2)

 

この論文の著者は、前回の講座No.139 「ホルモン補充療法(HRT)は高齢化に伴う痴呆を減少させます」で取り上げたフィンランド・ヘルシンキ大学のHannaSavolainen-Peltonen氏です。以下はその概要です。

 

▽閉経後女性へのHRT(ホルモン補充療法)では、エストロゲンと併用する黄体ホルモン製剤の種類や開始年齢にかかわらず、長期投与によりアルツハイマー病のリスクが増大する可能性を示しました。ただし、膣内エストロゲン投与によるHRTではこのようなリスク上昇はなかったとしています。

 

▽エストロゲンは、内服でも、膣内投与でも、女性ホルモンとして全身に働きます。この事実に照らすと氏の論文は不合理です。海外の一流医学雑誌にいくら掲載されていても、私は認めることは出来ません。

 

▽Savolainen-Peltonen氏らの研究は、フィンランドの約17万人の閉経後女性の症例対照研究で膨大な数で検討しています。19992013年のフィンランドの全国的な住民薬剤登録から、神経科医または老年病医からアルツハイマー病の診断を受けた閉経後女性8万4,739例のデータを抽出。対照として、フィンランドの全国的な住民登録からアルツハイマー病の診断を受けていない閉経後女性8万4,739例のデータを分析、比較しています。

 

▽アルツハイマー病と診断された女性では、8万3,688例(98.8%)が60歳以上、4万7,239例(55.77%)は80歳以上でした。アルツハイマー病の女性のうち5万8.186例(68.7%)はHRTを受けておらず、1万5.768例(18.6%)が内服療法(エストロゲン単剤、エストロゲンと黄体ホルモン製剤)を、1785例(12.7%)が膣内エストロゲン療法を、それぞれ受けていました。

 

▽アルツハイマー病群は対照群に比べ、内服療法を受けている女性の割合が有意に高く(18.6 vs.17.0%、p0.001)、膣内エストロゲン療法を受けている女性の割合は有意に低かった(12.7 vs.13.2%、p0.005)。

両群間で、内服療法の施行期間に有意な差はありませんでした。内服療法により、アルツハイマー病のリスクは9-17%増加しました。内服療法のうちエストラジオール単剤とエストロゲン+黄体ホルモン製剤併用でリスクに差はありませんでした。

 

▽一方、治療開始年齢が60歳未満の女性では、投与期間が10年以上に及ぶと、リスクが有意に上昇しました。HRT開始年齢はアルツハイマー病のリスク上昇に関係ありませんでした。さらに膣内エストロゲン療法の場合、リスクへの影響は認められませんでした(OR:0.99、95%CI:0.96~1.01)。

 

▽Savolainen-Peltonen氏らは、HRTを受けている70-80歳の女性1万人当たりでは、受けていない場合に比べ、アルツハイマー病の診断が年9-18件多くなり(発症率:105件/1万人年)、特に投与を10年以上継続している女性ではリスクが高いと推測されるとまとめています。

そのうえで、ホルモン補充療法の使用者には、アルツハイマー病の絶対リスクの上昇は小さくても、長期使用に伴うリスクの可能性はあると伝えるべきだろうとしています。

 

▽前回の講座No.139を読んでいただくと分かりますが、Savolainen-Peltonen氏は、HRT施行者のAD(死亡)減少は、HRT継続期間5年未満では認められず、5年以上で軽度(15-19%)に減少したと述べています。Savolainen-Peltonen氏は、アルツハイマー病による死亡を調べて減少したと判断しているのです。

ホルモン補充療法の施行期間とアルツハイマー病発症に関する氏の矛盾した見解は、皆さんなら容認できる範囲でしょうか…。

 

※AD(死亡):アルツハイマー病による死亡

文献1.「Neurology327日オンライン版

文献2. BMJ 2019;364:l665 |doi: 10.1136/bmj.l665


Dr.水谷の女性と妊婦講座 No.139 「ホルモン補充療法(HRT)は高齢化に伴う痴呆を減少させます」


 加齢による痴呆の2大要因は血管性痴呆VDとアルツハイマー病です。一方、エストロゲン(女性ホルモン)が脳の働きを守ることは試験管レベルの実験や動物実験から明らかになっています。

しかしながら、閉経後のホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)補充療法(HRT)と血管性痴呆やアルツハイマー病との関連性は、未だ論議が続いています。

▽この問題解明に重要な示唆を与える疫学研究が注目されています。その論文の要旨は次の通りです。(文献1)

 

研究では、血管性痴呆およびアルツハイマー病による死亡(VD**とAD***)に及ぼす影響を疫学的に調べました。

▽フィンランドでは1994年から、包括的にHRT施行者を国家で管理登録しています。同時に神経内科医の診断で処方されたアルツハイマー病治療薬の使用者の記録も管理されています。

これらのデータをもとに、国で管理されている主な死亡原因として血管性痴呆とアルツハイマー病と診断された人たちを照合して調べました

▽対象者は約50万人(48万9105人)。1994-2009年の間にHRT施行者、国への薬剤費の請求記録をもとに調べました。
581人が血管性痴呆で死亡しました。また1057人がアルツハイマー病で死亡しました。HRT施行と死亡の関係は、HRTの施行期間が5年未満と5年以上、HRT開始年の年齢が60未満と60才以上に分けて、それぞれHRT非施行者と比較しました。

▽調査から、HRT施行者はVDが非HRT者と比べ、明らか(約37-39%)に減少しました。この減少は、HRTの使用薬剤の種類に関係なく、またHRT開始年齢や期間にかかわらず、ほぼ同じでした。

▽一方、HRT施行者のAD減少は、HRT継続期間5年未満では認められず、5年以上で軽度(15-19%)に減少しました。またこの減少はHRT開始年齢には関係しませんでした。

HRTは、VDおよびADを減少させ、その減少はADよりVDでより顕著にかつ早期にみられました。

▽この結果を受けて、論文では次の様な考察がなされています。

過去の研究では、HRTと血管性痴呆およびアルツハイマー病との関連性は明確ではありませんでした。その理由は数多くありますが、両疾患の背景因子として高血圧、糖尿病、高脂血症など、いわゆるメタボリックシンドロームが共通します。

▽血管性痴呆およびアルツハイマー病は、ともに病気が進行すると鑑別が容易になる傾向があります。しかし一方で終末期には心臓血管系症状や呼吸器症状など多くの慢性疾患因子が合併して病状が重なり、痴呆が血管性かアルツハイマー病かの診断が困難になります。

このような問題はありますが、この論文では主要死亡原因を血管性痴呆とアルツハイマー病と記録されている症状を基に検討したと述べています。その因果関係を直接証明できないものの、今回の研究からHRTは、加齢とともに少なからず起こる脳梗塞や脳動脈硬化の発症を遅らせ、進行を遅くすることが示唆されると指摘しています。

▽またHRTのエストロゲン単独とエストロゲンとプロゲステロン両剤の比較では、VD減少に差が認められませんでした。この事実はエストロゲンとプロゲステロンの両剤投与は痴呆の頻度が増すとした2003年のWHI研究の報告(文献2)を、改めて否定する結果となりました。

▽WHI研究の問題点は、以前に講座No.66で書いていますが、その要旨を再掲します。

米国NIHが試みた更年期女性へのホルモン補充療法(HRT)で心血管疾患や脳卒中、浸潤性乳癌を増加させるため危険とする論文が発表され、国内の産婦人科の開業医でつくる日本産婦人科医会は2002年、会員に注意を促す通達を出しました。その後、世界中で女性ホルモンの使用がかなり控えられ、HRT受難の時代がありました。

▽さらにHRT施行者のAD減少は、HRT開始年齢に関係しなったことから、60才以降でのHRT開始は心血管系や脳機能に危険とする以前の報告も、否定されました。

▽エストロゲンがVDを減少させる要因は、直接的、間接的な多くの因子が関与すると考えられます。エストロゲンそのものは脳を保護することが知られていますが、HRTの間接的なものとして血管保護作用、血液中の脂質改善、血圧降下作用があることも明らかです。HRTは、これらの働きが総合的に作用してVDを減少させると考えられます。HRT施行者では脳卒中による死亡の減少も報告されています。(文献3)

▽血管性痴呆とアルツハイマー病の鑑別は臨床的にも困難です。疫学研究である本研究では、死亡原因をADとVDに本質的に区別するのは難しいと思われます。しかし本研究は、HRTへの過去の数々の問題点、即ちHRT開始時期、継続期間、使用ホルモンといった問題解明に重要な示唆を与える疫学研究と評価できます。

さらに本研究は、HRTが血管性痴呆とアルツハイマー病に予防的に働くことを明確にしました。この事実は、受難の時代があったHRTの臨床応用に極めて有意義といえます。

 

血管性痴呆vascular dementia

脳および全身性の血管障害で脳に血液が十分流れないために起こる痴呆  痴呆:認知症とは,日常生活に支障をきたす記憶およびその他の知的活動能力の消失を示す総称です。認知症の症例において,アルツハイマー病はその6080%を占めています。


**VD:
血管性痴呆による死亡

***AD: アルツハイマー病による死亡

文献Mikkola TS et al. J Clin Endocrinol Metab. 2017;102:870-877

Shumaker SA et al. JAMA.2003;289:2651-2662

Mikkola TS et al. Menopause 2015:22:976-983

 

Dr. 水谷の女性と妊婦講座 No. 138「流産を繰り返す妊婦には黄体ホルモン(プロゲステロン)が有効です」


 妊娠初期に出血を認める患者にプロゲステロン(黄体ホルモン)の投与は、過去に流産経験がある患者以外、治療効果は認められなといとする論文が米国医学雑誌「New England Journal of Medicine」の5月14日号に掲載されました。(文献A)黄体ホルモンには治療効果がないと受け取られかねないような内容です。

ところが、論文掲載前の9日。この論文の筆頭著者で英国バーミンガム大学産婦人科のA.Coomarasamy教授が、英国ロイター通信の電話にインタビューに対し、同じ論文を「患者(流産経験者)たちには朗報だ」と語っています。いったい、どういうことでしょうか。論文とロイター記者の記事を基に分かりやすく説明します。それは次のような内容です。

過去に流産経験がない人で妊娠初期に出血を認める患者(切迫流産妊婦)にプロゲステロン治療 (黄体ホルモン、400mgの膣錠を1日2回投与)を施した2、238人では、妊娠34週以降の分娩(生産児が生まれる)率は75%だった。偽薬を投与したほぼ同数の治療群ではその率は72%。両者間で統計的に差がないのでプロゲステロンに治療効果は認められないと結論されました。

しかしながら、ロイター通信の電話インタビューに対しCoomarasamy教授は「今回の論文から、過去に2-4回流産した患者には大変な朗報になった」としているのです。次にその理由を列挙します。

 

1.     過去1回流産して現在出血を認める患者にプロゲステロン投与すると、妊娠34週以降の分娩率が5%、3回以上流産経験者ではその率が15%それぞれ上がった。

2.     妊娠34週以降の分娩率は、1回以上の流産経験者ではプロゲステロンの投与で75%だったが、偽薬では70%と差があり、プロゲステロン投与の有効性が示唆された。

3.     さらに3回以上の流産経験者では、妊娠34週以降の分娩率はプロゲステロン投与で72%だったのに対し、偽薬では57%にとどまり、明らかにプロゲステロン投与の有効性が示された。

4.     英国では2012年には妊娠初期に出血を認める患者にプロゲステロンの投与は4.5%程度だった。しかし今後はプロゲステロン投与の増加が期待される。

 

Coomarasamy教授は、こんなことも言っています。妊娠初期の出血は、全妊娠の25%に起こり、その10-20%は流産の予兆です。患者(妊婦)が出血して病院を訪れると、恐らく医師から「2/は心配ないが、1/3は流産になるでしょう」と説明を受けるでしょう。

患者から「流産への対策は何かありませんか?」と尋ねられても、今まで医師は「何もありません」と答えるしかありませんでした。ところが今回の論文から、過去に流産経験のある患者(妊婦)にはプロゲステロン投与を勧めても良いと言えるようになったのです。

 

文献A. Coomarasamy et al. N Engl J Med 2019; 380:1815-24

 

 

 

 

 

 


Dr. 水谷の女性と妊婦講座No.137「極小未熟児を正常児に成長させたのは新生児医療の成果です。しかし産婦人科医は手放しでは喜べません


 ▽正常妊娠では妊娠40週で分娩となります。これを正期産と言います。ところが、過去の多くの研究から妊娠28週以前に生まれた新生児(いわゆる早産児)は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の発症頻度が多いことが明らかになっています。

 

▽それでは28週から36週の早産児のADHDのリスクは、どの程度でしょうか。気になりますが、残念ながら明確になっていません。

 

2005年に早産児(28週から36週)ADHDの発症頻度を調べた論文がありました。(文献1) このブログで何度も指摘していますが、デンマークでは国民の疾病調査を国家が管理しており、個人の病歴を長期にわたって追跡調査することが出来ます。

 

▽1980年から1994年の間に生まれた出生児のうち1999年12月までに国の精神疾患センターへHKD(多動性障害)/ADHDと診断、登録された834人を調べました。

 

▽それによると、834人中314人がADHDでした。2万100人の満期(正期)分娩児を対照群にして比較検討しています。正常分娩と比べ、妊娠34週―36週分娩の早産児では、HKDの頻度が70%増えていました。(RR:1.7, 95% CL:1.25-2.4)。

 

▽妊娠34週以前の早産児では、約3倍増加していました(RR:2.7,95%CL:1.8-4.1)。満期分娩で体重1500-2499gの新生児では、HKDの頻度が90%増えていました(RR:1.9,95%CL:1.8-4.1)。

 

▽また満期分娩で体重2500-2999gの新生児では、HKDの頻度が50%増加していました(RR:1.5,95%CL:1.2-1.8)。

 

 

▽この研究から、早産児および満期分娩でも1500-2499gの新生児では、HKD/ADHDの発症頻度が増加することが明らかになりました。いわゆるVery preterm infant(早産児)、出生時の在胎期間が32週未満の赤ちゃんは、世界的に公衆衛生(public health)や教育上大きな問題となっているのです。

 

▽一方、国内では世界最小の新生児が元気で退院した報道が相次ぎました。最初の新生児はブログ(講座No.135)で取り上げました。2例目は妊娠高血圧症候群で妊娠24週目に緊急帝王切開手術で極小未熟児(出生時体重が1500g未満)を誕生させました。

 

▽体重258gで出生したにもかかわらず、3000g台の正常児に育てて病院から実社会に飛び立たせたのは、我が国の高度周産期医療の成果であることは間違いありません。称賛に価すべき話だと思っています。

 

▽ただ、そもそも、どうして体重258gの赤ちゃんが生まれたのか、が大きな問題です。妊娠24週目に緊急帝王切開手術をして取り出しています。お母さんが妊娠高血圧症候群だったからです。

 

▽赤ちゃんをそのままにしておけば、お母さんの生命にかかわります。だから、やむを得ず分娩させ、人工保育器に移して十分なケアを施し、結果的に正常児に育て上げたのです。仮に母親の妊娠高血圧症候群を安全な方法で治療できていれば、帝王切開や人工保育器を使った高度ケアは不要だったでしょう。

 

▽重症の妊娠高血圧症候群でも少なくとも3週間は妊娠延長を可能とする治療法があります。私はその方法で少しでもお母さんのお腹の中で胎児を成長させて、極小未熟児を避ける努力を重ねてきました。

 

▽日本産科婦人科学会の学術集会が4月、名古屋市で開かれました。藤田医科大学ばんたね病院の先生と共同で、この治療法を発表しました。ブログ(講座Nо.94)でも紹介している「ウテメリンやマグセントを使わなくても妊娠高血圧症候群や切迫早産の治療が出来ます」などのブログをお読みください。

 

▽産婦人科医として周産期医療に半世紀近く携わってきました。誤解を恐れずに言います。産婦人科医は、人工子宮(人工保育器)が発達したことで、自らの危険を回避して早く娩出(分娩)させ、"責任逃れ"するようになっているように、私の目には映ります。胎児にとって最も快適な“ゆりかご”は、お母さんの子宮であることは論を待ちません。正常分娩こそが、母子ともにベストなのです。

 

▽世界一小さく生まれた赤ちゃんを、人工保育器で標準体重まで育ててお母さんの手に渡す。確かに素晴らしいことです。しかし赤ちゃんのその後を考えると、産婦人科医として手放しで喜ぶ気持ちにはなれません。ADHDなどのリスクがあるからです。

 

▽私たち産婦人科医の仕事は、未熟児出産につながる妊娠高血圧症候群や切迫早産の治療方法を一刻も早く確立することです。子宮の中ですくすくと育った赤ちゃんをお母さんに抱いてもらう。その当たり前の光景を実現することこそ、産婦人科医本来の仕事だと思うのです。

 

*ADHDAD/HD注意欠如多動性障害 )は、「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の概念のひとつです。AD/HDを持つ小児は家庭・学校生活でさまざまな困難をきたすため、環境や行動への介入や薬物療法が試みられています。AD/HDの治療は人格形成の途上にある子どものこころの発達を支援する上でとても重要です。

Confidence interval (CI)(信頼区間): 主な統計解析結果をとりまく不確実性の指標。実験的介入を対照と比較する相対リスク(RR)のような未知量の推定値は、通常、点推定値と95%信頼区間として提示される。

*相対危険度(relative risk: RR)とオッズ比(odds ratio: OR

 相対危険度とオッズ比は類似した概念で、何らかの要因に暴露された場合に何らかの状態になりやすいかどうかを判定する指標。

 

文献1.KM Linnet et al. Arch Dis Child 2006;91:655-660

 

 


 


 

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