2019年08月

Dr.水谷の女性と妊婦講座No.149「『出生前診断』を受けなかったタレント蒼井そらさんに拍手」

 ▽妊娠37週目に双子の計画出産(帝王切開手術)をネットテレビ局の『Abema(アベマ)TV』で生中継する予定のタレント蒼井そらさんが4月21日、自身のオフィシャルブログを更新。病院で推奨されている「出生前診断」を受診しないことを報告し、決断までの心境を吐露しています。

▽しかし、ネット上では「いろんな考えの人がいるから黙ってなよ」「脳内お花畑か?」などと反感を買ってしまったようです。

▽蒼井さんは妊娠前に、元セクシー女優が子どもを作ることはもちろんのこと、《(子どもに)障害があったら? 産まれてからの将来は?》など、妊娠や育児に対してよくよく自問自答していたようだ。そうして考えが固まり《自分の中で全部GOが出た》ため、 満を持して妊活に踏み切ったという。

▽現在35歳の蒼井さん。病院の初めての検診で、「出生前診断」の案内書を渡され、《高齢出産になるので安心や準備のためにやっておいた方が良いのかな?》と一度考えたそうです。しかし、《結局、出生前診断はしませんでした》と明かしています。

▽診断しなかった理由は、妊娠12週ごろの妊婦なら必ず受診し、心臓の動きや手足の確認などをする『スクリーニング検査』で、医師から特に《指摘されなかった》からだそうです。さらに精神面でも「出生前診断」を受診する必要性を感じなかったと書いています。

▽蒼井さんいわく、《障害があるからと堕胎するなんて絶対できない》《流産の可能性があるという検査をやる必要性を感じません》という確固たる思いがあり、夫とも話し合った末に《どんな結果であれ、産むならやる必要ない》という結論に落ち着いたそうです。

▽私はこの考え方を支持します。新型出生前診断(NIPT)が2013年に導入されて以来、5年半の間に6万人を超える妊婦が、診断を受けました。 “陽性(異常あり)”が確定したのは約890人。そのうち9割が中絶に踏み切っているそうです。

▽新型出生前診断は「命の選別」ともいわれ、議論が続く重い検査です。そのため日本産科婦人科学会(日産婦)は、妊婦が適切なサポートを受けられるように、高齢出産など、検査に厳しい条件を付けています。しかも国内92か所の施設でしか受けることができません。

▽厚労省は、妊婦の血液から胎児の染色体異常を推定する新型出生前診断のあり方を議論する初めての検討会を、今夏にも設置する方針を固めたようです。日産婦が3月に発表した実施施設を拡大する新指針案に対し、複数の医学系学会が反発して混乱。その一方で指針を無視する営利目的の施設が急増しており、国として対策が必要と判断したのです。出生前診断について国が検討に乗り出すのは20年ぶりになります。

NIPTは米国で始まりました。私は名古屋大学退官と同時に地元の医療関係企業の社長のご厚意で寄付講座を5年間開設していただき、開業医と寄付講座運営の” 二束の草鞋”を履いていました。

▽その社長は、米国の医療関係企業と多数の接点を持っておられました。直截的に表現すると、日本に輸入すれば儲かる多くのプロジェクトを知っていらっしゃいました。

▽寄付講座を開いていただいたころ、社長は日本へのNIPTの輸入を真剣に考え、私に産婦人科医としての意見を求められました。私はNIPTが日本で行われるようになれば、「命の選別」が容易に行われることになり、断固反対ですと申し上げ、社長が断念された記憶が今になって鮮明に思い出されます。

▽実は名古屋大学の教授時代、私は日産婦の理事を務めていました。そのころ、理事会に、ターナー症候群(染色体異常で、生まれつき卵巣のない女性)の団体から「他人の卵子を使いターナー症候群の女性でも子供を持てるようにしてほしい」という要望が出されて議題になりました。

▽司会役の理事長に対し、私は次のような発言をしました。

『このような要望を学会で認めれば、例えは飛躍しますが,ヒトラーや日本を降伏させるために米国が原爆を開発したのと同じことになります。認めるべきではありません』

▽NIPTも同様です。人の欲望には際限がありません。どこかでその欲望に歯止めをかけないと、人間社会が必ずやめちゃくちゃになるでしょう。だから私は自然体の出産を選択した蒼井さんの英断に拍手を送りたいのです。

Dr.水谷の女性と妊婦講座 No.148「iPS細胞由来の目の臨床応用のその後」

 このブログ(2015年8月12)に2例目のiPS細胞由来の網膜移植が延期された事を書きました。この話題は、国家プロジェクトの「再生医療」の対象となり、マスコミも大々的に取り上げていたのは皆さん記憶にあると思います。iPS研究の疾患への応用は、トップクラスの研究者たちが、莫大な国の研究費を使って取り組んでおり、その分、患者さんのみならず国民も大きな期待を寄せています。このブログで、iPS細胞由来の網膜移植の人への臨床応用が本当に現時点でできるのか?そろそろ、いますぐに出来ること、出来ないことを国民や患者さんに率直に明らかにするのも、科学者としての責務ではないでしょうかとのべました。

今年の7月31日の神戸新聞に 理化学研究所は31日、生命機能科学研究センター(神戸市中央区)の高橋政代プロジェクトリーダー(58)が同日付で退職する報道をしました。

新聞では、高橋氏は「理研との協力関係を継続しつつ、視覚障害を克服する医療開発に貢献できるよう、新しい医療の創出にまい進したい」とのコメントを出した。高橋氏が率いてきたチームは、失明の恐れがある「滲出型加齢黄斑変性」の患者に、患者自身や他人のiPS細胞から作った網膜細胞を移植する臨床研究に取り組んでいる。今後の研究に高橋氏がどのように携わるかについては、理研は「未定」としている。

昨日大阪大学から、iPS細胞から作った角膜細胞を移植する臨床研究の大成功の報道がありました。光は外から入り、角膜瞳孔水晶体硝子体網膜の順に進み網膜で認識します。莫大な国の研究費を使って取り組んでいるiPS細胞の患者への応用が是非とも人類の夢をかなえる事を祈っています。


 

 

Dr.水谷の女性と妊婦講座  No.147 「なぜカルシウム摂取は、妊娠高血圧症を予防するのか?」

▽前回のブログで、妊娠高血圧症(HDP)の研究に長年取り組んできた私には、食物繊維が妊娠高血圧症を予防するというのは初耳です。しかしカルシウムの摂取が、HDP発症を予防することは古くから研究され、広く知られている事実です、と述べました。

▽カルシウムの摂取が、HDP発症を予防するのではないか、とする考え方は、実はグアテマラに住むマヤ先住民にはHDPの発症頻度が少なく、彼らは伝統的に料理前にトウモロコシをライムにしみ込ませる調理法を行っており、この調理法では、食事にカルシウムが多くなることが知られていました。これらの事実が、その後のカルシウム摂取によるHDP予防という疫学研究の発端のようです。

▽そこで、この点について少し調べてみました。WHO(世界保健機構)

の今年6月のニュース(URL:https://www.who.int/elena/titles/review_summaries/calcium-supplementation/en/)に次のような記事がありました。

それは、カルシウムの摂取がHDPとその関連疾患を防ぐという内容です。1日1g以上のカルシウムの摂取は、HDPのリスクを下げるのみならず、早産のリスクも下げ、それらによる母体死亡や重篤な合併症のリスクも下げるとしています。

また1日1g以下でも、HDPのリスクを下げ、低体重児の出生を防ぎ、新生児のICU治療を減らすとしています。

▽このニュースは、コクラン(Cochrane)という人の健康管理、増進を目的とした世界的な組織(非営利団体)が、この点に関する膨大かつ正確な情報を調査した報告によると述べていました。

その報告は、Hofmeyr GJ et al. Cochrane Database of Systemic Reviews 2014, issue 6. Art. No.:CD001059. DOI:10.1002/14651858. CD001059.pub4. (URL:www.cochranelibrary.com) などの論文を根拠にしています。

既にWHOは2012年、コクランの調査などを根拠にHDPとその合併症の予防に1日1.5g以上のカルシウムの摂取を推奨しています。

 

▽上記の論文(Hofmeyr GJ et al. 2014)には、次のような考察が記載されています。彼らの調査から、妊娠後半期のカルシウムの摂取は、血圧を降下させている。しかしながら、なぜカルシウムの摂取が血圧を降下させるかは未だ不明である。

▽我々の提唱するHDP治療薬アンジオテンシン分解酵素(aminopeptidase A、APA)は、カルシウムの摂取が血圧を降下させる機序にヒントを与えているかもしれないのです。

▽さて、講座No.141で事前報告しましたが、8月2日に岐阜市の岐阜大学サテライトキャンパスで第24回日本病態プロテアーゼ学会学術集会が開かれ、我々が長きに亘り研究してきたAPAの研究成果を発表いたしました。今回は薬剤開発を目指す、第一歩の段階の発表でした。

1970年後半、私がAPAの研究を始めたころ、この酵素の存在は疑問視されていました。

▽我々は1981年、APAがアンジオテンシンⅡ分解活性を持つ唯一の酵素であり、胎盤に豊富に存在することを報告しました。(文献)

その後、この酵素は腎臓にも豊富に存在することも報告しています。

この酵素の活性を試験管中で測定するには、カルシウムの存在が必須です。つまり、試験管中にカルシウムがあれば、酵素の働きが増強されるということです。

▽私は患者さんの血液を採取し、APA活性を測定する際は常にカルシウムを入れて測定していました。そのころから、カルシウムの摂取が、APAの働きを高め、HDP発症を予防するのではないだろうかと考えていました。

なぜなら、試験管でも、血液中でも、カルシウムがAPAの働きを活性化すると考えられるためです。

▽私は、HDPの病因は1.HDPでは、酸素欠乏状態(血流不全状態)におかれた胎児は、胎児自らが生体物質中最強力な昇圧ホルモンであるアンジオテンシンⅡの分泌を増加させる。2.一方、アンジオテンシンⅡを破壊する役目の胎盤や妊婦血中に存在するAPAの産生量はそれに追いつかない。3.このアンバランスが母体の血圧を上昇させる。-と考えています。

 

文献:Mizutani S et al. B.B.A.678:168-170;1981

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