私は、前回のブログでのべましたように、Zimmermannジンマーマン、写真最前列左から7人目の髭の研究者)の研究成果を驚きのあまり、メモをとりながら聞きました。彼の講演中ではその研究を始めた動機などが、一切述べられませんでした。私は、講演を聞きながら、この素晴らしい研究には、何かその研究の拠り所とするものがあったに違いないと考えました。彼の発表直後のワインパーティーの席で、私は彼の近くで(耳元で)貴方の素晴らしい研究は一体どこにヒントがあったのですかと尋ねました。すると彼は少しためらってから、この考え方は、日本の製薬会社の特許にあり、それは武田製薬だと答えてくれました。

 

帰国後、私は疲れが残っていました。しかしアンジオテンシンゴードン会議でフランス・ディポン社のジンマーマンから直接聞いた話が耳を離れませんでした。それほど驚くべき話だったのです。

帰国して7日後、私は新幹線と阪急電車を乗り継いで、大阪市十三本町の武田薬品大阪工場に併設されていた研究所(現在は第九技術棟とよばれているようです)を訪問しました。基本特許を持つ日本の製薬会社が知らないところで開発が進んでいるのを知らせるのは、日本人研究者の一人として当たり前のことと思いました。

研究所では、当時の副研究所長が応接室で私を迎えてくれました。ただ名古屋から出かけて行った私に、お茶の一杯も出てきませんでした。

私は、ゴードン会議のワインパーティーでジンマーマンから直接聞いた話を副研究所長にそっくり伝えました。ところが、彼は驚くどころか、表情一つ変えません。そして、こう話しました。

「失礼ですが、そのお話は関西地区のある大学の教授から昨日お聞きしました」。

私は、ワインパーティーでジンマーマンと2人だけで話していました。だから、どうして有名大学の教授に伝わったのか。狐につままれた様で不思議でなりませんでした。

この1989年のアンジオテンシンゴードン会議には、日本人の参加者の数は少なかったのですが、武田薬品に私とジンマーマンの間で交わした話を、私より前に武田薬品に伝えた教授の教室から講演者として招かれた方もいらっしゃいました。多分、その教室のどなたかが、私たち2人の会話を、そばで聞かれたのかも知れません。

ただ、この情報はビッグでした。後日になって、高血圧分野では高名な別の教授が、武田薬品に伝えたとか、いろんな尾ひれをつけた話が出回っていたのは、事実を知っている者からすると、滑稽な話でした。

1つだけ確実なことがあります。武田薬品にビックな情報を伝えたのは、高血圧分野とは畑違いの産婦人科医(写真最後列)だったことは間違いありません。

その後、数年かけて武田薬品はブロブレスを発売し、私も愛飲?しています。

しかしジンマーマンの研究成果は、いち早くメルク社が買い取り、世界初のサルタン系降圧薬「ニューロタン」として発売。サルタン系降圧薬が、世界の降圧剤市場を支配する一歩を記しました。

ニューロタンとブロブレスの2剤からあとに登場したのが、ディオバンなどのサルタン系降圧薬なのです。



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