20代の自殺率が最も増加している」・・これはインターネットで「自殺」を検索したときに最初に目についた見出しです。
「自殺白書」という政府が出す報告書があります。最近の自殺、とくに青少年の自殺についての統計数字を見ると身震いするような危機感を覚えずにはおれませんでした。じつに不可解なことが多いのです。白書には1989年から2011年までの22年間の年齢層別の自殺率、つまり20代、30代、40代、のように年齢層に分けてその層の人口に対する自殺死亡者数を見たものです。そうすると1989年、今から約24年前に自殺率が急激に上がっています。その後、若年層とくに20代の自殺率が右肩上がりに上昇していますがそれ以外の年齢層では2003-2004年あたりから横ばいかあるいは下降傾向です。それにも関わらず20代では上昇し続けているのです。
多くの理由付けがされています。とくに雇用情勢の悪化です。しかし、仕事が見つからないというだけで未来のある元気な若い人たちが簡単に自殺するのでしょうか?
私は医学者としてずっと産科に携わっています。臨床研究と基礎研究を何十年もやってきており、現在も臨床の傍ら基礎研究の論文を執筆しています。()  妊娠の病気には2つの厄介な病気があります。現在20代や30代の青年の中には、お母さんが妊娠中に切迫早産という病気に罹り、胎児、つまり今の青年たちの発育に影響したかもしれない危険な薬を投与されていた可能性があるのです。これらの薬は胎児の神経発達に影響し生まれてからうつや自閉症などのリスクを高めます。(2) またもう一つの妊娠の病気である妊娠高血圧症候群に有効な薬は現在もありません。唯一の治療は帝王切開して予定日よりずっと早い時期に胎児を娩出することなのです。これはすなわち、お母さんの生命を救うために未熟児の出産を人の手で行うというものです。未熟児はその後の成長に多くのハンディキャップを残します。この場合もうつ症状や自閉症といった精神障害のリスクが高まります。
私は近年の自殺者数が多いのは環境だけではなく、このような医学的背景もあるのではないかと強く疑っています。
読者の皆様はどうお考えでしょうか?最近の生活環境だけが若者の自殺を誘引していると思われますか?動物が自殺したというのは聞いたことがありません。なぜ人間だけが自殺するのか、しかも社会生活の悪環境が原因で。何かがおかしい・・と感じています。



(1)Mizutani S et al. New insights into the role of aminopeptidases in the treatment for both preeclampsia and preterm labor. Expert Opin Investig Drugs. 2013 Aug. 10

(2)Witter FR et al. In utero beta2 adrenergic agonist exposure and adverse neurophysiologic and behavioral outcomes. Am J Obstet Gynecol. 2009 Dec;201(6):553-9