このP-LAPブログの“ウテメリン(塩酸リトドリン)は胎児ばかりでなく妊婦をも危険に晒します
http://p-lap.doorblog.jp/archives/16587694.html2012.9.5)は、未だに大勢の方々に読んでいただいています。良い意味でも、悪い意味でも、それだけ皆さんの関心が高い現れでしょう。
 
既にブログに書きましたが、ウテメリンを発売した中堅製薬会社が厚労省に提出した資料(市販後副作用調査)では、1986年4月のウテメリンの承認以来、2002年12月末までの16年8か月の間に、妊婦に現れた重い副作用251例が報告されていることが明らかになっています。

これらの重大な副作用が明らかになり、その対策を未だになぜ考えていなのでしょうか? 

同社は、別の中堅製薬会社(この会社は1986年、特許切れしたウテメリンのジェネリック(後発品)を発売しています)と共同で新しい切迫早産治療薬「KUR-1246」の開発を進めていました。



薬の作用を分かり易くするため、少し専門的なことを書きます。交感神経末端に存在するノルアドレナリンという神経伝達物質があります。一方、細胞膜上や細胞内に存在し、ホルモン等の物質の刺激を認識して細胞にホルモン作用を伝えるタンパク質を受容体(レセプター)と言います。

ノルアドレナリンの受容体はβ1とβ2があり、β1は主に心臓を刺激するとされています。β2は気管支の拡張作用(喘息治療)や子宮の筋肉の弛緩(早産治療)作用を示します。

このKUR-1246という薬は、β2受容体に対する選択性がβ1受容体の1万倍と言われていました。つまり、β2に圧倒的に作用するため、β1にはあまり作用しない。だから心血管系の副作用が軽くなると期待されていました。

まさにunmet medical need(アンメット・メディカル・ニーズ 未だ満たされていない医療ニーズ)を満たす薬剤になるだろうとみられていたようです。

しかしながら、「吉川医薬経済レポート」の2006年1月号にKUR-1246開発中止の記事が掲載されていますが、夢の新薬開発は頓挫しました。



同レポートは、国内開発中止の理由を次のように報じています。



「国内では患者のリクルートが困難で,しかも同剤を使って誕生した子供



についても追跡調査が必要であるなど,妊婦に対する治験環境が整って



いないためということである」。平たく言うと、治験に協力する妊婦の同意が



得られなかったのです。



先日、「ウテメリンの重い副作用が集計期間で異なるのは何故?」



http://p-lap.doorblog.jp/archives/38404532.htmlを書くため、



KUR-1246開発の根拠となった論文を検索し、関連する論文:



Pharmacological Characterization of KUR-1246, a selective



uterine relaxant (2001): available at http://jpet.aspetjournals.orgを読みまし



た。



1986年当時、日本でテルブタリン(ブリカニール)が承認され



ず、ウテメリンのみが流早産治療薬としてなぜ承認されたのか。



同じβ2刺激薬なのに、その違いに極めて疑問を感じたのです。



論文の成績の一部をご紹介します。論文のtable3です。



このデータによると、リトドリン(ウテメリン)よりもテルブタリ



ンの方が心臓作用(動悸?)は、およそ10倍起こしにくく、消化器



症状では100倍以上の差があると解釈できます。



テルブタリンは、ウテメリンよりも動悸などの副作用が少なく、安



全性が高いというデータなのです。



ウテメリンを承認した厚労省とは異なり、FDA(米国食品医薬品



安全局)は、このような根拠に基づいてテルブタリンのみを切迫早産の



治療薬として承認したことは十分考えられます。



ただし、米国では、そのテルブタリンの使用期間を厳しく制限していま



す。妊婦への使用は48-72時間以内です。



ウテメリンの重い副作用が確認され、EU(欧州連合)は、ウテメリンの注射剤は使用制限、錠剤は承認を取り消しました。つまりEUに加盟する28か国では切迫早産の治療にウテメリンの錠剤は使えなくなったのです。



実は、ウテメリンはオランダの「フィリップス デュファル」という製薬会社が開発し、日本の中堅製薬会社は同社と国内で共同開発して厚労省の承認を取り付けています。そのオランダが加盟するEUが、国内では軽い切迫早産の妊婦に気軽に投与されているウテメリン錠の使用を禁止しました。

事態がここまで深刻になった以上、中堅製薬会社は迅速かつ詳らかに保有する全ての情報を公開し、規制当局と早急に善後策を講じるべきではないでしょうか。切に願っています。