現在の産婦人科医療では、残念ながら早産や流産の治療薬はありません。すべて対症療法(原因を取り除く治療ではありません)で臨んでいます。

ですから、ウテメリンや硫酸マグネシウム(マグセントなど)といった危険な薬が、『切迫早産治療薬』として安易に広く妊婦に使われているのです。


ウテメリンは基本的に喘息治療薬です。妊婦のあなたにウテメリンが使われることによって、あなたのお腹の中の赤ちゃんが大量の喘息治療薬に晒されます。それをどう思われますか。

喘息治療薬は、言うまでもなく、母体のみならず、胎児の心臓に大きな負担を与えます。

 米国のFDA(日本の厚生労働省に相当)は2013年5月30日、切迫早産の治療に硫酸マグネシウム(マグセントなど)を注射するのは5-7日までと勧告しました。それ以上の期間投与すると、妊婦や胎児に悪影響が出るからにほかなりません。

厚労省やPMDA(通称パンダ、独立行政法人医薬品医療機器総合機構)は今年7月、マグセントやマグネゾールを妊婦に使用する際の注意事項として、新生児の心機能障害を新たに追加しました。

日本心臓財団の調べでは、1歳以下で発症した心筋症の乳児は圧倒的に拡張型の症例が多いのです。生まれて間もない赤ちゃんが、なぜ拡張型心筋症になるのでしょう。言い換えると、生まれる前から心臓の筋肉が発達しない病気になっているのでしょうか?

切迫早産や妊娠中毒症の治療薬としてマグセントやマグネゾールが広く使用されていることは、ご存じの通りです。1歳以下で発症した心筋症の乳児とこれらの治療薬の投与との因果関係が、もしも認められるなら世間は大騒ぎになるでしょう。

私の父も開業医でした。「妊婦さんのお腹(子宮)が『福井名産の羽二重餅』なら、妊娠の経過は順調です」。父は妊婦さんに良くそんな例え話をしていました。子宮の弛緩を表す適切な表現と思います。

早産は自分で防ぐポイントは、実にこの点にあるのです。妊婦さんの子宮は妊娠後期(陣痛開始の1-2週間前)まで、原則『福井名産の羽二重餅』(今風に言えばマシュマロ状)状態であるべきなのです。

妊婦の子宮は1日に4-5回の頻度で収縮します。この程度の回数の子宮の張り(収縮感)は問題ありません。それ以上頻繁に子宮が固くなる(収縮)のは、お腹の赤ちゃんがあなたに安静にしてくださいとサインを出していると考えてください。

 お産講座 No11で次のように述べました。

過度の仕事や運動、長風呂は、なるべく控えましょうという妊婦さんに対する先人の教訓は、誠に適格な考え方なのです。

しかしながら、最近の妊婦さん向けに出されている“マタニティー本”の内容や、妊婦さん向けの各種講演会の講演内容も、妊婦は基本的に安静が求められるという私の考え方には否定的なのが現状です。

敢えて言わせていただくなら、今の妊婦さんは、欲が深いのです。仕事を人並みにこなして、贅沢な食事を楽しみ(妊婦さんには減塩食を勧めます)、休日には楽しくショッピングや外出をエンジョイする。

お産は豪華な食事の楽しめる立派な施設で夫立ち合い分娩で痛みも無く赤ちゃんを産む。

ほんの60年ほど前まで、お産は、妊婦さんが障子の桟の1本が2本に見えるくらいの痛みに耐えて、赤ちゃんが「おぎゃあ」と生まれると言われていました。

私に言わせれば、今の妊婦受けする考え方は、“商業主義”です。妊婦さんの安全を考えていません。またそのためか、妊婦の皆さんは、わがまますぎると思います。

夫立ち合いの分娩も結構です。ただ分娩は、外科的な処置が必須です。産婦人科医が、ご主人がおられるために、外科的処置をするのをためらって、胎児が危険に晒されることのないように願っています。

私が名古屋大学在職中に外来で妊婦さんに、安静の必要性をお話しすると、私の後ろにいるベテラン助産師や看護師の方々が「また水谷先生が古臭い話をしている」と陰口を囁いていたのを記憶しています。

しかしくどいですが、安静が流産や早産予防の1丁目1番地であるのをくれぐれも忘れないでください。

キャリウーマンとしてお仕事に励む妊婦さん、あるいは、旅行代理店が勧める妊婦向け温泉ツアーへの参加を考えておられる妊婦さん、くれぐれもわざわざ安静をさせない旅行など考えないで、お大事にしてください。

 赤ちゃんを産むのはリスクを伴うという事実は、太古の昔から何ら変わっていません。ただ医療技術の進歩で、リスクがなくなったかのように錯覚しているだけなのです。