日本眼科学会と日本眼科医会でつくる日本眼科啓発会議が今年5月16日、眼の治療に使う計画が発表されているiPS細胞の臨床研究の限界に理解求める声明を発表しました。そこからは、加熱するiPS細胞の“万能性”に対する期待にブレーキをかけている臨床医や研究者の姿が読み取れます。少し声明の要点を紹介します。

日本眼科学会理事長の石橋達朗・九州大教授は「iPS細胞で全てが治るという間違った過度な期待がある」と警告を発しました。さらに加齢黄班変性の治療に、iPS細胞を使う臨床研究を進める理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)の高橋政代・網膜再生医療研究プロジェクトリーダーの言葉が取り上げられています。

「今の再生医療はライト兄弟が300m飛んだのと同じ状況。誰もがシートベルトを締めるだけでハワイに行ける時代がすぐにでも来ると思っているが、まだまだ再生医療はリスクと背中合わせ。費用も高い」

加齢黄班変性の治療に、iPS細胞を使う理研の臨床研究の考えは、同研究センターの同僚だった故笹井芳樹・副センター長が、ES細胞から立体的な構造を持った網膜組織を作ったことがベースと考えられます。

理研は、20114月の英科学誌『ネイチャー』にマウスのES細胞から網膜全体を作ることに成功したと発表。ES細胞から網膜を立体的に作ったのは世界初で、研究チームは2年以内のヒトの網膜での実用化(今年になります)、更には臨床への応用を計画していると打ち上げました。

再生医療分野に、政府は多額の税金(研究費)を投入しています。しかし現場で実際に研究する彼らは、国民に対し安請け合いは出来ません。石橋達朗理事長の声明から研究者や臨床医の不安が透けて見えそうです。

細胞―器官(臓器)-臓器を統括する生命(力)と、私達は、細胞から成り立ち、細胞に始まる各段階を統括する生命力によって生かされています。

万能細胞で生命が蘇ると考えるのは、少し考えが甘いでしょう。

神戸市の理研CDBと周辺エリアには巨大なビルが張り付いています。

笹井芳樹副センター長が亡くなられた時、マスコミが「政府の今後の成長戦略にも影を落とす」とこぞって報道していました。これは、一体、どういう意味なのでしょうか。テレビ局によっては、建築中のビルを放映しながら、笹井副センター長の死を伝えていました。   

以下は、決して笹井副センター長がそうだったと申し上げているのではありません。

一体に医療はお金を儲けるための仕事ではありません。あくまで患者さんを救う手段なのです。その医療を景気回復の手段、成長戦略に組み込むとはどういう意味なのでしょうか。

CDBの周辺に競うようにしてビルを建てている企業は、何を狙っているのでしょうか。笹井副センター長が亡くなられたことは、確かに難病の治療を心待ちされている患者さんにとっては痛恨の極みです。

ただそのことと、経済的な損失が云々と言う話は、全く別物だと思うのです。この二つ、即ち難病治療という純粋な医学の話と経済的損失、再生医療による儲け話をないまぜにして論じることに、“小保方論文事件”の病巣の深さが垣間見えるようです。