「出産時の出血で女性を死亡させたとして、神奈川県警は9月16日、業務上過失致死と医療法違反の疑いで、相模原市南区の「のぞみ助産院」院長の女性助産師(69)を書類送検した。県警によると、昨年4月27日午後11時半ごろ、助産所で水中出産した女性の血が止まらず、助産師は同28日午前2時50分ごろ119番した。」

これは、共同通信社が9月16日に配信した記事ですが、ここに出てくる水中出産について少し考えましょう。

私は、産婦人科医として約50年、臨床に従事してきました。母校を退官後は、外来診療なので、分娩には過去10年ほど立ち会っていません。

しかし、昭和40年代、私は日夜、母児安全に捧げる若い産婦人科医でした。名古屋医療センター(旧国立名古屋病院)に勤務していたころ、一人当直で一晩に10人の赤ちゃんを取り上げた経験もあります。

分娩時の母児安全のためには、多くのポイントがあります。“おぎゃ”と生まれてきて、あるいは、“おぎゃ”と鳴く前に、真っ先にしないといけない最も大切な仕事は、赤ちゃんの気道(呼吸)の確保です。まず、自分の指先にガーゼを付けて赤ちゃんの口の奥深くまで入れてガーゼで確実に口の中の水(羊水)やその他の異物を拭います。

その後、呼吸が整わないなら、赤ちゃんの口に自分の口を付けるマウス・ツー・マウスで思い切り自分の息を吹込みます。このような処置が、赤ちゃんの呼吸を整える大切な処置なのです。

では、「百害あって一利なし」と私が考えている水中出産の場合、私が最重要と申し上げた赤ちゃんへの処置を考えて、どうなるか想像してみてください。

赤ちゃんは、お湯の中に沈んだ状態で生まれてきます。ただでさえ、突然、胎盤呼吸(臍)から肺呼吸に変わって、赤ちゃんはまごついて、しばしば羊水を飲み込んで誤嚥性肺炎を起こします。最近、亡くなった女優の山口淑子(李香蘭)さんの死因は誤嚥性肺炎でした。

私のようなベテランの産婦人科医でも、このように神経を使う赤ちゃん誕生の瞬間を、なぜ好き好んでお湯の中で、赤ちゃんが溺れる状態でお産をするのでしょう。100%以上異常なお産としか言いようがありません。

相模原市の例は、「血が止まらず」などと報道されています。この妊婦さんは3回目のお産でした。実は、お産の回数が増えるほど、産道の周囲の血管(静脈)はそれこそ、蛇が“どぐろ”を巻いたように、大変な勢いで血液が流れ、溜まっているのです。

お湯の中で、体が温まれば、お風呂に入ると、血管が開きます、また子宮の筋肉も、基本的には血管の筋肉と同じなので子宮も緩みます。子宮は分娩後収縮することで、子宮(胎盤付着部位)からの出血が止まります。この自然の止血メカニズムも、お湯の中では、うまく機能しません。当然、水中分娩時では大量の血が出ます。

ライオンは、子供を崖から突き落とし、這い上がってきた子供だけを育てるといいます。ただ人はライオンではありません。崖に突き落としたら、死んでしまいます。