妊娠中毒症や早産という新しい生命誕生への重大な疾患の病因が、未だ不明とされています。従って、それらの治療法もありません。

米国では民間会社が宇宙旅行の参加者を募っています。そんな時代に新しい生命誕生を阻害する重大な疾患の原因が分からないという事態をいつまでも許すわけにはいきません。

前回のブログでは、妊娠中毒症の原因(病因)遺伝子を、既に米国の研究者らが明らかにしていることを述べました。

我々のNPOの愛称であるP-LAPともう一つのA-LAPという2つの蛋白分解酵素が、その候補遺伝子として絞り込まれているのです。



P-LAPについては、過去のブログでも説明しています。このブログをお読み頂いている方は、お解りのことと思います。A-LAPに関しては、近いうちにブログでご説明します。

実は、2013年、米アイオワ大学のムレイ(Jeffrey C Murray)らが、米国、フィンランド、デンマーク、アルゼンチンの早産患者の新生児と母親の遺伝子検索から、早産の病因遺伝子としてP-LAPの可能性が極めて高いと報告しているのです(文献1)。

前回のブログで妊娠中毒症の原因(病因)遺伝子の検討は、QTL解析(量的形質遺伝子座検定)という方法で遺伝子を絞り込んでいることを説明しました。今回は、SNP解析という方法を使っています。

SNP解析を紹介する前に、DNAを少し説明させてください。DNAは、デオキシリボースという糖を含む核酸(酸性の化学物質)で、デオキシリボ核酸とも言われます。

遺伝子の情報は、それに指定されたタンパク質が働いてはじめて重要性を持ってくることは、前回のブログでも述べました。



DNAは「塩基」「糖(デオキシリボース)」「リン酸」と呼ばれる化合物が一つずつ結合したものが最小単位(この単位をヌクレオチドと呼びます)です。

その最小単位が、リン酸を媒介にしてつながり、鎖のようになります。2本の鎖の「塩基」と「塩基」がさらに結びつき、「二重のらせん状」になります。

「塩基」には「アデニン(A)」「グアニン(G)」「シトシン(C)」「チミン(T)」の4種類あり、最小単位は、このうちのどれかが結合しています。そしてATとのみ、GCとのみ結合します。

従って、2本の鎖の結合部は必ずその2種類の塩基の組み合わせになります。この塩基の並び方が遺伝暗号で生物の設計図になっていることが分かっています。

SNPは、標準的な塩基配列と比べると、一塩基だけが異なり多様性(多型)が生じている状態をいいます。一塩基多型のことです。



ヒトDNAではSNPは約1000塩基に1個あると推定されています。SNPの大多数は、タンパク質合成の制御領域以外のところにあります。遺伝的な特徴の変化はもたらさないが、遺伝子や制御領域にあるSNPは、遺伝的な個人差を生じさせている可能性があると考えられています。

つまり、SNPは、基本的な体質、薬剤投与時の反応(効力、副作用)などの個人差や、高血圧、糖尿病など多因子性異伝子疾患発症の個人差などの指標になる可能性があると考えられています。

SNPの解析によって、個人別のテーラーメイド医療や予測医療への可能性が広がると期待されているのです。

ムレイらの論文では、次のような考察と結論を明らかにしています。結論から申し上げると、早産の病因遺伝子はP-LAPではないかと指摘しているのです。

さらにP-LAP遺伝子ノックアウトマウスの成績を詳しく述べています(文献2)。これは、私が名古屋大学退官後、グッドマン社の当時の山本明社長のご厚意で名古屋大学医学部に五年間開設した寄附講座から発表したものです。

過去の早産病因遺伝子検索では、主に免疫や炎症の関連遺伝子が検討されてきました。しかし、それらの検討からは明確な絞り込みが出来ませんでした。

彼ら(ムレイら)は、生理的(ホルモンの働き)に古くから妊娠時の子宮収縮の最も大切なホルモンとされているオキシトシン代謝関連遺伝子SNP解析しています。その遺伝子とは、オキシトシン、オキシトシンレセプター、オキシトシン分解酵素のP-LAP です。

母体と新生児双方の検討から、SNPの解析結果から明らかに早産と関連性が見られたのは、母体のP-LAP遺伝子のみだったのです。

我々は2009年、妊娠P-LAP遺伝子ノックアウトマウスでは、オキシトシン投与時の感受性(子宮収縮)が高まっている、即ち妊娠期間が正常妊娠マウスより短いことなどを報告しています。

また、我々が多数の正常妊婦の陣痛発来前の母体血のP-LAPの変動から陣痛の予測が可能であるとする論文(文献3)の内容も、彼らの今回の成績と一致すると紹介しています。









文献

1.Kim J et al. BMC Medical Genetics 2013;14:77 

2. Ishii M et al. Life Sciences 2009; 84:668

3.Mizutani S et al. Clin Biochem 1982;15:141