▽ヒトは妊娠すると、胎児の成長に不可欠な
2つの女性ホルモン、エストロゲン(以下、E2)とプロゲステロン(以下、P)が、胎盤で作られて、非妊娠時の約100倍も母体血中に増加します。この2つの女性ホルモンは、出産するまで胎児の成長を促すと同時に、正常な分娩まで母体の妊娠を継続させて、胎児の正常な発育を見守っています。



▽講座No.43で指摘したように、早産や妊娠高血圧症のリスクのある妊婦にE2とPを漸増投与する方法は、分娩時期を延ばし、胎児を正常発育に近づけて早産を防ぎ、妊娠高血圧症を改善しているのです。事実、これまでにE2とPを漸増投与する方法で、私は数十例の早産治療に成功しています。また妊娠高血圧症の重症例では、この治療法で帝王切開分娩して親子二代に渡って、安全性を証明した例もあります。



▽その重症例の妊婦さんから生まれたお嬢さんは、2人の元気なお子さんを生みました。E2とPの漸増投与法で治療した重症妊娠高血圧症の妊婦さんは現在、2人の健康なお孫さんを持つおばあちゃんになっています。



▽この女性ホルモンの重要性に注目したドイツの産科グループは1999年、私の方法とは少し違ったやり方で超低出生体重児(Extremely low birth weight infant、出生体重1000g未満)にE2とPを投与して、新生児の成長効果を調べました。



▽非妊娠時の100倍に増えた母体のE2とPは、分娩後は急速に減って妊娠前のレベルに戻ります。早産で生まれた新生児(低出生体重児)は、正常に子宮内で育つ胎児と比べて、突然E2とPが低レベルの状態に置かれます。



▽ドイツの産科グループは、分娩直後から早々と生まれた13例の早産新生児(平均26週で出産、全員女児で平均体重690g)にE2とPを投与しました。投与期間は20日間の例が最も多く、最長例は6週間でした。この方法で新生児のE2Pのホルモン濃度は高く維持されました。また投与期間に新生児の発育に関する副作用などの悪影響が現れた例は皆無でした。



▽医学誌に投稿した論文で産科グループは「この試みはまだ初期段階。今後13人の新生児が健康で元気に育っていくのを見届けなければ、E2Pの低出生体重児発育への影響は何とも言えない」とコメント。そのうえで「もし、この結果が満足するものになれば、将来、E2とPの低出生体重児への投与は臨床に使われるだろう」としています(文献)。



▽私たちのNPOが提案している妊娠高血圧症と早産を治療するためのE2とPの漸増投与法は、ドイツの産科グループの論文をはるかに先取りしているのです。



文献:Trotter A et al. Pediatric Research (1999)45,489-493