▽因果応報という仏教の教えがあります。平たく言うと、原因があって結果が生まれるということになります。

▽妊娠高血圧症は、その病因が不明で、治療法は有効なものが何らありません。病因が不明ということは、治療法には色々な考え方が登場し、結局、何時までも根本的な治療法が見出せません。残念ながら、これが産科医療の現状なのです。

▽ところが、胎児が子宮内で死亡する、または、低体重児を覚悟で娩出させると、恐ろしい症状は嘘の様に消え去り、妊娠高血圧症は治癒します。

この事実を謙虚に考えると、生きようとする胎児が子宮内に存在することが、根本原因(病因)と言えます。それでは、その結果です。

▽母体に現れる臨床症状が結果になります。まず、浮腫(体重の異常な増加)です。正常な妊娠の経過なら、妊娠中その時期を問わず、1週間に400g妊婦の体重は増えていきます。それを上回る体重増加は、浮腫が現れていると考えねばなりません。

▽2番目の症状は、血圧の上昇(高血圧)です。以前のブログで、妊娠の経過が順調なら、妊婦の血圧は妊娠期間の中ごろ(妊娠14-30週ころ)では、妊娠前より低下すると書きました。http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=38627969

▽3番目の症状は、タンパク尿です(尿にタンパクが排出される)。タンパク尿は腎臓の働きの障害を意味します。病気が進行(悪化)していると考えねばなりません。

病気の悪化は、その他の症状として現れてきます。言い換えれば妊婦の体には色々な生理(病態)変化が起こっています。生体防御の反応です。その中には炎症反応の変化も含まれます。



▽かつて名古屋大学在職中、欧州の妊娠高血圧症学会に参加したことがありました。確か、イギリスの有名大学教授の「妊娠高血圧症の病因は炎症」という内容の講演を聴きました。



「おかしい」と思ったので、フロアーから「多数の妊娠高血圧症の治療を経験してきましたが、患者さんが発熱するという事実はありません。仮に原因が炎症なら発熱するのが当たり前ではありませんか」と質問しました。しかし何ら明確な回答はありませんでした。

▽病気の悪化に伴う生体防御の反応を取り上げると、このような滑稽な妊娠高血圧症の炎症説がまことしやかに講演されるのです。



▽妊娠高血圧症の主症状である血圧上昇の究極の変化は「子癇発作」です。急激な血圧上昇で脳内循環が悪化して、意識がなくなり、全身痙攣が起こります。また血液の変化を中心にしたものでは、HELLP症候群と呼ばれる播種性血管内凝固(DIC)が起こるケースもあります。DICは、3つの病態の頭文字を略しています。即ち、溶血(hemolysis)、肝機能悪化(elevated liver enzyme)、血小板減少(low platelets)です。

▽この病態で起こるDICは、主な症状として、出血しやすくなる、または、全身の微小な血管の障害と血管が詰まって肝臓など母体の臓器に障害が現れます。症状が進むと、ショックや稀に出血傾向(溶血性貧血)を伴い大変危険な状態になります。

次回にこの続編を書きます。