▽経口避妊薬(ピル)が早くから使われていた米国やEU(欧州連合)の特定の国々では、卵巣がんによる死亡率が劇的に減っているという論文が、9月6日に発刊された『Annals of Oncology Advace Access』に掲載されました。ただ日本の卵巣がんによる死亡率はさほど低下していません。

 

▽内容に入る前に、少し「統計学」のお話をします。世界の国別の人口や年齢構造が異なっているのはご存知の通りです。死亡率は人口の構成、特に年齢構造に依存します。このため異なる人口の国々の死亡率を比較するには、人口構造による影響を取り除く必要があります。そこで一般的には一定の構成の標準人口を用いて死亡率を標準化します。

 

▽この論文は、まず全ての年齢層が存在する世界標準人口から導かれる直接的な方法を使って女性10万人当たりの年齢層別の死亡率を計算して、国別の死亡率を比較しています。私は、統計学のズブの素人ですが、簡単に言うと、全ての年齢層が存在する世界標準人口という架空の「世界」をつくり、それをベースにして各国の年齢層別の女性10万人当たりの死亡率をはじいているのです。

 

▽話を戻します。論文の著者は欧米の複数の研究者で世界保健機構(WHО)のデータベースから取り出した1970年から2012年の世界各国の卵巣がんによる死亡者のデータを入手して調べています。

 

▽EUでは2002年-2012年に全年齢層()女性10万人当たり死亡率は、2002年の5.8が2012年は5.2に下がっています。2002年-2012年にすべての年齢層(20-49歳、50-69歳、70-79歳)で卵巣がんによる死亡率が9.9%(2002年と2012年の女性10万人当たり死亡率の変化率)下がりました。

 

▽またブルガリアを除く、全欧州諸国でも低下傾向です。主要国の減少率はデンマークの24.6%を先頭に、スウェーデン23.5%、英国20.0%と続きます。ただ欧州全体をみると減少率はばらついています。例えば、ハンガリーの減少率0.6%に対し、その近くのオーストリアは18%、エストニアは28%です。

 

▽欧州以外、北米の米国は減少率15.8%、カナダは8.7%(データは2012年が2011年です)。ラテンアメリカのアルゼンチン6.9%、チリ10.7%。アジア・オセアニアでは香港6.8%、オーストラリア11.8%、そして日本は2.1%です。女性10万人当たりでみると、米国は5.76が4.85に、カナダは5.42が4.95に減っています。肝心の日本は女性10万人当たり3.30が同3.23に低下しています。

 

▽興味深いことに、日本では卵巣がんによる死亡率は歴史的に世界で最も低い国でした。それが、少なくとも若い女性層(20-49歳)の卵巣がんによる2002年の女性10万人当たりの死亡率1.98が、2012年は1.91に下がったにすぎません。この間、米国は2002年の死亡率1.72が1.23に、英国は2.00が1.63に改善されています。これに象徴されるように、日本は若い女性層(20-49歳)では卵巣がんによる死亡率が下げ止まり、海外の大半の国々と逆行しています。

 

▽論文は、その理由について直接言及していません。

 

一方、日本の卵巣がんの罹患率の低さは、ピルの普及率が低かったにもかかわらず、食習慣や肥満女性の割合が低いことが影響しているのではと推察しています。欧米では、ピルの普及が早かったことが食週習慣や肥満にも関わらず、卵巣がん死亡率の劇的な低下につながったのです。

 

2020年の予測として、米国15%、欧州と日本の10%のさらなる卵巣がん死亡率の低下が期待されています。これには当然、日本でのピルのさらなる普及も期待されているかも知りません。