私は、産婦人科医として50年を過ぎました。若いころ、不幸にして若い女性で両側卵巣摘出を余儀なくされた症例を幾多経験しました。40年以上は前の経験で、そのような女性がホルモン補充療法をしないと、あっという間に浦島太郎ではないのですがしわが増えて見た目に明らかに老化するのを患者さんとして経験しました。そのころからこのような臨床体験の上から。HRT(この場合は、若い女性が、手術で更年期?)の必要性さらには安全性を確信していました。

しかし、日本産婦人科医会は2002年、米国NIHが試みた高齢女性へのホルモン補充療法で心血管疾患や脳卒中、浸潤性乳癌を増加させるため危険とする論文が発表されたことから、我々に注意を促す通達を出しました。高齢男性の男性ホルモン剤使用による副作用(心臓発作や脳卒中)への警告と類似することです。

私は、その頃も殆どの産婦人科医が当時ホルモン補充療法を忌み嫌い、罪悪視する環境の中でも、私のクリニックではホルモン補充療法を継続してきました。現在、米国NIHが試みた高齢女性へのホルモン補充療法は危険とする報告は誤っていたと修正されています。

私の女性のホルモン補充療法の長きにわたる経験から、ホルモン補充療法は少なくともバカ売れしている健康食品やビタミン剤よりは、確実に皆様の健康維持の手助けになる手段です。

本年11月の米国内分泌学会の雑誌に以下の事実が報告されました(Journal of ClinicalEndocrinology & Metabolism

HRT実施により、非実施の場合に比べ、骨量だけでなく骨微細構造の改善も期待できるとの研究結果が明らかになったのです。スイス・ローザンヌ地方在住の50-80歳の女性1279人を含むコホート(特定集団を一定期間調査し、疾病の発生率を比較する)による横断研究。

研究グループは同コホートを(1)追跡期間中にMHTを実施した女性(22%)、(2)過去にMHTを実施した女性(30%)、(3MHT非使用女性(48%)―の3群に分類。MHTの骨の健康状態への影響を評価した。評価には二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)による骨密度評価と堂測定値に基づき、骨の微細構造を評価する海綿骨スコア(trabecular bone score)を算出した。同スコアは閉経後女性の骨折リスク予測に用いられる。

 現在のHRT使用女性の海綿骨スコアはHRT非使用女性に比べ上昇していた。全測定部位(腰椎、大腿骨頸部、大腿骨近位部)の骨密度は、現在のHRT使用女性で過去のHRT使用女性・HRT非使用女性に比べ、明らかに増加していた。なお、過去のHRT使用女性においてもHRT非使用女性に比べ、骨密度の増加および海綿骨スコアの上昇傾向が認められた。なをHRTの期間による各種骨評価指標の差は見られなかった。

この研究からHRTは骨量や骨構造をも改善する可能性があること、また、HRT中止後も2年以上は骨へのベネフィットが持続することが示された。