▽切迫早産の治療薬「ウテメリン」が交感神経系に作用する薬であることは、投与された皆さんが心臓の拍動が速くなることからも分かります。交感神経は別名「闘争と逃走の神経」と呼ばれていますが、いくら心臓の拍動が速くなっても、お母さんは「我が子のため」と耐えることもできましょう。

 

▽ところが、何度も申し上げているように、ウテメリンは胎盤を簡単に通過して胎児に作用します。妊婦が子宮の平滑筋に分布する交感神経のβ(ベータ)受容体をウテメリンで刺激されると、生まれてきた子供は、その後どのような精神状態になる可能性があるのでしょうか。2013年6月のブログで詳しく述べましたが、以下は大切な要点に絞って書きます。

 

▽総務省行政評価局が1月20日、「発達障害のある子どもの診断をしている全国の主要な医療機関27施設のうち半数以上の施設が、初診まで3か月以上待たせている」として厚労省に改善を勧告しました。背景には、発達障害に苦しんでいる子供さんたちの増加があります。医療機関で発達障害児の初診まで3ヶ月以上待たされるという話など、以前は耳にしたことがありません。

 

「1.妊娠初期から中期にかけてベータ刺激剤を投与された妊婦から生まれた 新生児と投与されていない新生児を比較すると、ベータ刺激剤を投与された妊婦から生まれた新生児に自閉症の症状がより多くみらました。

2.ベータ刺激剤を長期間投与されていた妊婦から生まれた新生児は、認知機能や運動機能の発達が遅れ、その後の学校での成績も劣ることが明らかになってきました。

3.ベータ刺激剤を投与されていた妊婦が生んだ新生児は、その後の成長に大きな障害を伴う危険性が否定できません。」(参考文献1,2)

 

胎児の危険な薬物への暴露は、一生涯の問題になっていくのです。

 

▽ヒトは神経によって生命活動を維持します。その神経は、自分の意志で動かせる運動神経と動かせない自律神経から成っています。自律神経は、交感神経と副交感神経で構成され、内臓の働きを支配します。胎児期に長期にわたり「闘争と逃走の神経」が刺激されると、その胎児は自律神経のバランスが狂ってしまい、先々まで尾を引いてしまう可能性が十分にあるのです。

 

▽ウテメリンの副作用に苦しんでおられる大勢の妊婦さんたちが、このブログを読んでくださっています。関東の病院に切迫早産で入院中の妊婦さんが、私が提唱する「エストロゲンとプロゲステロンの暫増療法」を自分が入院中の病院でもやってもらえないだろう、かと電話をかけてこられる時もあります。それも1人や2人ではありません。

 

▽大変有り難いことです。ただ「エストロゲンとプロゲステロンの暫増療法」は、日本産婦人科学会は認めていません。しかしながらこの治療法は1昨年ドイツの国際的医学誌に既に掲載されています。その一方で学会は、今や世界でも日本のみの使用になってしまったウテメリンについて、副作用の重さは認識しながらも、放置し続けています。

 

▽昨2016年の出生数は推定96万人-97万人とついに100万人の大台を割り込んでしまいました。もちろん切迫早産治療薬の副作用が、出生数の減少に直結しているとは申しません。ただ1人目の子供を出産した際に切迫早産になって苦しんだお母さんが、2人目の出産を躊躇、断念してしまうケースも少なからずあるでしょう。まして今は高齢出産される妊婦さんが増えています。その分、切迫早産になる確率も高くなります。今年は2017年です。いつまで1986年発売の薬に頼るのでしょうか。

 

参考文献 1.F. Witter et al. Am J Obstet Gynecol 2009; 261(6):553-9

     
2. E. Courchesne et al. J AmericanMedical Association 2011;306(18):2001-10

     
3.S.Mizutani  E. Mizutani ExpClin Endocrinol Diabetes 2015; 123:1-6