▽私たちのNPOが2013年3月に自費出版した『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』(静岡学術出版)で、「ウテメリン」で治療出来ない切迫早産の妊婦さんには「マグセント(硫酸マグネシウム)」という注射液が使用されることを紹介しました。「硫酸マグネシウム」という名前からしても、強烈な副作用が容易に想像できるはずです。

▽名古屋大学の学生だった頃の経験です。産婦人科医として三重県桑名市で開業していた父が、当時のマグセント(マグネゾール)を妊娠高血圧症の妊婦さんに注射する場に居合わせました。15分くらいかけて静脈注射するのですが、始めて間もなく、妊婦さんはしきりと「胸のあたりが熱い」と訴えられます。顔つきはまさに苦悶の表情です。その声を聴き、表情を視て、妊婦さんの心臓にマグネシウム剤が極めて重い負担をかけているのだろうと思いました。

▽その当時の妊婦さんの声や表情を思い起こしながら、最近の妊婦さんのブログを読んでいました。もちろんブログですから、「マグセント」を投与された切迫早産や妊娠高血圧症の妊婦さんの悲鳴が聞こえるはずはありません。ただ学生時代の経験が蘇り、悲鳴が聞こえるような気がするのです。

そのブログ「妊娠32週突入マグセントの恐怖」の一部を紹介します。

▽「今はウテメリンの注射を受けています。ウテメリンでの動悸やほてりが酷い話をしたらなぜかマグセントを入れられました。(ウテメリン併用)

噂のマグセントです。投入開始すぐにサウナに入ったときのような灼熱に。すぐに汗も吹き出したけど、ウテメリンの副作用の動悸やほてりともちょっと違う感じ(ウテメリンと併用してはいるんだけど)。汗が吹き出したのは顔~胸にかけてくらいだった。すぐに頭がクラクラしてきてだるくなり、しばらくすると子宮口付近が熱くなってきた。心臓バクバク、胃のあたりのムカつきそんなこんな感じている間にも、意識が吹っ飛びそうになり、胸も気持ち悪く、「あ、ヤバイ」と危険を察知しナースコール。すぐに来てくれたけど、そのときには呼吸困難に陥り上手く呼吸できず。とにかく息を吸おうとしても自力でなかなか吸えない状態で呼吸困難。私、死ぬのかなんて考えつつ今私が死んだとしても赤ちゃんはなんとか大丈夫だろうかとか、いや、赤ちゃんは私が育てるんだから死ねないとか、呼吸困難の状態を多分一時間位続けてやっと呼吸が落ち着いてきて酸素を外してもらいました。心停止していたかもしれないと思うと恐怖です。何故ならマグセントの副作用にしっかりと心停止も書いてあったから。」

 

▽まさに「マグセントの恐怖」です。半世紀も前、初めて見て驚愕した、あの妊婦さんと同じです。今のようにブログがあったら、あの妊婦さんも、こんな風に書いたでしょう。やるせない気持ちになります。

▽50年以上、私は産婦人科医として臨床の場でウテメリンもマグセントも一切使用せず、多数の患者さんを治療してきました。切迫早産や妊娠高血圧症の妊婦さんに対し、私自身は「エストロゲンとプロゲステロンの暫増療法」のみで対処してきました。

▽しかし、名古屋大学の勤務時代、私は医局員の医師が妊婦さんにウテメリンやマグセントを使うのを黙認しました。『週刊朝日』の2014年11月28日号の記事は、過去への反省を込めて取材に応じた結果です。

2013年5月30日、米FDA(日本の厚労省に相当)は切迫早産の治療で硫酸マグネシウム注射液の使用は5-7日に制限するように勧告しました。

▽ところが薬剤による副作用被害者を救済する医薬品医療機器総合機構(PМDA)や日本産婦人科学会は、FDAの勧告を黙殺し、いまだに使用制限していません。今後、いや今起こり得るかも知れない「マグセント」によるお母さんや赤ちゃんへの副作用の責任をどう考えているのでしょうか? 

▽産婦人科医の間では、切迫早産や妊娠高血圧症の妊婦に硫酸マグネシウムを投与するのは“常識”です。果たしてそれでいいのだろうか。私は、その実態を親しい消化器外科の先生に初めて話しました。その先生は驚き、もっと広く社会に啓発するよう勧めました。これが、NPОを設立し、『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』を自費出版した原点なのです。