▽「ウテメリン」が1986年4月に発売される前、産婦人科医は喘息治療薬「ブリカニール」(テルブタリン硫酸塩)を切迫早産の妊婦さんに広く使っていました。販売元の藤沢薬品(現在のアステラス製薬)MRさんが「産科での使用は適用外使用なので止めてほしい」と何度も現場の医師に懇願していた風景を思い出します。

 

▽今回は、ウテメリンが発売される前の話です。当時、名古屋大学産婦人科の産科主任でした。関連病院の中部労災病院(名古屋市)の医師から相談がありました。「双胎妊娠で切迫早産症状のためブリカニールを妊娠25週から持続して点滴を開始して、投与量を増やしても症状が改善しません。投与量が増えてしまって困っているのですが、どうしたらよいでしょうか」。その医師の訴えは必死でした。 

▽そこでエストロゲンとプロゲステロンを使用するホルモン療法を勧めました。医師は二つ返事でした。妊娠29週から中部労災病院でブリカニールとホルモン療法の併用が始まりました。翌30週になり、妊婦さんは名古屋大病院へ転送されてきました。その後は、名古屋大病院でホルモン療法を継続し、胎盤機能を調べるP-LAPの活性検査を続けました。

▽すると妊娠31週からは、子宮の収縮回数が減って症状が改善し、P-LAPの増加とともにブリカニールの投与量を減らしていきました。妊娠32週には、ブリカニールを中止して、妊娠34週からはホルモン投与量も徐々に減らし、36週でホルモン療法も中止しました。

▽翌37週には自然陣痛が始まり、2415g(アプガースコア8)と2660g(アプガースコア9)の双胎経腟分娩で元気な双子が誕生しました。詳しくは、以下の論文に記載されています。


M. Naruki
S. Mizutaniet al. Med Sci Res 1995;23:797-802


論文に併載されている図を書いておきます。



図の
●は妊婦のP-LAP値の推移、△双胎妊娠時のP-LAP値の推移。○はズファラジン100mg/日持続点滴で治療した切迫早産妊婦のP-LAP値の推移。delivery(分娩)


admission(入院)、Terbutaline
(テルブタリン、ブリカニールの一般名)Progesterone(プロゲステロン、黄体ホルモン)stradiol(エストラジオール、卵胞ホルモン)


※ズファラジン錠(第一三共、イソクスプリン塩酸塩)は10mg錠が現在も妊娠12週以上の切迫早産・切迫流産の妊婦さんに使われることがあります。