▽1986年4月の「ウテメリン」の発売以前、喘息治療薬「ブリカニール」(テルブタリン硫酸塩)が切迫早産の治療に使われていました。心臓への負担が重くなって、「ブリカニール」を使えなくなった妊婦さんに、2つの女性ホルモン(エストロゲンとプロゲストロン)によるホルモン療法を試みて、出産に漕ぎつけた事例をブログNo95で紹介しました。

 

▽予想していた以上の反響でした。しかし、なかなか信じられない方も少なくないようです。その頃、同じ理由で「ブリカニール」を使えなくなった別の2人の妊婦さんにも、ホルモン療法を試みています。その事例も紹介します。

 

▽まず、左図の妊婦さんです。

私が名古屋大学助手で産科主任時代のことです。名古屋大学病院通院中の方です。Admission(入院)の時点で軽症の妊娠高血圧症(収縮期血圧130-140mmHg)でした。名古屋大病院に入院してもらい、安静療法で経過をみました。

切迫早産の症状が現れました。10分間毎に2回痛みを伴う子宮収縮でした。

 

テルブタリン(ブリカニール)の投与を始めて増量していきました。投与量が1日14㎎の時点でホルモン療法を始めました。すると、すぐさまテルブタリンを減量できました。

 

しばらくテルブタリンとホルモン療法の併用で妊娠30週にはテルブタリンの投与を一時中止しました。

 

妊娠32週から33週に少量のテルブタリンを投与し、同時にホルモン療法のホルモン投与量も徐々に減らしていき、34週にはどちらも中止しました。

 

この間、治療方針は子宮収縮とP-LAP値の推移で判断し決定しました。

Delivery妊娠38週で自然陣痛が始まり、体重2875g、アプガースコア9点の元気な男児を経腟分娩されました。

 

●は、この妊婦さんのP-LAP値の推移。○はズファラジン100mg/日持続点滴で治療した切迫早産の妊婦さんのP-LAP値の推移(講座95参考)と対比しています。

 

▽次に右図の妊婦さんです。

上記の方と同じ頃の事で、名大通院中のかたです。Admissionの時点で切迫早産でした。妊娠28週で名古屋大病院に入院。10分間毎に2回痛みを伴う子宮収縮がありました。子宮口も開大していたため、テルブタリンによる治療を始めました。

 

1日当たりの投与量を14㎎で始めたものの、妊婦さんは極端な心悸亢進と不整脈が出始めました。

このためホルモン療法を妊娠29週に開始し、間もなく(1週間以内に)テルブタリンの投与量を減らすことができました。同時に切迫早産の症状も改善されました。

妊娠34-35週には、投与するホルモン量を減らして36週には中止しました。

 

●はこの妊婦さんのP-LAP値の推移。○はズファラジン100mg/日持続点滴で治療した切迫早産妊婦のP-LAP値の推移(講座95参考)と対比しています。

 

妊娠37週に自然陣痛開始し、Deliveryに体重3210g、アプガースコア9点の元気な女児を経腟分娩されました。

 

この2つの症例は英国の雑誌に投稿しています(文献)。

M. NarukiS.Mizutaniet al. Med Sci Res 1995;23:797-802