▽前回No.109 のブログで、朝日新聞の7月18日のデジタル版の記事「妊婦にED( 勃起不全)治療薬、胎児発育不全に効く?」を紹介し、否定的な考えを明らかにしました。ただ根拠を説明していなかったため、イチャモンと受け取られた方がいらっしゃったかも知れません。今回のブログは、その根拠を書きます。

▽記事によると、妊娠マウスにED治療薬のタダラフィルを投与すると、血圧の上昇やたんぱく尿が改善することも分ったことが、妊娠高血圧症の妊婦にタダラフィルを実験的に使うことになった理由とされていました。

▽そこで、その根拠となった論文を少し読んでみました。私がチェック出来ていない論文があるかもしれませんが、読むことが出来た論文から言えるのは次のことです。

▽まず、妊娠高血圧症の病態の記述です。妊婦の胎盤の血流が悪くなり、子宮・胎盤では酸素不足になって胎児の発育が障害される。

つまり、子宮・胎盤の酸素不足が妊娠高血圧症を増悪させるという考え方に基づき、肺高血圧症に有効なED治療薬を妊娠高血圧症のマウスに実験的に投与したら、血圧の上昇やたんぱく尿が改善されたということです。

▽このマウスを使った実験結果から、国内ではヒトの妊娠高血圧症患者に対するED治療薬の実験的な投与が、昨年から続いているのは間違いないようです。

▽さて、妊娠高血圧症の究極の治療法は、妊娠の中断即ち胎児の早期娩出です。手短に言うと、妊婦の子宮内に胎児が生きて存在すること自体が、妊娠高血圧症という病態の本質です。胎盤の血流が悪くなるのは、胎児が生きているからなのです。ここを忘れては、妊娠高血圧症の治療薬は開発できません。

▽2009年に発行された海外の妊娠高血圧症の専門誌に、タダラフィル(勃起不全治療薬)を妊娠高血圧症患者に投与した成績が、掲載されています。タダラフィルを投与すると、母体・胎児に悪影響は見られなかったが、患者の妊娠期間の延長は全く出来なかったと記載されています。

▽この論文は、妊娠24-34週の妊娠高血圧症患者へのタダラフィルの治療を支持しないと明記しています。

▽過去の「女性と妊婦講座」で何度か述べた様に、胎児は45-50mmHgと低血圧です。臍帯(へその緒)の動脈末端は、胎盤の先端で毛細血管となり、その血圧は10mmHgほどです。この部分で、胎児は母体の子宮動脈から吹き出る血液で満たされたプールから酸素をもらう一方、老廃物を排出して命を繋ぐ重要な物質を交換しています。

肺動脈の血圧は25-15mmHgですが、胎児は大変な低血圧状態で、母体から酸素を得ています。妊婦が妊娠高血圧症になると、胎児は、自らを守るために、さらに血圧を上げるための酸素を得る努力を強いられます。

▽その胎児の血圧を逆に下げてしまうのは、胎児をさらなる悪環境下に置くのにほかなりません。タダラフィルは、血管拡張作用があり、血圧を下げます。降圧効果は、一般的な降圧薬ほどないにしても、胎児の環境を改善させるとは到底思えないのです。

文献:Rebekah A et al. Hypertension in pregnancy 28:369-3822009