▽日本を代表する高度専門医療センターの1つ、国立成育医療研究センターが10月11日、「妊娠中に子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン)を経静脈的に長期間使用すると、お腹の赤ちゃんが5歳になったときの喘息有症率が高いことを示唆」とするプレスリリースを発表しました。塩酸リトドリンは、「ウテメリン」という製品名で知られ、広く使われています。

▽産婦人科医として、長年、多くの妊婦さんを治療して参りました。しかしながら、たったの一度も、いわゆる子宮の張り止め薬(塩酸リトドリン)を処方したことはありません。過去のブログを読んでいただくか、オンラインストア「アマゾン」で販売中の『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』を、ご一読いただけば、理解していただけます。

▽プレスリリースが取り上げている危険な薬剤を使用しなくても、ホルモン療法でほぼ治療は可能です。さらに『妊娠中毒症と早産の最新ホルモン療法』やブログで紹介している、開発中の胎盤酵素剤が使用可能になれば、塩酸リトドリンのような危険な薬剤は必要がなくなり、早産も妊娠高血圧症も必ず完治できます。

▽ここで少し塩酸リトドリンの働きを説明します。自律神経の交感神経の末端にノルアドレナリンという神経伝達物質が存在します。この物質が細胞膜上や細胞内に存在するレセプター(ホルモン受容体)にくっつきホルモン作用が現れます。ノルアドレナリンの受容体はββ2があり、β1は主に心臓を刺激し、βは気管支の拡張作用(喘息治療)や子宮筋肉の弛緩作用(早産治療)を示します。ただ、その作用は厳密に区別できません。

塩酸リトドリンは、選択的β2刺激剤とされています。気管支の拡張作用や子宮筋肉の弛緩作用のみに効果があるとされていますが、手足の振戦、心拍数の増加、血糖の上昇、酸素分圧の低下など、β1の作用が著しく現れます。それは、塩酸リトドリンを投与された経験のある妊婦さんなら、誰もがすぐわかります。過去のブログで何度も指摘通り、塩酸リトドリンは紛れもなく喘息治療薬なのです。

▽プレスリリースにも明記されていますが、β2刺激剤は気管支拡張作用のため気管支喘息に使用される半面、長期投与によって気道過敏性の亢進による喘息の増悪を引き起こすことが知られています。β2刺激剤を妊婦に投与して、お腹の赤ちゃんが小児喘息になるとはなんとも皮肉な話です。

 

▽プレスリリースによると、テメリン投与群と非投与群の小児喘息の発生率(オッズ比)は2.04倍。投与期間が20日以上なら2.95倍、累積投与量が1.6gなら3.06倍に達したとしています。また投与された94人の妊婦から生まれた赤ちゃんの13.8%は、5歳時点で小児喘息の患者になっていました。非投与群の5歳時点の小児喘息患者は9.2%だったので4㌽以上も違っていました。

▽過去のブログでは、妊婦に対する塩酸リトドリンの長期大量投与は、小児喘息にとどまらず、若年男性の自殺や医療的ケアー児の増加、拡張型小児心筋症との関連性なども取り上げています。この機会に、併せてお読みいただければ幸いです。