No.114のブログで、「妊娠中に子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン、製品名ウテメリンなど)を経静脈的に長期間使用すると、お腹の赤ちゃんが5歳になったときの喘息有症率が高いことを示唆」とする国立成育医療研究センターのプレスリリースを取り上げました。

 

▽ウテメリンは切迫早産の標準治療薬で国内では妊婦に広く用いられています。交感神経のβ2受容体のみを選択的に刺激し、気管支の拡張作用や子宮筋肉の弛緩作用に効果があるとされています。しかし実態は、手足の振戦、心拍数の増加、血糖の上昇、酸素分圧の低下といった交感神経のβ1受容体を刺激した作用も強く現れます。

 

▽プレスリリースは、妊娠中のウテメリン投与と、その児が5才で喘息が発症することは明らかな関連性を認めたとしています。論文中のコメントでは、「今回の論文は、妊娠中にβ2刺激剤を投与された児の出生後の喘息の増加を世界で初めて報告した」と強調しています。さらに妊娠中にβ2刺激剤を投与された児の出生後の健康問題への影響を報告した論文は3編のみとしています。その3編の論文は、どのような問題を指摘していたのでしょうか。

 

▽驚くべきことに、3編の論文すべてが妊娠中のβ2刺激剤投与とその児の鬱病との関連性を報告しています。まず1編目です。(文献1)。論文を要約します。デンマークで健康と人口登録データからASD(自閉症スペクトラム)と母体へのβ2刺激剤負荷の関連性を報告しています。ASDは一般的に男児が女児の4倍ということが広く知られています。

 

▽1997-2006年に生まれた子供の分析(casecontrol study)では、妊娠中β2刺激剤投与妊婦の新生児で、その児がASD患者(5200人)と正常児(52000人)を比較しています。妊娠中β2刺激剤投与の児は、ASD患者3.7%、正常児2.9%でした。β2刺激剤負荷期間が長いほどASD発症者が多くなっていました。

 

▽この論文からも、妊娠中β2刺激剤投与とその児がうつ病になる頻度が増えるとする多数の論文の存在が明らかになりました。2013年6月3日の私のブログURL:http://livedoor.blogcms.jp/blog/plap/article/edit?id=28814169で紹介した論文も引用されていました。妊娠中β2刺激剤の長期投与とその児のうつ病の因果関係は、かなり知れ渡っているいるようです。他の2編も妊娠中β2刺激剤の長期投与と児のうつ病との因果関係を報告しています。

 

▽さて日本は、こういう危険な薬剤を妊婦に長期投与するのを容認し続けている世界で唯一の国です。初めて知られた方もいらっしゃるでしょうが、これは紛れもない事実です。国立成育医療研究センターという日本を代表する高度医療機関の1つが、危険性を世界に報告した薬剤を、国は何時まで放置するつもりでしょうか?

文献: Gidaya NB, et al. Pediatrics.2016;137(2)