生理痛には○×製薬の鎮痛剤」というテレビCMが流れるのを見る度に、女性の健康をないがしろにする、ふざけたCMと一人で憤っています。なぜなら、生理痛がひどい方の多くは、子宮内膜症の可能性が高いからです。

鎮痛剤で生理痛を楽にすることは、単なる対症療法、即ちその場逃れで、子宮内膜症の発見が遅れることにつながり易いのです。子宮内膜症を知らずに放置すると、将来不妊症の原因となるケースも多く深刻な問題です。

最近、PMS(月経前症候群)という言葉が若い女性の間で独り歩きしています。PMSとは、生理の前になると決まって不快な症状が現れ、日常生活にまで支障をきたします。多くの場合、生理が始まると症状が軽くなり、消失するのが特徴です。

▽PMSの多くは、生理が迫る度に激しい生理痛への恐怖と不安に怯え、心身の変調を来すことによる部分が多いと考えられています。

米国の救急医療の調査では、救急車で運ばれる女性の60%近くは子宮内膜症という調査結果があります。通勤途中の駅のホームでうずくまる女性が、救急車で運ばれる光景を目にされる方もいらっしゃるでしょう。実は、その多くは子宮内膜症の痛みである可能性が高いのです。

 

鎮痛剤で痛みを和らげると、その場はしのげます。しかし女性のQOL(生活の質)を妨げる子宮内膜症の発見が遅くなってしまいます。さらに深刻なのは、子宮内膜症が不妊症の原因になりかねないのです。

▽2カ月ほど前、国際産婦人科学会誌が掲載した英国産婦人科学会の研究グループが発表した子宮内膜症に関する論文を読みました。

研究グループは、スコットランド人の女性281937人を調べていました。母集団の内訳は、腹腔鏡検査で子宮内膜症と確定診断された17834人、「異常なし」と判定された83303人、腹腔鏡による避妊手術を受けた162966人、年齢をマッチさせた一般女性17834人です。

▽検討した結果、子宮内膜症の女性は子宮摘出を含む反復手術を受けるリスクが上昇していました。子宮内膜症の62%は、中央値2年未満に2回目の手術を受けていました。その半数が5.5年以内に反復手術を受け、5人に1人は子宮摘出または片側ないし両側の卵巣を摘出していました。

▽研究グループは、子宮内膜症に伴う疼痛症状や不妊症の改善を目的とした外科処置が増えると考えています。そのうえで①子宮内膜症の根本的な治療はなく、治療は常に症状の管理と妊娠希望のバランスを考慮する必要がある②治療を選ぶ際は、術式を検討する前に鎮痛薬やホルモン治療など全ての選択肢のリスクとベネフィットを話し合う③卵巣や子宮の摘除のような根治手術は一度のみとすべき-と指摘し、外科治療の適応を見直す必要性を強調しています。

▽子宮内膜症は稀ではない婦人科疾患です。論文は反復手術によるリスクの実態に警告を発しています。生理痛が痛いからといって、安易に鎮痛剤に頼りすぎる怖さが分かっていただけましたか?