▽インターネットで切迫早産、妊娠高血圧症の治療を検索していくと、「ウテメリンの副作用」や「ウテメリンの胎児への影響」といったタイトルの妊婦さんの投稿ブログが並んでいます。


▽そのたくさんの投稿から、ウテメリンやマグセントなどの治療薬の副作用に苦しむ妊娠高血圧症や切迫早産の妊婦さんたちの悲鳴が聞こえてきそうです。


▽読み進むと、ほとんどの妊婦さんは
「ウテメリンやマグセントの他に治療薬がないのだから…」と諦めの言葉で投稿を結んでいます。そんな妊婦さんたちに「ウテメリン」や「マグセント」を使わなくても済む代替治療法を発信するため、NPО法人「妊娠中毒症と切迫早産の胎児と母体を守る会(-LAPの会)」を設立し、診療の合間に講座(ブログ)を更新し続けています。

 

▽それでも私たちが微力なため、この治療方法は残念ながら普及しておりません。幾度も紹介していますが、胎児と母体に優しいホルモン治療法が、その代替治療です。既に臨床で使用されている女性ホルモンを使った治療法なので、安全性に問題はないのです。

▽どんな症状の妊婦さんに対し、どのような用量で、どの程度の期間投与すればいいのか、分かっています。それでもなかなか普及が進まないのは一体どうしてなのでしょうか?

 

▽その壁を打ち破るべく、切迫早産や妊娠高血圧症の夢の治療薬の開発を進めています。その端緒になる研究成果を、きたる8月2-3日に岐阜市の岐阜大学サテライトキャンパスで開かれる第24回日本病態プロテアーゼ学会学術集会in岐阜で発表できる段取りになりました。ぜひ、注目していただきたいと思います。

 

▽同学会は、私が名古屋大学助教授時代、プロテアーゼ(タンパク質のペプチド結合を分解する酵素)の研究を通じ基礎医学と臨床医学を結ぶ架け橋として設立致しました。米国テキサス大学M..アンダーソンがんセンター助教授や東京大学応用微生物研究所助教授などを歴任された中島元夫先生をはじめ、東京大学基礎医学分野の先生方のお力添えを得ました。

 

▽妊娠高血圧症や切迫早産の診断と治療の勉強を進めるうちに、産科の臨床現場だけにとどまっていては、妊娠高血圧症や切迫早産を根治する方法に辿り着けないと考えたためです。ならば、医者や大学病院という垣根を超えて、プロテアーゼをキーワードに様々な研究の叡智を集めれば、可能になると判断しました。

 

▽学会は、糖尿病治療薬であるプロテアーゼ阻害剤、オートファジー、筋肉分解酵素カルパイン、抗エイズプロテアーゼ阻害剤、関節軟骨の破壊に関与する分解酵素といった最先端の研究に取り組む専門家が集まっています。職業も、全国の大学や企業の研究者、基礎臨床の医者など多彩です。


▽私が開発したホルモン治療法(エストロゲンとプロゲステロンの漸増療法)は、胎盤が分泌する女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)を妊娠の週数毎に順次増量投与する方法です。


▽少し難しいですが、妊娠中のホルモンと酵素の働きを説明します。胎児は自らオキシトシンやアンジオテンシンといった微量で働くホルモン(ペプチドホルモンといいます)を作り、自らの発育と成長を促しています。

 

▽ところが、オキシトシンやアンジオテンシンが母体側に流れ出ると、オキシトシンは子宮を収縮させ、アンジオテンシンは母体の血管を収縮させ血圧を上げてしまいます。

 

▽つまり胎盤でオキシトシン(1)やアンジオテンシン(注2)の分解(破壊)酵素が作られ、微量で働くペプチドホルモンホルモンが母体に及ばないようにコントロールされ妊娠が正常に進みます。

 

▽エストロゲンとプロゲステロンは、ペプチドホルモンとは異なるステロイドホルモンです。妊娠時は胎盤で酵素と同様、ステロイドホルモンが作られ、妊娠の進行とともにその量は増えていきます。私は、そのステロイドホルモンが酵素を誘導して増やしている事実を突き止めました。


▽ステロイドホルモンが順調に分泌され、妊娠の週数とともに増えていけば、酵素が誘導され、胎児が自身の発育とともに増やしていくペプチドホルモンの母体側での子宮収縮や血圧上昇の働きが抑えられて妊娠は順調に進行します。


ホルモン治療法は、エストロゲンとプロゲステロン製剤を漸増投与しながら酵素を増やし、ペプチドホルモンが母体の子宮収縮や血圧上昇の働きを抑制する治療法です。


▽女性ホルモンが順調に分泌されていないと、酵素が不足してペプチドホルモンが母体の子宮収縮や血圧上昇を促し病態が悪化します。これが、妊娠高血圧症や切迫早産の正体なのです。


▽ホルモン治療法は、女性ホルモン製剤を投与して2つの酵素をできるだけ長く誘導させ続けます。
私の経験では、ホルモン治療法のみで切迫早産は治療でき、ウテメリンやマグセントは不要です。ところが、重症妊娠高血圧症は、恐らく胎盤組織そのものが損傷を受けているためか、ホルモン治療法のみでは妊娠の延長は最大3週間です。


▽極めて安全な治療法ですが、重症妊娠高血圧症では妊娠の維持に3週間という限界があります。この限界の判断は、NSTなどの監視装置では出来ません。妊婦血中の酵素の測定が必須です。


▽講座Nо.22でも述べましたが、
2011年版の産婦人科診療ガイドライン「胎児発育不全(FRG)のスクリーニング」は、生化学的な胎児や胎盤のwell-being((胎児の状態の健全性)検査方法を一切除外してしまいました。

 

このことは、若い医師たちのためにならないばかりか、医師の診察を受ける患者の皆さんの不利益になっているのです。


▽私は、この限界を打ち破るには、酵素そのものを作る以外にないと考えました。何社かの製薬会社に開発をお願いしましたが、断られました。切迫早産や妊娠高血圧症の妊婦さんは数が少なく、治療薬を製造しても儲けは少ないのです。しかも赤ちゃんの数は年々減り続けています。といって、名古屋大学を退官した後、さらなる研究を重ねて自力で薬剤を開発する資金力はありませんでした。


▽そんな八方塞がり状態に陥っていた私を、プロテアーゼ学会の仲間たちが助けてくれました。その仲間たちの一人の研究者が、夢の薬剤の橋頭保を築きました。それを学会で初めて公開するのです。


▽「
アンメットメディカルニーズ」という薬学用語があります。未だ有効な治療法がない疾患に対する医療ニーズのことです。妊娠高血圧症や切迫早産の治療薬が、まさにそれなのです。

「ウテメリン」は喘息治療薬の転用剤です。治療薬としては問題があり、しかも自閉症など、投薬された妊婦さんから生まれた赤ちゃんに様々な後遺症が現れています。「マグセント」はさらに危険な薬剤です。


▽そういう治療はいけないということは、良心のある産婦人科医なら、誰もが知っている事実です。しかしホルモン治療法を進化させた酵素剤は、そんな心配は一切ありません、安全、安心で赤ちゃんと妊婦さんに優しい薬です。


▽残念ながら
一気呵成に市場に出回らせることはできませんが、いよいよ第一歩が始まります。この私の講座(ブログ)を読んでくださる皆さん方の後押し、国や日本産婦人科学会に声を届けてもらう必要性がこれまで以上に増しています。どうかよろしくお願いたします。

 

(注1)母体血中のオキシトシン分解酵素(P-LAP)

(注2)母体血中のアンジオテンシン分解酵素(APA)