▽高血圧の定義は従来140/90mmHg 以上とされていましたが、最近、国の内外で130/80mmHgに変更されました。このことが一部で混乱をもたらしていますが、変更は正しいことが明らかになったとする論文が発表されました。それをご紹介します。

収縮期血圧は、より重要なリスク因子でしたが、収縮期も拡張期血圧も、ともに独立した有害心血管イベント*1)のリスク因子です。高血圧の定義が従来の140/90 mmHg以上であれ、新基準の130/80mmHgであれ、収縮期および拡張期血圧ともに独立した有害心血管イベントという事実は変らず、高血圧の基準を厳密にした新基準は正しい変更であることが、一般外来成人患者130万例を対象に実施されたコホート試験(*2)で示されました。

▽米国カイザーパーマネンテ北カリフォルニア(KPNC)のAlexanderC.Flint氏らが分析した結果です。米医学雑誌NEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)が7月18日号に掲載しました。(文献1)

▽研究は、KPNC(加入者はカリフォルニア州北部を中心に400万人超)の会員データを用いて、一般外来成人患者を対象としました。

▽変量Cox生存分析(*3)によって、8年間の収縮期・拡張期高血圧の有害心血管イベントへの影響の大きさを調べました。解析では、人口統計学的特性と併存疾患について調整しました。

▽収縮期・拡張期高血圧は、それぞれが有害心血管イベントの独立した予測因子になることが示されました。収縮期高血圧は、140mmHg以上の場合で、zスコア(*4)上昇におけるHR(*5ハザード比)は1.18(95%信頼区間[CI]:1.17-.18)でした。拡張期高血圧については、90mmHg以上の場合で、zスコア上昇におけるHRは1.06(同:1.06-.07)でした。

▽拡張期血圧と有害心血管イベント発症にはJカーブ(*)の関連性が認められました。この現象は、年齢や他の因子が関連しますが、特に拡張期血圧がより低い人の高血圧症で顕著でした。

▽つまり拡張期血圧が低い人の高血圧には要注意ということです。この研究対象者では、心臓冠動脈疾患などが少ないのですが、有害心血管イベント発症とJカーブの直接の関係は、心臓冠動脈疾患患者での重要性が示唆されました。

▽実際、血圧管理は収縮期のみでよいという意見があります。しかし一方でイベントに影響するのはそれぞれが別々なため、拡張期血圧も血圧管理に重要なのです。

 

文献1Flint AC, et al. Engl J Med. 2019;381:243-251.

*1.主要心血管イベント:心血管死や非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中からなる複合病態。

*2.コホート研究は疫学手法の1つ。特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡。研究対象疾病の発生率を比較し、要因と疾病発生の関連を調べる。

*3. Cox回帰分析(Cox Regression Analysis)は、患者の「生存/死亡」などのイベントが発生するまでの期間を分析する複数の説明変数に基づいた生存時間分析の手法。要因の影響の大きさは、ハザード比(HR)やその信頼区間によって評価することができます。

*4.Z スコアは、各データ値の平均値からの差を標準偏差で割った数値。スコアがゼロの場合、平均と完全に一致しています。

*5.ハザード比(HR):一方の群を基準にして他方のアウトカム発生の確率が何倍高いかを示します。例えば、100対1のアウトカム発生確率を基準とすれば、100対2のアウトカム発生確率が2倍高い場合、ハザード比は「2」となります。

*6.Jカーブ効果は、短期的な期間、または、ある閾値までは、ある出来事から最終的に予想される変化とは逆方向に変化することを表します。そのグラフの形が「J」の字に似ていることから名付けられました。